冷たい熱帯魚は実話がモデル？実際の埼玉愛犬家連続殺人事件と映画あらすじを比較

「冷たい熱帯魚」はR18指定でありながら数々の賞を受賞した名作映画です。ですが万人向けではありません。暴力と金とsexを容赦なく描いています。大量の血と肉片、解体される死体など、グロテスクな映像に耐性のない方にはお薦めできません。ですがそれほど凄惨な内容でありながら、多くの賞を取るには理由があります。実話をもとだからこそのリアルな恐ろしさも、それを表現したキャストの実力がなければ陳腐なものになります。

とくに怪演を見せた元お笑い芸人の俳優の、でんでんさんはこの役で役者としての評価を一変させました。おしゃべり好きなだけの優しげなおじさんが、突如として恐ろしい殺人鬼に変わり、恐ろしい命令をする様は、映画を視聴した観客を震撼させました。そこであらすじのまえに「冷たい熱帯魚」の物語を彩る各キャラクターの紹介をしていきます。

主人公、社本信行(しゃもと のぶゆき)。彼は小さな熱帯魚店「社本熱帯魚店」を営む、気の小さな、うだつの上がらない平凡な男です。妻に先立たれ、後妻の妙子と再婚。前妻との間の子、美津子と三人で暮らしています。しかし娘の美津子は継母との折り合いが悪く、万引きをしてしまいます。そこで田村幸雄と出会い、主人公一家は事件に巻き込まれます。実在の人物をモデルにしていますが、終盤の狂い具合は映画オリジナルです。

社本信行を演じるのは俳優の吹越満。1965年2月17日生まれ。青森県出身。多くの舞台、ドラマ、映画で活躍中。代表作は『警視庁捜査一課9係』シリーズ、冷たい熱帯魚。

「アマゾンゴールド」店主、村田幸雄。主人公の「社本熱帯魚店」よりもはるかに規模の大きな熱帯魚店で、3,000種類以上の魚を所有しています。一見ただのおしゃべり好きな気さくなおじさんですが、その本性は守銭奴で、人の運命を巧みに操る恐ろしいサイコパスの猟奇殺人鬼です。美津子の万引きを目撃したことから、美津子を従業員として預かり、社本一家と関わっていきます。

村田幸雄を演じるのは俳優のでんでん。1950年1月23日生まれ。福岡県出身。元お笑い芸人。いかにも気のよいおじさん風の容貌ですが、この映画の快演で一気に役者としての印象を変えました。「冷たい熱帯魚」以外にも「ヒズミ」など他の園子温監督作品に６作出演しています。

主人公、社本信行の若い後妻、社本妙子。夕食は総菜やレトルト食品を電子レンジで温めるだけ。普段から露出度の高い服を着て、うだつの上がらない夫に不満を持っています。後妻であることで後ろめたさを持ち、夫に禁止されたたばこを隠れて吸っていることを村田幸雄に指摘され、慰められるうちに魔の手に落ちていきます。

社本妙子を演じるのは神楽坂恵。1981年9月28日生まれ。岡山県出身。神楽さんは元グラビアアイドルであり、園子温監督の妻です。バーで園子温監督が一目惚れし、「映画に出てください」とオファーを出したそうです。園子温監督の作品にはほとんど出演しています。

主人公、社本信行の長女、社本美津子。実母が亡くなってすぐに父親が妙子と再婚したことを許せず、素行が悪くなりました。家族と食事中でも彼氏に呼び出されて外出したり、万引きしています。村田幸雄に万引きを見られたのが切っ掛けで、「アマゾンゴールド」で働き始くようになります。両親と顔を合わせなくていい職場は、美津子にとっては実家よりも居心地のいい場所でした。

社本美津子役は梶原ひかり。1992年12月21日生まれ。東京都出身。「蒲田行進曲完結篇〜銀ちゃんが逝く」で子役デビュー。連続テレビ小説「まれ」の岡野亜美役で注目を浴びました。

殺人鬼、田村幸雄の妻、村田愛子。いつも露出度の高い胸元も露わなセクシーな服を着て訳知り顔で微笑んでいます。訳ありの女の子達を更生させるために熱帯魚店で雇っています。熱帯魚には興味はありませんが、従業員の女の子達を時に厳しく叱り、積極的に店を切り盛りしています。しかし優しいげな美女の本性は、金のために人を殺す夫の手助けをする、幸雄の妻に相応しい、人を人とも思わない殺人鬼です。

