2019年03月05日公開
2019年03月05日更新
ゲットアウトをネタバレ解説!傑作ホラー映画のあらすじや伏線・結末は?
第90回アカデミー賞脚本賞を受賞したジョーダン・ピール監督のホラー映画作品『ゲットアウト』はもうご覧になりましたか?映画『ゲットアウト』の知れば知るほどゾッとする伏線や、結末を含むあらすじ、感想などをネタバレも含みつつ徹底解析いたします。映画『ゲットアウト』に仕組まれた人種差別やリベラル問題、そして催眠術にまつわる伏線などを解説しながら考察もご紹介します。ネタバレ項目には「ネタバレあり」と記載しますので参考にしながらご覧ください。
目次
ゲットアウトとは?
2017年に世界を震撼させた映画は多くありますが、その中で監督デビュー作にしてアカデミー賞の脚本賞をはじめ多くの賞に入賞、あるいはノミネートされたホラー映画があるのはご存知でしょうか?映画『ゲットアウト(原題: Get Out)』こそがその曰く付きのヒット映画で、コメディアンのジョーダン・ピールが初めて監督を勤めた作品になります。
本記事では、そんな衝撃作『ゲットアウト』の気になるあらすじや結末、隠された伏線の解説などを、関連する映画なども併せて紹介しつつ感想を添えながらネタバレありでご紹介いたします。
『ゲットアウト』予告編ではアメリカ南部などで古くから続く人種差別問題を匂わせる不気味なセリフ回しと、涙、流れる鼻血などの表現、そして「ゲットアウト(Get out)(出ていけ!)」という囁きが短い緊張感溢れるカットで観客の興味をそそっています。
いったい「"どこ"から"何"が"出ていけ!"」なのか、恣意的に映るシニカルな伏線がどこからどこへ繋がるのかなどを今回はあらすじと併せてネタバレも含みつつご紹介いたしましょう。解説の後ほど感想もご紹介しますので、そちらもお楽しみください。
解説Tips:ジョーダン・ピール
映画『ゲットアウト』の監督を勤めたジョーダン・ピールは、テレビ番組やハリウッド映画を中心に活躍するコメディアン俳優のひとりです。2003年にコメディ番組の『マッドTV!』ではじめてお茶の間に登場し、スクリーンデビューは2007年の『Twisted Fortune』(日本未公開)。その後『ミート・ザ・ペアレンツ3 』(2010)や『キアヌ』(2016)に出演するなどして俳優として活躍していました。
ところが、2017年になんとホラー映画の脚本と映画監督を堂々と勤める快挙を達成し、第90回アカデミー賞脚本賞を初登場にして受賞したのです。コメディアンとして培ってきたキレのある会話劇と、画面の節々に仕組まれた伏線が多くのファンや評論家を魅了し、多くの高評価の感想を世に知らしめています。
『ゲット・アウト』ジョーダン・ピール監督新作ホラー『Us』の最新TVスポットが公開!我々自身=ドッペルゲンガーの恐怖を描く。ルピタ・ニョンゴ、ウィンストン・デューク、エリザベス・モス、ティム・ハイデッカー出演、ジェイソン・ブラム製作、3月22日全米公開 #HIHOnews pic.twitter.com/YCj9wvMnUe
— 映画秘宝 (@eigahiho) March 1, 2019
また、2019年にはホラー映画の新作『Us』の公開を予定しており、こちらもまた映画ファンから期待する旨の感想が多く挙がっています。
ゲットアウトのあらすじネタバレ解説
この章では、伏線を辿るために必要な最低限のあらすじをネタバレを最小限にしつつご紹介いたします。サスペンスホラーを楽しんでいただくために、ネタバレ項目には必ず「ネタバレあり」と記載しますので推理や伏線考察、映画紹介など用途に従って読むようにしてください。
ゲットアウトあらすじ⓪:夜道の誘拐事件
映画『ゲットアウト』は1人の黒人青年アンドレが電話をしながら夜道を歩いているシーンから幕を開けます。あたりは閑静な住宅地のようであり、ごくごく普通の日常的な風景に見えるものの、接触しかけた車から降りてきた「何者か」によって連れ去られてしまうのです。このシーンに登場する「何者か」の姿は独特な覆面のされた「非日常的なもの」であり最初の違和感を観るものに与えるのです。
解説Tips:住宅地と覆面の招かれざる訪問者
アメリカの映画界において家屋系サスペンスホラーの代名詞とも言えるのが「独特な覆面をした殺人鬼」や「見知らぬ隣人」です。銃社会でもあるアメリカで夜道から現れるこういった招かれざる訪問者は多くスクリーンに登場し、その個性的な出で立ちと象徴性から強烈な印象をファンへと届けてくれ、暗澹とした予感をもたらします。
