2018年10月03日公開
2018年10月03日更新
ラストレシピは実話?佐々木充や山形直太朗など登場人物のモデルは実在する?
「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」は2017年公開の日本映画です。主演は二宮和也。「最期の料理人」として死に逝く人から報酬と引き替えに料理の完全再現を行う料理人・佐々木充は中華料理界の重鎮・楊晴明からかつて天皇の料理番を務めた山形直太朗が完成させたという幻のフルコース「大日本帝国食彩全席」の完全再現を依頼されます。其処には楊の過去やレシピに込められた家族の物語があったのでした。「ラストレシピ」は実話のようで実話でない、料理ミステリーという新しいジャンルを開拓した滝田洋二郎の意欲作です。
目次
ラストレシピは実話なのか検証!登場人物のモデルは実在する?
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今回ご紹介するのは二宮和也主演の映画「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」です。中華料理界の重鎮から求められた「大日本帝国食彩全席」の完全再現に二宮演じる佐々木充が挑むというもの。「大日本帝国食彩全席」を巡って現代と1930年代の満州国を舞台に二つの物語が進行するという豪華キャストによる料理ミステリーです。
ラストレシピ現代編登場人物キャストのご紹介
「ラストレシピ」で二宮和也演じる佐々木充は「最期の料理人」と呼ばれる男。「麒麟の舌」と呼ばれる絶対味覚の持ち主であらゆる料理を再現することが出来るという料理人。死に瀕した依頼人から「最期の料理」を受注し、完全再現して満足させ、報酬を得るというのが彼の職業。幼少期に両親を喪い施設で育ち、起業に失敗して多額の借金を抱えています。
「ラストレシピ」で綾野剛演じる柳澤健は大衆中華料理店の店長。幼少期に親に捨てられ、充と同じ施設で兄弟同然に育ちました。充の持つ特別な才能を最初に見抜いた人物です。
「ラストレシピ」で笈田ヨシ演じるのは楊晴明。中華料理界の重鎮。かつて満州国で日本人の料理人が考案した伝説のフルコース「大日本帝国食菜全席」の再現を充に依頼します。
ラストレシピ1930年代編登場人物キャストのご紹介
「ラストレシピ」で西島秀俊演じる山形直太朗は「麒麟の舌」の持ち主。かつては宮内省で天皇の料理番を務めていましたが、「大日本帝国食菜全席」を作成するため満州国へ渡航します。日中戦争開戦の直前に、レシピとともに姿を眩ませます。
「ラストレシピ」で宮崎あおい演じる山形千鶴は直太朗の妻。夫の要望に応えて共に満州に渡ります。特技は写真撮影です。「大日本帝国食菜全席」の作成にも携わります。
「ラストレシピ」で竹野内豊演じる三宅太蔵は大日本帝国陸軍満州国ハルビン関東軍司令部の大佐(後に少将)。日本の威信を諸外国に示すため、山形直太朗を満州へと招聘し「大日本帝国食菜全席」の作成を命じます。
「ラストレシピ」で西畑大悟が演じるのは少年時代の鎌田正太郎。山形直太朗の助手として宮内庁から選抜され、山形夫妻と共に満州に渡ります。
「ラストレシピ」で兼松若人が演じるのは若かりし頃の楊晴明。中国人料理人として雇われて山形直太朗の店で調理助手を勤めることになります。
ラストレシピって?
「ラストレシピ」は田中経一の作家初挑戦作を原作とする映画作品です。監督は「病院へ行こう」「陰陽師」「おくりびと」(米アカデミー賞「最優秀外国語映画賞」、日本アカデミー賞最優秀作品賞)など数々のヒット作を持つ滝田洋二郎監督。主演は吉永小百合と共演した「母と暮らせば」で日本アカデミー大賞最優秀主演男優賞を受賞した二宮和也。
「ラストレシピ」の劇場公開は2017年11月3日で配給は東宝。興行収入は11億円でした。話題となったのは映画のパンフレットに実際に劇中に登場する料理のレシピが掲載されていることでした。
ラストレシピの原作者、田中経一ってどんな人?