村田愛子を演じるのは女優の黒沢あすか。1971年生まれ。神奈川県出身。「ほしをつぐもの」で映画初出演。「六月の蛇」で脚光を浴びます。

幸雄のビジネスパートナーと紹介されます。ですが投資契約を交わし金銭のやりとりをした直後に、田村幸雄に毒殺されました。「冷たい熱帯魚」での最初の犠牲者で、幸雄の58人目の被害者です。吉田の死が始まりで、吉田の死で殺人鬼の小さな王国は崩壊します。吉田アキオを演じるのは諏訪太朗さん。1954年8月9日生まれ。東京都出身。東映の特撮の脇役としてよく出演しています。

村田幸雄の顧問弁護士、筒井高康。村田幸雄の高級熱帯魚養殖の投資話に被害者となる吉田を誘うなど、殺人に荷担しています。愛子とは肉体関係があり、幸雄をもうダメだと言い、金銭を要求していました。筒井高康を演じているのは渡辺哲さん。1950年3月11日生まれ。愛知県出身。毎年、様々な映画やドラマに出演中。

筒井の部下。筒井の車の運転手や雑用をしています。あらすじ上では重要性のない人物ですが、ユニークな動きが印象に残る役どころです。オオクボヒロシを演じるのは裴ジョンミョンさん。1985年1月18日生まれ。岡山県出身。ドラマや映画で活躍中。

「冷たい熱帯魚」は1993年に起こった「埼玉愛犬家連続殺人事件」をモデルにした映画です。園子温監督の実話の事件をモデルにした「家賃3部作」シリーズの第1作目でもあります。「冷たい熱帯魚」は実話がモデルになっている作品の中でも凶悪なことで有名です。

主人公が犯罪に荷担させられる狡猾な手口、精神的にも追い詰められて落ちていく様がリアルに描かれています。視聴後、実話がもとになっていると思い出すと、誰でも犯罪に巻き込まれる可能性があるのだとぞっとする方が多いようです。

「冷たい熱帯魚」のネタバレを含むあらすじを紹介します。「冷たい熱帯魚」は熱帯魚店が舞台です。主人公の社本信行は小さな熱帯魚店「社本熱帯魚店」を経営しています。死別した妻との間に出来た娘の美津子と、後妻の妙子の三人で、慎ましやかに暮らしています。

妻に先立たれてすぐに後妻を迎えたため、美津子は妙子に反発し、非行に走ります。行信は家庭の不和から強いストレスを抱え、娘の不満を見て見ぬ振りをしてしまったために、美津子はとうとう万引きに手を出します。

その万引きを目撃したのが、熱帯魚店「アマゾンゴールド」を経営する田村幸雄です。幸雄は娘の美津子を「アマゾンゴールド」で働いて更生させるよう提案します。そして巧みに妙子を洗脳し、信行に高級熱帯魚の投資話を持ちかけさせます。

その投資話は罠で、幸雄のビジネスパートナーとして紹介された吉田アキオは、投資契約を交わし金銭のやりとりをした直後に、毒入りドリンクを飲まされて殺されます。行信は何も知らずに幸雄の店で住み込みで働いている、娘の美津子を人質にされ、共犯者に仕立て上げられました。

58人目の犠牲者の吉田を行信は山の教会へ運ばされます。殺人鬼夫婦は死体を風呂場に運ぶと、陽気に笑いながら死体を解体し、肉を川にばらまいて魚に食わせ、遺灰を山に蒔いて「死体（デバー）を透明」にします。恐怖で縛り付けられた行信は、吉田の身内に幸雄のアリバイを証言します。その後、帰宅しようとしたところ、刑事に声をかけられて自体は一変します。

幸雄は刑事に見張られているのに気づき、行信に命じて刑事を振り切ると、自分を切り捨てようとした弁護士の筒居とオオクボを殺し、再び死体を透明にしはじめます。そして幸雄は信行に肉を川に捨てる役目を押しつけ、妻を抱いたと告げます。精神的に追い詰められた信行は、精神のたがが外れたように反撃し、幸雄を滅多刺しにします。

幸雄に乗り移られたかのように暴力に目覚めた信行は、幸雄の妻、愛子に幸雄の死体を処理させます。自分は美津子を「アマゾンゴールド」から連れ出し、自宅に戻ります。そして彼氏のもとへ去ろうとする美津子を殴り、妻の妙子を犯し、決着をつけるために警察に通報してから再び山小屋に向かいます。

死体を処理していた愛子を殺し、警察に保護されて山小屋に来た妻を殺し、娘の前で「人生ってのは痛いんだよ」と叫び、自らの喉を切り裂きます。そしてそれを見た美津子は「やっと死んだ、クソジジイ」と狂ったように笑います。以上が「冷たい熱帯魚」のあらすじです。