この招かれざる訪問者の代表例としては1963年の『顔のない殺人鬼』やトビー・フーパー監督による1974年の『悪魔のいけにえ』や1978年のジョン・カーペンター監督による『ハロウィン』、それに続くように登場した『13日の金曜日』(1980)、『エルム街の悪夢』(1984)など枚挙を挙げればキリがないほどに象徴化されたホラー要素になっています。
こういった最初の犯行をタイトル前に挟むことで、最初の予感として「誰かが襲われる映画なのだ」というシンプルでわかりやすい伏線が提示されるのです。映画『ゲットアウト』の招かれざる訪問者がどういった姿でどんな手口を使うのかなどは、実際に観てみるのが一番いいでしょう。
ゲットアウトあらすじ❶:黒人と白人のカップル
主人公のクリス・ワシントンは若手の写真家であり、芸術的な才能をみせながら恋人のローズ・アーミテージと細やかな幸せを謳歌していました。2人の目下の問題は、多くの一般的なカップルにもつきものな「両親との顔合わせ」であり、クリスは「自身が黒人であること」「ローズの実家が高級住宅街にあること」を危惧しますが、ローズはこれを「気にしすぎだ」となだめて実家のあるニューヨークへとクリスを誘います。
そしてニューヨークへ向かう道中、ローズの運転する車はシカと激突。立ち寄った警察官に事情聴取される際に「黒人であるクリスに疑いをかけた」ことをローズは憤慨し警察官を追い払います。
ゲットアウトあらすじ②:白人一家とリベラリストたち
ローズに招かれたクリスを出迎えたのは典型的なアッパーカーストの白人一家でした。高級車に広い邸宅、そして老いてなお現役の医者夫婦(神経外科医の父ディーンと精神科医の母ミッシー)と怜悧な長男(ローズの弟ジェレミー)。黒人の家政婦や庭師を抱える家ではあるものの家長であるローズの父ディーンはオバマ大統領を支持しているのだと温和な態度でクリスを迎えるのでした。
また、ローズとその家族はディナーを楽しみながら「一族の者たちと引き合わせたい」旨とともに、ローズは禁煙の助けとして「母ミッシーの催眠療法を勧める」のです。この場面から少しづつ違和感とともに伏線が配置されていきます。例えば、庭を疾走するウォルターなど日常に潜む非日常的な表現、そしてミッシーの催眠療法シーンなどに目が行くことでしょう。
解説Tips:リベラリスト
現代の主義のひとつとして時たま「リベラル主義」という言葉を目にすることがあります。これは原義的な経済の自由主義を指すだけでなく、アメリカで主に語られる場合は「人種差別」や「ジェンダー問題」についても言及される「差異に対して多様性や自由を求める」主義としての意味を強く持ってきます。
特に、黒人であるオバマ大統領が就任中に大学や企業などに向けてに掲げた「人種の多様性を自主的に達成しよう!」という方針や積極的差別是正措置など「racial diversity」(人種の多様性)を重んじており、「ポリティカルコネクトレス(politicalcorrectness)」なども合間って差別に対して「Racist!(差別主義だ!)」と忌避する傾向があります。
映画の世界でもこの問題は度々話題にあがり、2016年には黒人が主人公のヒューマンドラマ映画『ムーンライト』が、2018年にはQUEENのフレディマーキュリーを主人公とした『ボヘミアンラプソディ』が同性愛や出身地の問題などについての多様性を前面に押し出すなど世相的な構えがみられました。本記事では伏線やあらすじにまつわる重要なテーマのため敢えて「黒人」「白人」と表現しますがご容赦ください。
ゲットアウトあらすじ❸:パーティ
一族とクリスとの顔合わせとして、招待客を含めたパーティが開催されます。その場は「ほとんどが白人」であり、それでいながら不自然なまでに「クリスを羨ましがる」のです。特に、盲目の画商であるジム・ハドソンは「クリスの目を羨ましがり」、クリスは普段世間から受けるプレッシャーと真逆のリベラルを通り越した空気に違和感とささやかな危機感を抱きます。
また、会場にいた唯一の黒人招待客ローガン・キングというもまた達観したリベラリストのようであり、クリスは同じ黒人仲間のロッドに自分が見聞きした光景について相談を持ちかけます。ロッドはクリスに対して足元を見ておちょくられているのだと警告するとともに「ローガンの写真を送ってくれ」とクリスに伝えます。
ネタバレありゲットアウトあらすじ④:ゲットアウト!