日本テレワーク社に属し、後にフリーとなった演出家です。1990年4月から1991年3月まで放送し伝説の深夜番組と称される「マーケティング三部作」(「マーケティング天国」「カノッサの屈辱」「TVブックメーカー」)を手がけて頭角を現します。中でも有名な「カノッサの屈辱」は物事に纏わる歴史(例えば「近世ハンバーガー革命史」(第7回)など)を世界史な手法で俳優・仲谷昇が解説するというバラエティ番組です。
「第二次オイルショック」の影響で節電のため深夜のテレビ放送が休止される時代から、バブル期に向かう時代背景もあって「マーケティング」という新ジャンルをバラエティ番組に組み入れたことが大成功の要因となります。「カノッサの屈辱」は幾度か「特別番組」として復活を遂げてその度に人気を博し、現在も復活を期待されています。
そして「料理の鉄人」誕生という実話。
深夜番組での成功でフジテレビ系列バラエティを手がけることになった田中経一は伝説のグルメ番組「料理の鉄人」を産み出します。俳優・鹿賀丈史を主催とするキッチンコロシアムで各ジャンルの「鉄人」たる道場六三郎(和食)石鍋裕から坂井宏行(フレンチ)陳建一(中華)に我こそはという「挑戦者」が挑み料理人としての腕を競うという番組です。
制限時間内に「お題」となる素材を使った料理を仕上げ、番組アドバイザーの岸朝子とゲスト審査員が試食して採点し、放送回ごとに勝者を決めるというものです。実況担当には福井兼二アナ、解説に服部幸應がついて調理の模様をリアルタイムで視聴させるという斬新な手法の料理番組でした。海外にも輸出され「Iron Chef」のタイトルで知られています。この番組の演出経験が「ラストレシピ」の執筆に繋がります。
ラストレシピのあらすじを紹介
さて主要登場人物もご紹介し、ここからはラストレシピのあらすじを解説致します。果たしてこの物語の登場人物は実在し、モデルも実在するのか?その点についても考えながらあらすじをお読みください。「ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~」のあらすじを最後までお楽しみください。
育ての親の死と「最期の料理人」
児童養護施設「すずらん園」の園長・鈴木太一が亡くなりました。その葬儀の席に佐々木充は現れず、親友の柳澤健は激怒します。その頃、充の姿は老人ホームにありました。山下夫妻の依頼を受けて「島津亭のオムライス」を再現していたのです。死の床にある夫は充の作る料理の味に満足します。妻から報酬の100万円を受け取った充はなんの感傷もなく立ち去ります。充にとってはそれがビジネスでした。
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充と健を知る吉田加奈は健にどうして充が「最期の料理人」になったか尋ねます。15歳で「すずらん園」を飛び出し料理人の道を歩んだ二人は食通を唸らせる名店のオーナーと従業員になります。しかし、料理に一切の妥協を許さない充のやり方は従業員や客の反感を買って店は廃業し充は数千万の借金を背負ったのでした。崖っぷちの人生を歩む充は借金返済のために高額報酬が提示されれば何処にでも行く男になっていたのです。
「大日本帝国食菜全席」
報酬300万円に釣られた充は訪中します。依頼人は中国料理界の重鎮・楊晴明という人物でした。楊が言うにはかつて13年間だけ存在した満州国において中華料理のフルコース「満漢全席」を超える究極のフルコース「大日本帝国食菜全席」というものを作ろうという試みがなされ、楊も其処に携わったのでした。しかし、レシピは山形直太朗という男と共に消息を絶ってしまいます。
山形直太朗はかつては「天皇の料理番」とされた一流の料理人でした。楊から充への依頼とは山形の足跡を辿って「大日本帝国食菜全席」の完全なレシピを再現するという途方もないものです。300万円は手付金に過ぎず、成功報酬は5000万円。充は引き受けたは良いもののなにをどうしたらいいやらと途方に暮れます。