「冷たい熱帯魚」は実話をモデルに作られた映画です。実話の「埼玉愛犬家連続殺人事件」では、「冷たい熱帯魚」の主人公である行信に近い人物も実在します。劇中で印象的な「透明にする」という台詞は、実話の殺人犯の言葉です

関根元、風間博子の夫婦が経営するペットショップ「アフリカケンネル」は腕のいい有名なブリーダーでした。しかしバブル崩壊後に高価な血統書付きの犬が売れず、繁殖場などの施設の建設で莫大な借金があり、経営が悪化しました。

そこで愛犬家に「子犬が生まれたら高値で引き取る」などと持ちかけ、実際に持ち込まれた犬に難癖をつけて値切るなど、悪質な商売をしました。顧客とトラブルが耐えなくなり、やがて夫婦の周りから関根夫婦とトラブルを起こした人が消え始めました。

関根夫妻は揉めた客に、犬を処分するためのストリキーネという毒を飲ませて殺しました。遺体をバラバラにすると、ドラム缶で燃やし、山や川に灰を捨て遺体を「透明」にしました。映画「冷たい熱帯魚」のあらすじそのままです。人はいなくなるのに遺体が見つからないため「遺体なき殺人」と呼ばれました。

「冷たい熱帯魚」の村田は実話の関根元を調べ尽くし、よく似せています。関根は映画の幸雄のように、明るくユーモラスで口が上手い、人に信頼されるタイプでした。「冷たい熱帯魚」の劇中に出てくる村田の印象的な台詞は、実話をもとにしたものも多く、中でも「死体を透明にする」という衝撃的な言葉は、人々の印象に深く残りました。

関根があげた殺人哲学の一部です。関根が金銭や詐欺のもみ消しだけでなく、殺人を楽しんでいることか窺えます。騙した相手を言いくるめて油断させ、恐怖で共犯者を縛り付ける手腕はまさにサイコパスの特徴です。事件を調べれば調べるほど、ミステリー小説以上に複雑で、恐ろしい事件だとわかります。

遺体が透明になってしまったため証拠がなく、捜査は難航しました。そこで警察は「冷たい熱帯魚」の主人公のモデルとなる、従業員の山崎永幸に司法取引を持ちかけ、被害者の骨や遺留品を発見し、事件が立証されました。立件されたのは4名の殺人ですが、関根は30人以上を殺害したと供述したそうです。山崎永幸は後に埼玉愛犬家連続殺人事件についての書籍「共犯者」を出版しています。普通の男が恐怖に縛られ、死体を透明にするのを手伝わされる様が、リアルに描かれています。

怪談和尚などと呼ばれる、怪談話を交えて説法することで有名な三木大雲という住職さんがいます。この方はペットショップ「アフリカケンネル」の近くの寺で修行しており、埼玉愛犬家連続殺人事件の犯人、関根と浅からぬ関わりがあります。

三木住職は犬が好きで、同じ関西出身ということで関根と仲良くなり、缶コーヒーを勧められました。その時、関根は缶を複数並べ、その中から一つだけ選ばせました。そして同じやりとりを三度繰り返し、三木住職が関西に戻られた頃に事件が発覚しました。

関根は殺す対象にこだわりを持っていて、その中の一つである「運の悪い奴」を殺すため、修行僧に毒入りと、一本だけ毒のない缶コーヒーを出したそうです。それを三度、三木住職は繰り返し、毒なしを引き当てていたそうです。犯罪の被害者になる人もいれば、このように強運だけで免れる人もいます。関根も三木住職の神がかった幸運に、神仏はいるのかもしれないと口にしたそうです。

実話をもとにし、様々な賞を受賞した「冷たい熱帯魚」。これからTwitterに投降された一般の方の「冷たい熱帯魚」の感想をご紹介します。

でんでんさんの怪演が話題の作品ですが、この方のように最後の「人生ってのは痛いんだよ」の台詞に胸を刺されるような感覚を味わう視聴者を多く確認しました。

「冷たい熱帯魚」を視聴するには、事前の覚悟が必要なようです。物語に引き込まれ、日常に恐怖する感覚を味わえます。

「冷たい熱帯魚」は恐ろしい実話をベースに作られました。実話であるからこそより恐ろしく、リアルな作品となっています。ですがこの映画の魅力は、ストーリーだけでなく、言葉では伝わらない俳優陣の熱演こそが魅力です。ですから、あらすじだけではその魅力を伝えきれません。もし実話の「埼玉愛犬家連続殺人事件」と「冷たい熱帯魚」のあらすじが気になった方は、ぜひ実際に映画をご覧ください。