クリスは周りの人物への不信感からロッドの言葉にしたがってローガンにカメラを向け写真を撮ることにしました。すると、驚くべきことにそれまで穏やかに喋っていたローガンの鼻から「鼻血」が溢れ逆上してクリスに「Get out!(出ていけ)」と叫びだすのです。
ローガンはすぐにミッシーによる催眠療法を受け、クリスはこの言葉に驚きつつもローズの手引きでその場を後にしますが、その背後ではジムを中心として「クリスの写真をその場で競売にかけている」不気味なシーンが写り込むのでした。
ネタバレありゲットアウトあらすじ❺:マウントピースとローズ
クリスはいよいよおかしな雰囲気に猜疑心を引き起こし、ロッドに撮影に成功したローガンの写真をこっそり送ります。その結果、クリスに「ある推察」がもたらされ、帰り仕度をするクリスの目は「ローズの過去」に向けられることになるのです。ローズの部屋から見つけた「多くの写真」が「真相」へと移り変わり、「帰る」という選択をとったクリスに対して、アーミテージ家の人々は「本来の姿」を見せることになります。
ネタバレあり結末あらすじ⑥:ホワイトノイズと手術台
ミッシーの暗示に意識を奪われ気を失ったクリスを待っていたのは、レトロなテレビ機器と歯科用の手術台のような椅子に縛られた我が身でした。当惑するクリスを余所に、ホワイトノイズののちに「何かの紹介映像のような映像」は流れだし、「真相」は「悍ましい真実」へと変わっていきます。
結末の詳細のネタバレはこの章では敢えて省きますが、この映像のなかで語られる真実と歪んだ思想、そして人物名などが伏線として全て回収されていきますのでよく注目していると作品をより楽しめます。
ネタバレあり結末あらすじ❼:白人と黒人のカップルと、脱出へ
手術の結果自分がどうなるのかひと通り映像で知ってしまったクリスは最後の抵抗をはじめます。そのためには暴力も身の振りようも全てを投げ打って一目散に車で逃げてゆくのです。このシーンではまるでゾンビ映画のようにアーミテージ家の人々が狂気じみた挙動で襲いかかってきます。最後には恋人であったローズと揉み合いになり、ローズの首を絞めているところを警察官に見つかることになるのです。
アーミテージ家から逃げた矢先での社会的な偏見にも縊り殺されそうになるクリスですが、ある観点から命からがらローズと別れて警察官に保護される形になるのでした。後述しますが、結末はこれ以外にも用意されており、ポリコレを敢えて真っ向から無視した作風とシニカルな表現が多くの人々の度肝を抜くことになるのです。
ゲットアウトの伏線をネタバレ解説
この章では、映画『ゲットアウト』の伏線についてネタバレを辞さずに詳しく徹底解説します。視聴済みの方向けの章として考察を交えていきますので、未見の方やネタバレは見たくない方はお気をつけください。
ゲットアウトの伏線ネタバレ①タイトルの意味
あらすじの章でローガンが叫んだ「Get out!」を敢えて「出てゆけ!」と訳しましたが、実はというともうひとつ訳が存在します。それは「逃げ出せ!」という訳です。
get out 【句動】
-
外へ出る、出て行く、外出する、逃げ出す、出発する
-
〈話〉消えうせろ!◆【用法】命令形で
切り取ってローガンとクリスのやりとりのみにフォーカスする場合ただ単に無礼を働いたクリスへの「(不愉快だから)出てゆけ!」というのが正しく見えますが、このセリフの多義性こそがダブルミーニングな伏線になっておりそれぞれの意味において以下のように伏線が形成されているのです。どちらの意味でとっても楽しめるのは英語ならではの憎い演出と言えます。
- ローガンがフラッシュの明かりで混乱し元の肉体の持ち主であるアンドレの意識を取り戻してクリスに対して「Get out!(逃げ出せ)」と警告を発した
- ローガンがフラッシュの明かりで混乱し元の肉体の持ち主であるアンドレの意識を取り戻し、真相を踏まえた上で移植された他人に対して「Get out!(出てゆけ)」と呪詛を吐いた
また、上記のふたつの説を提示する根拠として後述の章で詳しくご紹介する「ミッシーによる催眠療法を使った介抱で場が一件落着した」という点が挙げられます。どちらで訳して解釈したとしても、リベラリストたちによる完全に平等で清い世界とは程遠いいびつで支配的な違和感が暗示されるのです。