手掛かりを求めて
楊の話を頼りに宮内庁に赴いた充は確かに山形直太朗が在籍していたことを確認します。しかし、昭和8年に退職し満州に渡って以降の足取りは不明です。職員の提案で同期の辰巳金太郎という人物ならばなにか知っているかも知れないと教えられます。充は辰巳を訪ねますが既に故人でした。しかし、婦人は健在で山形直太朗と千鶴夫婦のことをよく覚えていました。辰巳が山形から受け継いだ角煮を口にした充はその味に驚きます。
山形夫妻が満州から引き揚げたという話は聞けず、「あの男」なら戻ったと告げられます。あの男こと山形の助手だった鎌田正太郎は「萃香庵」の店主として健在でした。充は鎌田の許を訪ねます。鎌田は辰巳夫人からの連絡で充の用件は知っていました。鮎を器用に三枚に下ろす技量に充は感心します。しかし、レシピはない。かわりに何故「大日本帝国食菜全席」が作られることになったかについて語ります。
山形の任務、鎌田の任務
山形と鎌田はお国のためにと満州行きを言い渡されます。山形直太朗、千鶴そして鎌田少年は地平線が広がる満州に向けて列車に揺られていました。関東軍の三宅太蔵大佐に会った山形は「大日本帝国食菜全席」の作成が極秘任務であり、その目的が天皇行幸の際に振る舞われるものだと説明されます。資金面は軍が融通し、場所は軍関係者の食堂。スタッフも揃っていました。山形の任務はあくまでレシピ作り。
品目は満漢全席の108品を超えるものだと指定されます。そして、清朝皇帝溥儀の料理番を伯父に持つ楊晴明という青年と引き合わされます。楊晴明の名前が出たことで充は驚きます。そして、当時の楊が「日本人に満漢全席を超える料理など作れるわけがない」と反感を抱いたことを知ります。しかし、楊が昼食を振る舞うと山形は異なるそっくり真似てみせます。
理想と現実
あくる日、楊は山形に再挑戦すべく春巻きを作ります。すると山形は鎌田に何が食べたいか尋ねます。鮎の塩焼きと鎌田が答えると山形は春巻きの皮に三枚に下ろした鮎を包み、西瓜でソースを作ります。そして楊に春巻きを揚げるよう命じます。それが「大日本帝国食菜全席」の記念すべき一品目。鮎の春巻き揚げでした。鎌田老人に差し出された充はそれを食します。「なるほど」と頷く充ですが「塩が利きすぎている」と言います。
山形は次々と料理を完成させます。彼の理想は世界中をあっと言わせる料理。そのため和洋中華すべての技術を注ぎ込みます。満州国は山形の理想でした。山形は洋食店に出向いては新レシピのヒントを探します。しかし、楊は洋食には一切箸を付けません。楊はもともと満州族の漁村に革命であぶれたロシア人がやってきて今度は日本人。現実は支配者が変わっただけと言います。五族協和の理想も頂点は日本人。
「麒麟の舌」を持つ男
山形は取り憑かれたようにレシピ作りに没頭しますが、その過程で楊や鎌田と不協和音が生じます。「塩が利きすぎている」そう告げては楊や鎌田の作る料理を捨てます。自身の料理も「こんなんじゃダメだもっと上を目指さなくては」と捨てるのです。そんな姿を千鶴は見守っていましたが、楊や鎌田にお茶を出して宥めます。「主人は理想が高すぎて周りが見えなくなる」。その言葉に充はドキリとさせられるのです。
楊が山形に伝えたかったのは山形なら中国の伝説にある「麒麟の舌を持つ男」になれることでした。千鶴は写真機を調理場に持ち込み、山形の調理する様子を撮影します。そして、レシピの書き損じも大事にします。料理人でもないお前に何が分かるという山形ですが、「楊くんや鎌田くんなら分かるの?貴方だけ分かっていてもダメなのよ」と言い、写真を貼り付けて誰にでも分かるレシピにします。
112品目
千鶴のアイデアで楊と鎌田の作業が向上します。そんな熱気溢れる調理場を少年が見つめていました。父の鈴木料理長に注意された少年は、父にあの人たちは特別だと言われます。山形は「大日本帝国食菜全席」の品目を季節毎の4種で112品目と定めます。作業はどんどん捗り、楊の意識や常識も変わります。時には失敗しながら進んで行く作業を撮影する千鶴の表情はにこやかですが、お腹は大きくなっていきます。
