新参者シリーズの眠りの森をネタバレ解説！あらすじやキャストは？

1989年に刊行された東野圭吾の小説、「加賀恭一郎シリーズ」の「眠りの森」が、2014年1月に新参者シリーズとして放映された。TVドラマとして放映されたのだが、非常に見応えのある作品だと高評価が多い。特に物語上の刑事、加賀恭一郎と、バレリーナの浅岡未緒の関係、そしてバレエダンサーが踊る舞台のレベルの高さだ。「Kバレエカンパニー」の協力もあり、衣装や音楽、ダンスも本物なのである。

原作とは若干設定や、携帯電話の登場などで変化している部分もあるが、その点はドラマとして自然な形になっており、違和感は特になくなっている。

「新参者シリーズ」とは東野圭吾の小説に登場する刑事「加賀恭一郎」を主人公としたTVシリーズである。「新参者」は2004年に発売され、2013年に文庫本が発売された。「このミステリーがすごい！2010」と「週刊文春ミステリーベスト10」で堂々の1位を獲得した。その中でも「眠りの森」は少し路線を外れた物語である。人気シリーズ「新参者」と比べれば前の話にあたり、恭一郎の父親である隆正も登場している。

「眠りの森」では「新参者」で警部補だった加賀は「捜査一課の刑事」とされており、階級もまだ低かった時代の話になっている。そして、新参者に至るまでの加賀の捜査スタイルや、性格形成の一環となったエピソードでもある。阿部寛演じる加賀のファンの人には逃せない作品である。

捜査一課の刑事、加賀恭一郎（阿部寛）は、山田（仲間由紀恵）と呼ばれる女性と見合いに来ていた。女性から誘われた「高柳バレエ団」の「白鳥の湖」を見に来たのだ。加賀は徹夜明け出会った為、眠ってしまっていた。しかし、黒鳥のダンサー浅岡未緒を見た瞬間その踊りは彼の心に深く刻み込まれたのであった。その夜、高柳バレエ団の梶田コーチから、黒鳥の浅岡に、同僚の葉瑠子が人を殺した、と電話がかかって来たのであった。

現場はバレエ団の事務所の中。見知らぬ男と葉瑠子が倒れており、男性は死亡、葉瑠子は署へと連行された。所轄の刑事太田は正当防衛の線を洗うが、電話を受けて駆けつけた加賀とともにお詰まったバレエ団の人間たちに聴取を行うのだった。争った形跡はあるが、ものを取られた形跡がない。加賀が「お金に変わる大切なものは？」と聞くと、バレエ団の関係者は「ダンサーです」と答えるのだった。

署で取り調べを受ける葉瑠子の言い分は明らかに間違っていた。後ろに立っていた男ともみ合いになったという証言にも関わらず、男は後頭部を殴打され、死んでいたからだ。加賀は葉瑠子がドライブで自分の右膝に怪我を負い、同乗していた浅岡も脳震盪を起こしていたことを証言した。バレエの舞台に立てなかった葉瑠子に、高柳が主役でよかったのか、と問うと、「これでよかったんです」と答えたのだった。

次の日、バレエ団へ聞き込みに来た加賀は、浅岡と高柳の話をし、高柳と次回の舞台「眠りの森」はオーロラ姫が魔法により眠り続け、最後に魔法が解けるとあらすじを語った。そして、若手男性陣の紺野と柳生を紹介するのだった。続けて高柳は、バレエは普通の人間が役になりきるための嘘をついている、と話すのだった。舞台という大きな嘘をついている、舞台が終われば魔法は解ける、と語った高柳の目は真剣そのものであった。

バレエ団の捜査が開始されたが、太田は加賀をやっかみ、何かと突っかかる。加賀は太田がトイレに入っている間、高柳と恋愛御法度のバレエ団の話をするのだった。しかし、演出家の梶田は踊れる期間が限られているバレリーナにとって、その時間は邪魔だという認識なのだ。その帰りに加賀は太田と喫茶店へ寄るが、その際太田からはっきりと、「捜査一課の刑事は嫌いだ」と嫌われてしまうのだった。

被害者に知り合いが現れた。彼女だというのだ。その女性によると、被害者である風間はニューヨークで画家を目指して勉強していた人間だったのだ。不思議なことに風間はニューヨークから帰国すると同時に興味のないバレエを観劇していたのだ。それも一年前の日付であった。バレエ団の人間も風間を知る人間は一人もいなかったのだ。そして、加賀は森井靖子が去年から主役を降ろされたことを知る。

バレエ教師の中野によると、演出家の梶田には理想とする「梶田規格」なるものがあり、それに合わそうと森井は体を絞った結果、異常をきたしていたのだ。そして中野は高柳は梶田にとってバレエダンサーの理想だとも語った。加賀はバレエ団にニューヨーク研修があるのを突き止め、高柳と森井がニューヨークへ研修に行っていたことを突き止めたのであった。