ゲットアウトの伏線ネタバレ②クリスの職業
クリスの職業はあらすじの章でご紹介した通りカメラマンです。ホラー映画におけるカメラの役割は多岐に渡りますが、映画『ゲットアウト』でもカメラマンだからこそ違和感に対して敏感に対処できかつ「写真を撮ることを躊躇なくさせる」正当性もまた確立できるのです。
すべての写真は事実を正確に写し取る。しかし、その一つとして真実ではない。
(リチャード・アヴェドン)
カメラ(写真)とホラー映画というと『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)などのPOV形式などにおける「画面に映りこむものが真実」という叙述トリックを逆手にとった作品群ですが、ここでも「ガワと中身」の差や「映り得ないもの(=多くの行方不明になった黒人たちと親しくするローズの写真)」への洞察を助けるものとしてカメラマンという職業が光るように伏線が張られているのです。
また、カメラマンという職業のなせる技として映画冒頭のタイトルロールで映し出されるクリスの私室にモノクロ写真でこういった写真を飾り、そして暗示させることも必然性を伴わせることが出来るのです。「黒いマスクを被った白人の少女」は物語の伏線として後半に響いてくるのです。
ゲットアウトの伏線ネタバレ③ローズが警官に詰め寄る場面
ローズの立ち振る舞いについての伏線として、冒頭の警官とのいざこざは見落としがちですがゾッとする伏線のひとつになっています。
事実だけを並べると「黒人であるというだけで住民IDの提示を求められて、彼氏のために憤慨した」というヒロイックで「ああ、人種差別が横行しているのだな」と流してしまいがちなシーンとなりますが、ローズの計画が「身体丈夫な黒人の肉体を使って一族の老いた者を生き永らえさせる」ことであることを踏まえたらどうでしょう?
足取りを辿らせないための巧妙な工作を事も無げに行うサイコパスがハンドルを握っているなどと想像だにしないおぞましいホラーシーンへと早変わりするのです。また、シカ(Deer。劇中に登場するのはブラックバックという種)は「フラれた男」のスラングやKKKが掲げる「粗暴な黒人男性」の象徴でもあり、感傷的になるクリスに対して気にするでもないローズは暗示をたっぷりと含んだ毒そのものなのです。
善人に見える強烈な女性サイコパスの登場する映画というと、代表的なものとしてスティーブンキング原作の『ミザリー』(1990)や大竹しのぶ主演の『黒い家』(1999)などが挙げられますが、間違いなくこのローズも映画史に残る怪物のひとりとして数えられることでしょう。
ゲットアウトの伏線ネタバレ④ローズの父親の案内
ローズの父ディーンは、クリスに対して家族を紹介する流れで昔話を語りながら屋内の写真をクリスに見せます。その際に「陸上が得意だった祖父」と「キッチンが好きだった祖母」がいたと語るのですが、これはそれぞれ登場する黒人の使用人「ウォルター」と「ジョージーナ」の不自然な挙動と通ずるものがあります。
また、「使用人を手放すことができなかった」というセリフもまた、「脳は両親のものなので」という伏線が潜んでいることが後にわかるようになっているのです。ここまで伏線を読み解いていくと室内の鹿のマウントピースもまた見え方が変わってくるでしょう。
ゲットアウトの伏線ネタバレ⑤ジョージナのセリフ
ジョージナはキッチンでクリス達に応対しながら「彼らは私たちに家族のように接してくれる」と話します。これは一見するとリベラルな家柄を表す清い言葉ですが、ジョージナの不自然に盛った髪型やウォルターの夜間にも関わらぬ帽子姿、そして伏線ネタバレ④のディーンのセリフを照らし合わせることでジョージナの正体を推察する伏線セリフへと変わっていくのです。
ゲットアウトの伏線ネタバレ⑥ジョージナの二重人格
ジョージナの登場シーンにはもうひとつ大きな伏線があります。それは彼女が不自然なミスや涙を流すシーンについてです。1度目の違和感はアイスティーを零してしまうシーンで、このシーンではミッシーのスプーンがティーカップに接触し直後にジョージナが紅茶を零すミスをします。これは次章の催眠術に関わる重要な伏線です。
また、彼女の行動には「充電器を抜き去る」⇄「涙を流しながらこの状況を肯定する」など相反するふたつの行動が隣り合わせに存在しています。