肉は火を通さなければ食べられない。しかし捌き立ての松阪牛なら生でも食べられます。上手そうに食べる山形と鎌田を見た楊も恐る恐る食べてその味に驚きます。112品目は瞬く間に埋まります。しかし山形はそれで満足しませんでした。候補としての112品目。それをより良いものに変えて行くのです。山形は更に苛酷な料理追求の道を選びます。
千鶴の死と幸の誕生
山形はレシピ作りに煮詰まっていました。身重の千鶴を置いて食材探しに出かけて行きます。満州に厳しい冬が訪れていました。山形は毎晩のように徹夜してはレシピ作りに没頭します。そんな夫の健康を千鶴は案じます。遂に出産を迎えた千鶴は女の子を産み落としますが、無理が祟って衰弱しておりやがて静かに息を引き取ります。山形は何を思ったのか調理場に戻って牛肉を切り出します。
鈴木は「こんなときによく料理なんかしていられるな、貴方は料理人としては素晴らしいが人としては最低だ」と罵ります。楊と鎌田は尚も山形を見続けていました。死んだ千鶴に出来ることは大好きなビフカツを作ることだけ、山形の不器用な愛に共感した楊と鎌田は作業を手伝います。そして鎌田老人は私が話せるのはここまでだと充にメモを渡します。続きが気になったら会いに行けということでした。充は嫌な予感を覚えます。
躊躇い
鎌田の言葉に充は山形直太朗は「とっくに死んでいる」という結論をつけて依頼を断ろうとします。それ以上にまるで自分自身のことを責められているような嫌な感じが付き纏っていました。健はそれより「すずらん園」には行ったのかと問われます。勿論、行ってなどいませんでした。「お前だって親父さんが生きてるうちに会いに行けよ」と充が言うと「俺を捨てた男だぞ。俺の親父はすずらん園の園長だけだ」と切り替えされます。
厨房で包丁を研いでいた充は物思いに耽ります。頭の中で山形直太朗の言葉が繰り返します。「ボクはね一度食べた味は絶対に忘れないんだ」「世界中の人たちが喜ぶ料理を作りたいんだ」「みんなもっと上を目指そう」「料理は進化し続けるんだ」「世界に名を刻むための最後の料理。誰も見たことのないような最後を飾るに相応しい料理」「これはボクにしか出来ない仕事なんだ」。充は鎌田に指定されたハルビンに向かいます。
4年後・・・
充は今や国際観光都市となったハルビンのスラバホテルに向かい、そこでダビッド・グーデンバーグ というロシア人と会います。彼は千鶴の死から4年を経た後、実父ヨーゼフと山形が出会う場面から語り始めます。ユダヤ人歓迎の国際パーティに料理人として給仕することになったヨーゼフは日本人の山形が参加するのを拒否します。しかし、山形が厨房でロールキャベツを作るのにヨーゼフの弟子達は魅入ります。
出来上がったロールキャベツを一口口にした途端にヨーゼフの表情が一変します。今まで食べたことのない味でした。鰹だしでスープを作り煮込まれたそれはロシア料理ではなく日本料理との合作でした。ヨーゼフと山形たちは素晴らしい料理でパーティを盛り上げ、最後に招待客に山形直太朗を紹介します。こうして山形は国際的な料理人となりヨーゼフとは熱い友情で結ばれます。幼いダビッドは幸とよく遊んでいました。
心境の変化
千鶴を失った山形は変わりました。「今までの自分の料理はマズかった。今は幸のために作るから美味しいものになった」。その言葉に充は露骨に嫌な顔をし、「愛があるから美味しくなるなんてそれは堕落だ。なにかを犠牲にして孤独に耐えて血の滲む努力するのが本物だ」と言います。山形直太朗は普通の人間に成り下がったという充にダビッドはヨーゼフたちロシアの料理人たちを唸らせた「ロールキャベツの雑煮風」を出します。