コンビを組むことになった加賀と太田は、風間の彼女から、彼の先輩である青木という先輩がいることを突き止めた。しかし、青木の所在を確かめたところ、彼はなんと最近病死したというのだ。次の日、本番当日の練習で、演出家の梶田が何者かによって毒殺された。ジャケットの背中に毒針の仕掛けがしてあり、容疑者はバレエ団全員出会った。太田は長年の勘からか、「あのバレエ団は全員で何かを隠している」というのだった。

警察では殺人の捜査本部が立ち上げられた。そんな中、練習中に浅岡が倒れてしまう。病院に連れて行くと貧血だという。森井との食事の帰りにも浅岡はまた倒れてしまう。加賀は浅岡を自宅まで送り、対話で絆を深め合うが、浅岡が森井の家に出入りしている事を知ることになる。そんな中、梶田殺害の凶器が「サンドアート」の商品に付属してくる注射器だと発覚したのだ。

加賀は太田と飲みに行き、家族との確執の話をする。お互いに信頼し始めた証拠であった。次の日、森井が梶田殺害の凶器と毒で自殺する。原因は、梶田規格についていけなくなった森井の犯行であった。この件を持って捜査本部が解散されようとしたところ、加賀と太田は異議を申し立てる。聞き込みで森井を訪ねて来たのが風間で、その際「ニューヨーク」と発言したのだ。太田の信頼厚いフォローもあって、加賀はアメリカへ飛んだ。

加賀はアメリカで、太田は日本で聞き込みを進める。すると、太田の調べで森井を訪ねて来た風間に関する新証言と、女性が訪ねて来たという事実がわかった。アメリカでは風間の先輩の青木がアジア人女性に刺され、その事件をきっかけに梶田が、留学中で容疑者だった高柳と森井を連れ戻しに来たというのだ。そして、青木は恋人を待ちつつ、自室で病死していたのだった。

青木の遺品のバレエダンサーの絵から、モデルは森井とされた。風間はアメリカでその絵を見て、彼女をアメリカに連れ戻すと約束していたのだった。しかし、なぜ葉瑠子に殺されたのかまではわからず、警察は高柳をマークするにとどまった。その連絡で加賀はまた浅岡が貧血で倒れた事を知る。浅岡の部屋を訪ねた加賀は、彼女の踊りが「斬り掛かってくる」ほどの殺気を感じたと話す。

加賀はかつての剣道のライバルが命を斗して自分と戦った事を話し、同じ殺気を浅岡の黒鳥から感じたと言うのだった。その帰り道、雨音を聞いていた加賀は全てを悟ったのだった。そして「眠りの森」公演当日、加賀は高柳の楽屋を訪ねたのだった。青木の絵を見せると高柳は血相を変えた。ニューヨークの青木の恋の相手は、高柳だったのだ。3年前のアメリカで、高柳は青木を誤って刺してしまった。

駆けつけた梶田はプリマを守るため、彼の恋人は森井だと嘘をつき。青木もその通りにした。そして思いを託した絵を描き、ニューヨークに来た後輩の風間に「これは森井靖子だ」と言ったのだ。日本に戻った風間は、青木が余命いくばくもない事を知り、彼女を連れて帰ると約束した。風間は何も知らない森井を訪ね、そして、全ての事実を知り、また森井も同じ事実を知ったのだ。そして風間は高柳を訪ね、青木に会うよう頼まれた。

しかし、恋ではなくバレエをとった高柳にとって、それは自分を否定することになる。高柳は風間を後ろから殴ったのだった。そこまで話すと、浅岡が楽屋に入ってくる。この舞台だけは踊らせてほしいとお願いする浅岡と高柳に加賀は待つ事を了承する。そして観劇の間、太田に事の顛末を伝えるのだった。森井は梶田の事を愛していたが、スキャンダルの主役に仕立て上げられ、プリマにもなれず、絶望し、梶田を殺害したのだ。

浅岡は最後まで踊るために、森井に自首は待ってほしいと告げた。それは、浅岡は聴力を失いかけており、これが最後の舞台になるからであった。彼女の耳は葉瑠子の事故により発症したのだ。そして事件当日、高柳に襲いかかっていた風間を、浅岡が背後から殴ったのだ。そして、葉瑠子が事故により浅岡が聴力を失いかけている事を告げ、自分が身代わりになると申し出た。

それを聞いた高柳は受け入れ、三人で嘘をつき、浅岡の最後の舞台を成功させようとするのだった。そして、全力で踊りきった浅岡は万雷の拍手を聞くことは出来なかった。発作により耳が聞こえない状態で踊っていたのだ。そして、カーテンコールに現れなかった浅岡を、加賀は会場の屋上まで追いかけたのだった。そして淵に足をかけていた浅岡を呼び止めると、「あなたの踊りは沢山の人の中に残り続ける」と言った。