ゲットアウトの伏線ネタバレ❼ロッドの推理力
ロッドはクリスの友人であると同時に運輸保安局の職員でもあります。彼はその職業柄の洞察力と「白人から自分たちに向けられる視線」「日常的に行われる差別」へのシニカルな経験則を以ってクリスに対して異常を警告してくれるのです。彼が口にする洞察はリベラルとは対岸の立場から送られる言葉でありこの映画を見る上で対比構造が明確化する伏線なのです。
ゲットアウトの伏線ネタバレ⑧ローガンの正体
ローガン・キングを演じていたキース・スタンフィールドの顔を覚えていないとなかなかピンとこない伏線ですが、ローガンの正体は実はあらすじ⓪でご紹介した黒人の青年であり、そしてフラッシュを焚いて鼻血を出す姿は催眠術看破への伏線でもあります。
ゲットアウトの伏線ネタバレ⑨アーミテージ家の正体
アーミテージ家の正体についての伏線はここまでご紹介した伏線ネタバレ①〜⑧を束ねていく形であらすじ④で登場したジムが象徴しています。クリスに対して「その目が羨ましい」と語り、クリスの顔写真を同席者に見せて競売にかける姿。そして、誰か別の他人に成り代わったような黒人の使用人たち。「Get out!」という叫び。
全ての伏線が集約された先に明かされるのは「体力や知力に勝る黒人のガワを盗んで脳だけ移植することで生き永らえる悪魔めいた一族」の姿でした。画商ジムこそが今回クリスのなかに入ることを希望した人物であり、アーミテージ家の一族はそんな悍ましい望みを叶え組織的に黒人狩りを行う人々だったのです。
解説Tips:アーミテージ
アーミテージ(Armitage)は英語圏の地名や苗字で「隠れ家」という意味を持つ比較的珍しい苗字です。「隠れ家」という名そのものも「黒人の皮を被った白人」という悍ましいイメージに重なるものがありいかにもという印象を与えますが、ここではもうひとつの伏線解説を致しましょう。
アーミテージという音を聞いて、ヘンリー・アーミテイジという名が頭に浮かぶ方も中にはいるでしょうか。彼は『クトゥルフ神話』というパルプフィクション作品のうち『ダニッチの怪』に登場する知恵者です。『ダニッチの怪』は1970年に『H・P・ラヴクラフトの ダンウィッチの怪』として映画化もされており、ラヴクラフトの作品のなかには「脳味噌を取り替えてしまう神話生物(怪異)」の存在なども言及されています。
ゲットアウトの伏線ネタバレ⑫クリスが洗脳から脱出できた理由
皮肉な伏線として、クリスの洗脳を解く鍵になったアイテムは椅子の素材であった綿でした。これを使ってミッシーの洗脳から抜け出すことが出来るのですが、かつて歴史的に大規模な綿栽培に携わることになった黒人を救うのが綿というのはかなりシニカルな表現だという感想もあります。
ゲットアウトの伏線ネタバレ⓭助手席の仮面の意味
あらすじ⓪でご紹介した被り物の正体は実はというと西洋甲冑の兜になります。これはとても恣意的な伏線であり、「黒人を誘拐する西洋甲冑」という図柄はKKKという白人至上主義のカルト集団へと重なっていく伏線なのです。
解説Tips: KKK
KKKとはクー・クラックス・クランと呼ばれる秘密結社で異民族への排他的思想と白人(なかでも北方人種)に対する選民的な思想を掲げています。凶悪な事件も度々引き起こしており、主にアメリカ南部では勢力を強く持っているとされています。白い三角頭巾に燃える十字架を掲げる姿は何処かの映像記録などで見たことがある方もいるかもしれません。
彼らは度々映画にも登場します。最も古い映画ですと1915年の『國民の創生』が存在し、近年だと2018年にスパイク・リー監督によって『ブラック・クランズマン』が公開され話題になりました。西洋甲冑はこのKKKのシンボル的映画である『國民の創生』のポスターに登場しているのです。
ゲットアウトの伏線ネタバレ⓮ゲットアウトの結末に至る伏線まとめ
- クリスが催眠術から逃げ延びる際の手筈(参照:①②⑥⑧⑫)
- ロッドが通報する際の白人警察官とのやりとり(参照:③❼)
- ローズの最後の迫り方(参照:②③④⑨)
映画『ゲットアウト』の結末について注目すべき伏線の終着点と気付くとゾッとするポイントがいくつかありますのでまとめてみましょう。終着点に至る道筋はご紹介しますが推理自体は是非ご自身で映画を観てみてください!