山形とヨーゼフは親交を深め、「大日本帝国食菜全席」についても相談を持ちかけて内容を吟味するようになったのでした。ダビッドは幸だけでなく鈴木料理長の子とも親交します。何もかもが上手く行っているかに思えた時に「事件」は起きるのでした。山形が突然楊を共産党のスパイだと罵り、厨房から叩き出します。更に血相を変えた山形がレシピを手にヨーゼフの許を訪れ、楊への手紙とラストレシピを託すのでした。
「大日本帝国食菜全席」の真実
充が激昂して訪ねて来るのを楊は待っていました。実は全ての真実を楊自身が知ったのは戦後でした。そもそも三宅大佐が「大日本帝国食菜全席」を山形に作らせた目的は毒殺の謀略のためでした。鎌田の本当の任務は山形の監視でした。溥儀が「天皇を毒殺を図った」という謀略のため山形は利用されたのです。このままだと楊の命も危ない。それで「楊にスパイの嫌疑をかけ逃がした」のです。手紙には楊を「親友」と記していました。
山形は鈴木料理長に「幸を頼む」と言い残します。そして三宅たちの試食会の席で「大日本帝国食菜全席」を燃やして投獄され、鎌田に脱走を促されながらも愛弟子の鎌田を守るため三宅に銃殺されます。日中戦争が始まり、対米戦が勃発し、楊が日本人に会うことが出来たのは日中国交正常化以降でした。田中角栄歓迎の料理人に抜擢された楊晴明は日本政府要人とパイプを持ちます。
ラストレシピの行方
来日した楊は鎌田と再会し、一部始終を知ります。そして二人はある女性の許を訪れます。それは佐々木幸という女性でした。山形の一人娘だった幸は鈴木料理長の養女として満州から引き揚げ、佐々木という料理人と結婚しましたが先立たれてシングルマザーとなっていました。二人は幸にレシピを渡します。両親の想い出が詰まったレシピで店を出す。これに皆が協力したのでした。
ところが隣家から貰い火した店は燃え、レシピを持ち出すために店に飛び込んだ幸は命を落とします。そして、幼い充だけが残されました。充を引き受けたのは鈴木料理長の一人息子で幸の義兄だった鈴木太一。彼は児童養護施設「すずらん園」で他の子たちと共に、義理とはいえ甥っ子の成長を見守り続けていたのです。レシピはいつか充が受け継ぐものとして彼の手許にあったのでした。
真相
充の旅はなんのためだったか、それは親友を思う健の言葉から始まります。育ての親の死にも駆けつけない愛を見失った充に祖父・直太朗の辿った軌跡を辿らせる。その上で母・幸が命を掛けて守ったレシピを受け取らせる。そのために太一の葬儀に集まった人々の力を借ります。楊、鎌田、辰巳たちはそれぞれ役割を分担して少しずつ真実を伝える役割を担います。料理人・山形直太朗の思い、佐々木幸の思い、鈴木太一の思い。
太一は充を料理人にだけはさせまいとしました。父の言った通り、「大日本帝国食菜全席」のラストレシピは呪われていました。千鶴、直太朗、幸の命を奪ったその上充まで失いたくない。それでも充は血を争えず料理人となり、直太朗から「麒麟の舌」を受け継いでしまいました。死を覚悟したとき、太一は充に真相と共にラストレシピを渡そうとしましたが果たせなかったのでした。柳澤健は養父の真意を知っていました。
ラストレシピに記された名前
健からラストレシピを受け取った充は最後の頁を見ます。そこには幸が充の好きなビフカツサンドを写真と共に綴ったものでした。充は「すずらん園」の子供たちに料理を振る舞い、太一の好きだったビフカツサンドを祭壇に供えます。そして壱切れを口にして涙します。充は「最期の料理人」失格でした。太一の求めた「最期の一品」を生前に食べさせられませんでした。充は太一にずっと見守られ、心から愛されていたのです。
佐々木充は「最期の料理人」であることをやめ「ラストレシピの継承者」を選び、柳澤健とともにシェフとして復帰を果たします。ラストレシピには山形直太朗、佐々木幸の名が既に記されていましたが其処に佐々木充の名が書き加えられます。こうして親子三代にわたり究極のフルコース、ラストレシピを追求する旅は続くのでした。物語は幕を閉じます。
ラストレシピは実話なのか徹底検証!