しかし、浅岡の耳は加賀の呼び止める声を聞いた後、完全に失われてしまったのだった。雨の中、絶望で泣き叫ぶ浅岡を、加賀はただ抱きしめるのだった。後日、加賀は高柳に「最高のバレエでした」と伝える。そして太田も定年まで勤め上げ、最後に親子関係の助言を加賀に与え、署に戻って行った。加賀は電話を取ると、次の現場へと向かうのだった。

「新参者」で有名な加賀恭一郎を演じるのは阿部寛だ。今回の「眠りの森」で加賀恭一郎のまだ未完成な部分を演じるのは非常に新鮮だと語った。もともとモデル出身であり、バブル時代に大きな借金を抱えた経験があるが、20年かけて完済。粘り強い性格で、かつ幅広い役柄を演じ分ける。「TRICK」シリーズで仲間由紀恵と共演し、その頃三枚目の役を徹底して演じてからブレイク。その後も多数の賞を受賞している。

石原さとみはTC Candlerが選ぶ「世界でもっとも美しい顔100人」に2013年から2017年まで5連続で選ばれるほど、世界に認められた美女である。2002年からドラマ出演、CM、舞台、映画とたくさんの作品に出演する。今回の「眠りの森」では犯人であり、ヒロインの浅岡未緒を熱演。バレエの演技も相まって高い評価を受けた。東京都出身。ホリプロ所属。

トップバレエダンサーを演じるのは音月桂だ。元宝塚歌劇団のトップスターであり、歌、ダンス、芝居と三拍子揃った実力派の俳優であった。もともとバレエを習い事で行なっていたこともあり、作中では非常に綺麗なダンスやターンを見せてくれる。今回の作品には演じていくうちに、キャストとしてどんどん共感できる部分が増えてきたと語っている。

浅岡未緒の親友で、バレエダンサーを演じたのは木南晴夏だ。主人公の友達役としての出演がとても多く、本人も気にしていたが、映画「20世紀少年」に小泉響子役で出演し、瓜二つだと評価されたことで吹っ切れた。以降、主演も助役も勤められる俳優へと成長した。ホリプロ所属。

透明感のある雰囲気が特徴的で、多数のCMや雑誌の表紙を飾っているのは、大谷英子だ。趣味はクラシックバレエと、今回の「眠れる森」ではうってつけの役回りだったようだ。

「眠れる森」ではバレエ演出家の役を演じた平岳大は15歳の時に単身渡米し、コロンビア大学まで進学した秀才だ。テレビドラマと舞台を中心に出演が多く、映画でも落ち着いた大人の役が多い。2016年に父平幹二朗が他界しているが、役者になるのを後押ししてくれた父を嬉しく思っていたとコメントした。

所轄一筋40年の刑事役は柄本明だ。癖のある老人役を演じさせたら他にいないであろうキャラクターが魅力である。もともとはコメディアンの出身であるが、1974年に舞台に出演してから俳優業も行うようになる。今回のキャストの中では、阿部寛、石原さとみについで3番目に出番の多い役であり、加賀恭一郎を信頼し、コンビとして事件を解決する女房役をしっかりと果たした。

ご存知の方も多いだろうが、阿部寛と仲間由紀恵はドラマ「TRICK」で共演した中である。実はこの役でも仲間由紀恵は「山田」という役なのだ。これはファンに嬉しいサービス出演と行ったところだ。

新参者シリーズはもともと人形町を舞台にしていたこともあり、都心がロケの中心になっている。それもあってか、今回の神奈川県民ホールや、高柳バレエ団の撮影場所、松本記念音楽迎賓館なども話題に登った。ファンの間ではこう行ったロケ地巡りを楽しみの一つにしている人もいるようだ。ちなみに、松本記念音楽迎賓館は世田谷区にあり、撮影場所としては結構離れている。

全体を通して、バレエを取り扱ったドラマとして非常に芸術性が高く、物語性を萎えさせない技術があったと評判だ。「Kバレエカンパニー」の直々の指導もあり、役者たちは大変な思いをした、と公式HPでも吐露している。しかし、女性たちは全員バレエの経験者だったこともあり、結果、精度の高い演技となった。原作の中でも「加賀恭一郎の恋」とされている「眠りの森」を扱ったことによるファンの反応は、概ね良いものが多かった。

否定的な意見としては、原作と殺しのトリックが違ったり、細かな設定変更があり、さらに最後のシーンで原作では加賀と浅岡が口付けして迎えるラストが、抱きしめるのみとなっている部分にどうやら不満があったようだ。原作でも「加賀恭一郎の恋」と言われる会であったがゆえに、この部分だけは厳しい評価が多かった。

いかがだっただろうか。この新参者シリーズは、主人公である加賀恭一郎がどこへ行っても「新参者」として軽く扱われつつ、類い稀な推理力で事件を解決に導く部分に非常に中毒性がある。どんな場所にも顔を出し、最後に「ちなみに」と付け加えて一番大切な部分を聞くスタイルなどは「刑事コロンボ」のようだ。そんな中でも今作は、少し感情的な加賀恭一郎を見ることができる珍しい回として非常におすすめである。