ゲットアウトに登場するMissyの催眠術
この章ではミッシーの催眠術について詳しく解説していきましょう。この章はネタバレが過分に含まれますので、未見の方はご注意ください。
ゲットアウト解説①:睡眠術が始まったのはいつ?
ミッシーの催眠術のトリガーは「カップとティースプーン」を使用した「特定の音」になっています。もちろんそのトリガーを発動させるためのミッシーの話術や他の家族の根回しがあってこその催眠術ですが、非常に強力で映像美も合間って印象に強く残ったという感想が見受けられるほどです。ただし、それは「ミッシー本人から直にかける暗示」であって、クリスのかかった最初の催眠術は別にあります。
それは、あらすじ❶や伏線③でご紹介したシカのひき逃げシーンまで遡ります。実はというとクリスのトラウマのなかには「轢き逃げされて死んだ母親」というのが存在し、このトラウマから喫煙や不安症状など「ミッシーがつけ入る隙」を広げることがローズには出来てしまったのです。
また、この「轢き殺された母親」と「シカ」がリンクしてしまったからこそ結末に至る逃走劇の途上でのクリスの行動もまた制限されてしまい、「ミッシーがかけた催眠術による深い暗示」が「母親の死」や「轢き逃げ」に絡んでいたことが結末まで観きるとわかるようになっているのです。
ゲットアウト解説②:カップとティースプーンの音
次は実際にミッシーが行った催眠術について具体的なギミックについて解説しましょう。ミッシーは解説①でご紹介した通り、カップとティースプーンをかち合わせる独特な音をトリガーとして催眠術をかけ、クリスや他の黒人たちの意識をトラウマの記憶に縛り付けます。
クリスの場合は、「母親の死をテレビの前で見過ごしていた幼い自分」であり他の多くの黒人たちも「社会的な差別によって起きた悲劇」などミッシーが取り入る隙を不本意ながら持っていた可能性が高いと、伏線❼などから考察出来るでしょう。
リラックス状態から、いわゆるフラッシュバックを起こさせることで「正常な判断力を奪い」、ミッシーの意図するものへの「意識の集中を強要し」行動を制する。このフェイズを経てミッシーはクリスに「鹿の轢き逃げ」「母の死」「テレビの前にいた自分」「ティースプーンの音」を関連付けさせ、テレビのなかの光景から目を反らせなくしたのです。
ゲットアウト解説③:カメラのフラッシュ
映画『ゲットアウト』ではカメラのフラッシュによってアンドレ(=ローガン)の意識が一瞬浮上するシーンが登場し、ジョージナもまた充電器を抜き去るなどしてフラッシュを焚く行動を予防しようとします。これが映画中の催眠術の解除方法のふたつ目なのですが、これは効果の確からしさよりは伏線②で解説した「真実」の意味へ触れる行動であるという点にフォーカスさせるための演出ではないかと考えられています。
ゲットアウトのキャスト・登場人物
クリス・ワシントン/ダニエル・カルーヤ
おぞましいアーミテージ家からの脱出劇を見事に生還した「クリス・ワシントン」を演じたのはダニエル・カルーヤです。ロンドン生まれの彼は、2006年のBBCのドラマ『Shoot the Messenger』でお茶の間デビューし、2011年からは映画界にも登場した期待の新星です。
ローズ・アーミテージ/アリソン・ウィリアムズ
そんなクリスに対して這い寄る悪女「ローズ・アーミテージ」を堂々と不気味に演じきったのはなんと映画『ゲットアウト』が銀幕デビューというミュージシャンのアリソン・ウィリアムズ。コメディアンヌでもある彼女の結末を決定づける迫真の演技に多くの人々が釘付けになったのではないでしょうか?