さてあらすじは如何だったでしょうか?絶対味覚という「麒麟の舌」を持つ男がそうそう何人もいる筈がありません。性格的にもとても似ている佐々木充と山形直太朗は「明らかに血縁者」ではないかと薄々は気づいた人も居たでしょうが、誰がこの一連の出来事の黒幕かということは分からなかった筈です。
楊晴明さんは格好のフェイクでした。そもそも彼の依頼で始まって彼の処に戻る展開でした。ではこの実話のような物語の中で「黒幕」が仕掛けたヒントに、一体幾つ気づくことが出来たでしょうか?ここからは伏線回収と称して事実確認と各場面を劇中の料理と共に振り返りましょう。
そもそも孤児院育ちの佐々木充が「麒麟の舌」を持つのは何故か?
当たり前の話ですが、「人の味覚」というものは食べてきた物で決まります。そしてそれは幼少期に決まることが多いのです。つまり、「充は小さい頃から美味しいものを食べさせて貰ってきた。それで味覚が養われてきた」ということなのです。つまり、「充は父が健在だった頃は父親と幸が作る料理で、父の死後は幸に、孤児院に入ってからは鈴木太一か鈴木料理長によって養われた」ということです。
そもそも老いた鈴木料理長はなにをしていたか?正解は一人息子が経営する児童養護施設の厨房に居た。何故、鈴木太一は養護施設を経営するようになったか?それは山形直太朗から「食は人を幸せにする」という教えを叩き込まれていたからです。親から捨てられた子供たちがロクな食事を与えられてこなかったというのは実話でしょう。事情が異なるのは充の場合だけ。しかし柳澤健も料理人になります。
何故、楊晴明は佐々木充が腕の立つ料理人だと知っていながら面倒な依頼を与えたか?
ここも実は重要な伏線になります。中国料理界の重鎮である楊晴明はその気さえあれば「最期の料理」など依頼せず、単に充を雇い入れるなどしてまた店をやらせれば良かっただけなのです。しかし、それではまた同じ失敗の繰り返しになる。店を構える気が全く無いことを充自身が依頼を受けた際に語っています。
隔世遺伝で佐々木充の性格は山形直太朗の性格にあまりにも酷似しています。他人を信用しませんし、基本的に「使命」だとか「依頼」だとかのためにしか行動しない人物です。また完璧主義者で、他人以上に自分に一番厳しい人物です。なにかを為すには犠牲が必要だと考え、失ってはじめて失ったものの大きさに気づきます。鎌田正太郎もそうですが、楊晴明は直太朗と同様に充にも変わる切っ掛けが必要だと考えます。
何故、宮内庁職員は他の同期生でなく辰巳金太郎を指定したか?
ここも実は謎だった部分でしたが最後に明らかになる通り、彼もグルでした。元天皇の料理番という山形直太朗の来歴を知るために宮内庁に行くというのは容易に予測出来ることで、わざと辰巳金太郎を指定したのは政府要人とパイプを持つ楊晴明を通じて「山形直太朗の消息を尋ねる者が現れたら辰巳金太郎をおしえてくれ」といったのがどうも実話のようです。
何故、辰巳金太郎の妻・辰巳加奈は角煮を出し、鎌田を「あの男」とさも悪人のように告げたか?
これも伏線で実際に鎌田正太郎は山形直太朗の監視役でした。一見すると善人ですが、実は裏切り者だったのです。この事実を呑み込ませるため辰巳加奈も一芝居打ったのでした。また辰巳金太郎が山形から受け継いだ「角煮」を少々強引な流れで充に食べさせることで、それが充が幼少期に母から食べさせられてきたものと同じ系統の料理だと分からせるためでした。
鎌田からメモを渡されながら渋る充の背中を押したのは?