その他のキャスト・登場人物
その他、映画『ゲットアウト』を彩る会話劇と不気味な仕草を熱演しファンを魅了した俳優陣は以下の通りです。
- ミッシー・アーミテージ/キャサリン・キーナー
- ディーン・アーミテージ/ブラッドリー・ウィットフォード
- ジェレミー・アーミテージ/ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
- ロッド・ウィリアムス/リル・レル・ハウリー
- アンドリュー・ローガン・キング/キース・スタンフィールド
- ジョージナ/ベティ・ガブリエル
- ウォルター/マーカス・ヘンダーソン
- ジム・ハドソン/スティーヴン・ルート
ゲットアウトに関する5つのこと
ゲットアウトに関する5つのこと❶:シャイニングのオマージュ
実はというと映画『ゲットアウト』にはスタンリー・キューブリック監督の名作『シャイニング』(1980)のオマージュが込められています。
ひとつはオープニングタイトルの文字色や背景を用いたオマージュで、爽やかな水色と自然豊かな風景はファンの心をドキドキさせもし、そして暗澹とした予感を与えもします。
3分台をご覧ください。ゲットアウト側は現代らしい明るめなBGMからスタートしますが、サスペンスホラー気脈を感じる作りになっています。また『シャイニング』と言えば欠かせない「237号室」という数字の並びも映画『ゲットアウト』には潜んでいます。こちらは結末までじっくりと目を凝らしながら探してみると面白いでしょう。
ゲットアウトに関する5つのこと❷:もう一つのエンディング
映画『ゲットアウト』にはもうひとつのエンディングが存在します。ネタバレは避けますが結末部分を「バラク・オバマが大統領に選出されたアメリカという2017年当時の世相」と「2017年に続発していた警察官による黒人の射殺事件」を反映したシニカルな結末が用意されているのです。
ゲットアウトに関する5つのこと❸:白人リベラル層の深層差別
「オバマ大統領を支持している」と口にしたディーンやリベラル層であることを表明している登場人物は映画『ゲットアウト』には多く登場しましたが、映画で苛烈に語られるテーマのひとつとしてそのリベラル層が持っている深層心理に根付いた差別意識があります。ロッドやクリスの違和感の感じ方、そして警察官たちが象徴的ですが、風刺的なまでに「黒人への風当たりの悪さ」を描いているのです。
ゲットアウトに関する5つのこと❹:奴隷解放
『ゲットアウト』のテーマのふたつ目に挙げられるのは「奴隷解放」です。ロッドの言い放った「性奴隷」という言葉や、白人側からの一方的な搾取の構図と劇中の傲慢な態度、催眠術を使った「強制服従」。そしてジムたちの行っていた黒人オークションなどは黒人奴隷を想起させ、そこから脱出を図り実際に逃げ切ることの出来た結末は奴隷解放のメタファーであるという感想が方々で見受けられています。
ゲットアウトに関する5つのこと❺:ゲットアウトのDVD・ブルーレイ特典
545本目『ゲット・アウト』
— P.Poipoi[オーガ] (@poipoione) February 28, 2019
これまた厭〜〜な映画を観てしまいました…
黒人差別とスリラー/ホラー要素が絶妙にマッチしててゾクゾクした(マジで)
泣きながら笑う女使用人の役者さんが超不気味だし、主人公の恐怖する顔も迫真だったしでとにかく役者が凄い!!
特典とか込みでBlu-rayがオススメ。 pic.twitter.com/fnTfiiSRWR
映画『ゲットアウト』にはDVDやBlu-rayにしかない特典が実はというと存在します。それはいわゆる上記でご紹介した「幻のエンディング」です。
#1日1本オススメ映画
— 西田三郎 (@nishida33336) May 20, 2018
「ゲット・アウト」
レンタルで観たのだが、特典映像の「名探偵登場」もかくやと思えるラストのバリエーションに「もういいだろ!まだあるのかよ!」と言いながら笑えた。「YOYO!いったい白人様はどんな結末だったら納得するんだい?メーン」という素晴らしいブラックジョーク。 pic.twitter.com/Frl6FxKmRO
オーディオコメンタリーによる監督の解説なども収録されているDVD、Blu-ray版は結末も含めて面白いという感想が見られる意欲作です。是非購入してみるといいでしょう!また、ジョーダン・ピール監督は次回作への意欲も語っておりファンの間では今後どのように『ゲットアウト』が展開するか期待されています。
ゲットアウトを観た人の感想や評価は?