また聞きであるにも関わらず柳澤健は山形直太朗と佐々木充の類似点を衝きます。そして、たびたび「すずらん園」には行ったのか?と少々しつこいぐらいに言います。実は其処がゴールだと黒幕である健は知っていました。また迷うと自分の店に来るということも親友だから分かっています。
さて、色々と伏線部分を検証すればするほどに巧妙に作られた話だということが分かります。また黒幕による各登場人物への指示も充の性格に合わせています。実話なのだとしたら、あまりにも出来すぎた実話です。
ラストレシピは実話?登場人物のモデルについて
ラストレシピの登場人物にモデルはいて実在するのでしょうか?答えが今すぐ知りたい方は映画「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」のウィキペディアを参照すれば分かりますがオススメはしません。
ただ純粋にそれぞれ豪華キャストが「ラストレシピ」で演じた登場人物たちについてもう一度、一人一人をよく見れば分かります。
大日本帝国食彩全席は実在する?
実在すると言えばしますし、実在しないと言えば実在しません。つまり、映画用に用意された「大日本帝国食彩全席」が唯一無二の存在です。映画用に用意されたレシピなんて美味しいのか?そもそも誰が原作者でしたか?田中経一の名を一躍有名にしたのはなんというバラエティ番組だったか?其処に答えの一端が隠されています。
登場人物のモデルは存在しない!?
山形直太朗のモデル、楊晴明のモデル、鎌田正太郎のモデル、三宅太蔵大佐のモデル。そして佐々木充のモデルは実在する筈がありません。なぜなら通常推理小説の登場人物にモデルを置く筈がないからです。ラストレシピはあくまで料理ミステリーです。「永遠の0」のように実話仕立てにした実話風の作品です。「料理は人を殺すための道具ではない」というのは直太朗の台詞。
ですから、ミステリーですがそもそも殺人事件ではなく充が為そうとしているのは「大日本帝国食彩全席」あるいはそのラストレシピの行方を探すことです。しかし、ラストレシピ探索の旅は充が自身のルーツを辿る旅であり、物語の黒幕は充の才能を一番評価して崖っぷちの人生から救いたいという親友・柳澤健の想いだったわけです。
ラストレシピは実話なのかまとめてみた!
「ラストレシピ」のご紹介もいよいよまとめとなりましたので「実話なのか?実話でないのか?」「モデルは実在するのか?モデルなど実在しないのか?」について答えを開示します。
この写真を記事を書く段階でわざわざここに配置しました。何故か?理由は簡単で左端に服部幸應先生が写っている画像だからです。そもそも原作者の田中経一さんは演出家で「料理の鉄人」も演出していると紹介記事の始めの方で書きました。服部先生は実際「服部料理学校の先生」です。要するに劇中の料理の監修は服部幸應先生です。「料理の鉄人」の解説者でした。
ラストレシピ漫画版
「ラストレシピ」には漫画版も存在します。金田正太郎さんの作画でストーリーは映画と同様に原作者田中経一さんの小説をもとにしています。
ラストレシピは実話か実話でないかのまとめ
「ラストレシピ」は実話ではありません。登場人物にはモデルも存在しません。他人を信用出来ず、他人から愛されていないと思い込み自滅した「麒麟の舌」を持つ男が立ち直るため、祖父と母の想いを継承するために親友に用意された物語でした。ラストレシピが実話であるかどうか登場人物のモデルがいるかどうかは前述した通り、「ラストレシピ」の登場人物の誰ひとりウィキペディアのリンクがないことで分かります。
「ラストレシピ」が実話である必然性は何処にもありません。「永遠の0」もそうですが、登場人物は実在しませんが土台となる出来事や満州国の理想と現実は歴史的事実です。関東軍の将校に傀儡国家化する謀略意図はあったかも知れませんが、山形直太朗のように本気で理想を追い求めた人たちもいた。「五族協和」というスローガンを信じて鉄道や映画に従事した人たちがいた。
実際、満州国では当時最先端の満鉄特急「あじあ」が走っていました。そして満州鉄道こと大陸横断鉄道は広いユーラシア大陸の両端を繋げていたというのは事実で、「あじあ」を作った技術は無駄になることなく、戦後「新幹線」開発に貢献します。物事を善悪論だけで論じると見えなくなる事実があります。「ラストレシピ」はそうした物語です。