『ゲットアウト』の感想:結末を観てから、もう1度…
ゲット・アウト観てきました!!
— ミュウ (@trumpetkigaku) June 10, 2018
定期的にこういうホラーみたいなサスペンスみたいなのが観たくなるんですが、これすごかった、、、!!!
ヴィジットに通づるものがありますね!結末知ってからもう1回観るとああこれもか!!っていう伏線が多くてほんと面白い!!満足、満足👍👍 pic.twitter.com/yzUGyMVGhu
結末を知ることでわかるようになる伏線が多いのも映画『ゲットアウト』の魅力であると語る感想が多く見受けられています。癖になってしまうような「真相を知っていく楽しみ」が映画『ゲットアウト』の結末にはあるのです。
『ゲットアウト』の感想:もう1度観たくなるホラー映画
「ゲット・アウト」
— 帆風 (@hokaze_dayori) March 2, 2019
人種差別を題材にして作られたスリラー映画。
全編通して不穏な空気が流れていてその演出が秀逸だった。
不穏な空気が意味するものは真実に辿り着くまで明かされないのだけど、その衝撃の真実を知ると、それを知った上でまた観たくなるような映画だった。 pic.twitter.com/yYGwymRwMN
映画『ゲットアウト』の不穏な空気感とそこはかとなく記された伏線が最後に結末として集約される様を評価する感想は多く存在します。驚きや恐怖を堪能するとそれ以上深追いしないことがありがちなホラー映画で「もう1度観たくなる」という感想があがるのは非常に緻密な脚本力あってのことなのでしょう。
『ゲットアウト』の感想:圧巻の伏線
『ゲット・アウト』
— ささくれちゃん (@sasakure_Feb) March 3, 2019
「この人たち、皆どこか変…😧」
精神的なホラーとともに、前半に張り巡らされた伏線が回収されていく様は圧巻😳
人種差別がテーマだけど、"実は単純な差別ではない"ところが後半分かってくるとゾッとする!
初監督作品とは思えない素晴らしい仕上がりのサスペンスホラーでした✨ pic.twitter.com/GgojPXIBVK
主題となるリベラルな問題に隠れるように張り巡らされた伏線についてサスペンスものの「紐解かれていく快感」を高評価の感想として述べている方も多く散見されます。絵面として恐ろしい描写はほとんど存在しないのに不気味さでサスペンスホラーとしての優位性を発揮しているのです。
ネタバレあり『ゲットアウト』感想:ネタバレもある?海外版の秀逸なポスターデザイン
ゲット・アウトの海外版ポスター今見たら完全にネタバレですね…笑 pic.twitter.com/GjPwZDBO8y
— 横山良@カクヨム (@SpaceNinjaKamui) February 26, 2019
ここまで記事をご覧になった方や、もう『ゲットアウト』をご覧になった方は嫌でもわかってしまうもうひとつのネタバレヒントが海外版のポスターにあるという感想も存在します。ここで2種類の海外版キービジュアルポスターをご紹介しましょう。
これはアメリカのデザイナーであるジェイ・ショーさん(Jay Shaw)による海外ポスターです。白と黒だけで描かれた画面に黒いマグカップにスプーンを差し入れる白い手。このキーワードもまた映画の伏線とネタバレを宿した巧妙なデザインだと言えるでしょう。
また、同じくアイルランドのデザイナーのマット・タルボット(Matt Talbot)さんのデザインでは、青と紫と黒を貴重にして鹿のマウントピースとホワイトノイズ状態のテレビが配置されています。ポスターに潜む伏線にみなさんお気づきになられましたでしょうか?
ゲットアウトのネタバレまとめ
映画『ゲットアウト』のあらすじや感想、伏線の紹介はいかがでしたか。過分にネタバレを含みましたが解説などを読んだ上で、もう1度関連作品や『ゲットアウト』を堪能するときっと何か気づくことがあるはずです。次回作の続報などに期待しつつジョーダン・ピール監督やサスペンスホラーの世界観に飛び込んでみましょう!