ユリゴコロの小説あらすじと感想まとめ!沼田まほかる原作の内容と映画を比較

2011年に刊行された沼田まほかるのミステリー小説『ユリゴコロ』。第14回大藪春彦賞を受賞し、一躍「沼田まほかる」の名を世に知らしめた作品です。また吉高由里子主演の映画『ユリゴコロ』の原作本でもあります。読んだ後にイヤな後味が残ることから「イヤミスの女王」と揶揄されることもある沼田まほかるの代表作を読んでみたいと思っている方、映画を見て原作本に興味を持たれた方も多いことでしょう。そんなあなたが知りたい小説『ユリゴコロ』のあらすじと感想、そして映画との内容比較をじっくりとお届けします!

ユリゴコロの小説あらすじと感想まとめ!沼田まほかる原作の内容と映画を比較のイメージ

目次

  1. ユリゴコロの小説のあらすじや感想が気になる!
  2. ユリゴコロの原作者は沼田まほかるさん!
  3. ユリゴコロの小説あらすじをネタバレ!
  4. ユリゴコロの小説の結末をネタバレ!
  5. ユリゴコロのタイトルの意味とは?
  6. ユリゴコロの原作小説と映画を比較!違いはある?
  7. ユリゴコロの原作小説を読んだ人の感想や評価は?
  8. ユリゴコロ小説あらすじと感想まとめ!

ユリゴコロの小説のあらすじや感想が気になる!

2012年に刊行された沼田まほかるのベストセラーミステリー小説『ユリゴコロ』。熊澤尚人監督が吉高由里子主演で制作した2017年の映画『ユリゴコロ』の原作本でもあります。映画を観て原作本に興味を持たれた方も多いことでしょう。これから、そんなあなたにとって気になる沼田まほかるの小説『ユリゴコロ』のあらすじや感想をご紹介していきます。

映画『ユリゴコロ』オフィシャルサイト

ユリゴコロの原作者は沼田まほかるさん!

『ユリゴコロ』の原作者は、1948年生まれの女性小説家沼田まほかるさんです。沼田まほかるさんは、若い時に結婚、専業主婦として家庭に入りますが、離婚後コンサルタント会社を設立したりと普通の主婦からキャリアウーマンへと転身を遂げます。会社は10年ほどで倒産してしまいますが、沼田まほかるさんは56歳の時処女小説『九月が永遠に続けば』で第5回ホラーサスペンス大賞を受賞し華々しく文壇デビューを飾ります。

沼田まほかるさんはその後も意欲的に小説を発表するものの、ヒット作はなく低迷期が続きます。ところが、2012年今回取り上げている小説『ユリゴコロ』で第14回大藪春彦賞を受賞すると、一躍ベストセラー作家の仲間入りをはたします。沼田まほかるさんは、読んだ後にイヤな後味が残るミステリー作家という意味で「イヤミスの女王」と揶揄されることもあります。

ユリゴコロの小説あらすじをネタバレ!

それでは、さっそく気になる沼田まほかる作小説『ユリゴコロ』のあらすじをネタバレ解説してまいります。まずは、ネタバレなしの物語のあらすじです。

『ユリゴコロ』導入部のあらすじ(ネタバレなし)

喫茶店を経営している亮介は、従業員・千絵との結婚をひかえ、幸せで満ち足りた日々を送っていました。ところが、そんな亮介を次々に不幸が襲います。まず婚約者で店の看板でもあった千絵が失踪すると、次に父親が末期がんとの宣告を受け、さらには母親が交通事故にあって亡くなってしまうのです。

突然の不幸に見舞われ悲嘆に暮れる亮介でしたが、父の見舞いに実家を訪れたとき押し入れで女物のバッグと「美紗子」という名前が添えられた黒い髪束、そして4冊のノートが入った茶封筒を見つけます。ノートにはそれぞれ「ユリゴコロ」という表題が付けられていました。4冊のうちの1冊に目を通す亮介でしたが、しばらくすると彼の顔色が徐々に蒼白になっていくのが見て取れました…。

ノートの題はユリゴコロ

沼田まほかるの原作小説の構成は、ノートに書かれた手記の内容とその後の亮介の行動の2つの柱が交互に現れるようになっています。それでは、早速あらすじをたどってまいりましょう。

ノートの手記は次のようにはじまります。私(美沙子)は小さいころから他とは違う子供でした。母親は心配して彼女を病院に連れていき医師に見せます。小学生になっても人と話しをすることすらありません。唯一、クラスの中心的人物ミチルちゃんだけが美沙子に話しかけ自宅にも招いてくれます。ミチルちゃんの家では井戸に虫を落として遊びます。虫が死んでも心が痛むどころか、安らかな気持ちで満たされていました。

ユリゴコロ最初の体験

ある雨の日、カエルに驚いてミチルちゃんが池に落ちてしまいます。今にもは溺れてしまいそうな状況。しかし美沙子はミチルちゃんが動かなくなるまでじっと見つめていました。虫の時と同じく、心が満たされていく感覚です。命が消えていく瞬間の感覚こそが、美沙子に必要な「ユリゴコロ」だと気づきます。他のクラスメイトや家の人に気づかれないよう、そっとミチルちゃんの家を後にします。

ここまで偶然手にしたノート、ユリゴコロを読んで亮介は考えます。「このノートは何なのだろう?過去の事実なのか、それとも架空の小説なのか。そもそも誰が書いたのだろうか?。母か、それとも父か?あるいは入れ替わる前の母?」亮介は2冊目の「ユリゴコロ」を手に取るのでした。

ユリゴコロふたたび

小説では再びノート『ユリゴコロ』の話に戻ります。美沙子は中学生になりました。周囲の級友たちが恋愛に夢中なのをよそに、彼女の心は「ユリゴコロ」を求めていました。ある日公園で兄妹が遊んでいるのを見ます。妹の帽子が風に飛ばされ道路わきの側溝へと落ちったので、兄は通りがかりの若い男の力を借りて帽子をとろうとします。もう少しで手が届きそうなところで、側溝の蓋を持ち上げる男の力も限界に近づいていました。

美沙子は彼らに近づき手伝うように見せかけ、若い男の持つふたを押します。蓋は下に落ち、兄は側溝に頭を突っ込んだまま蓋に押しつぶされて絶命しました。全ては「ユリゴコロ」のためでした。

実際には「ユリゴコロ」などという言葉はありません。幼い美沙子が、母の「拠りどころ」と言うことばを聞き間違えたです。しかし、美沙子にとってはあくまで「ユリゴコロ」なのです。美沙子にとってのユリゴコロとは「誰かの命が消えていくときに生じる不思議な感覚」でした。

父が帰宅したため亮介はノートを元の場所に戻します。書いたのは父ではないか?という疑念が亮介に浮かびます。そうなら父は、前の母や今の母を相次いで殺したのかもしれません。亮介はノートのことを弟、洋平に話しますが、彼は取り合おうとしません。弟と今の母には外見などに共通点があるけど自分にはないことに気づきます。亮介はわけがわからなくなりました。弟に父を連れ出してもらうと、亮介は再びノートを読み始めます。

みつ子との出会いと別れ

美沙子は高校卒業後、専門学校へ進学します。そこで出会ったのがみつ子でした。みつ子は拒食症でリストカットを繰り返していました。みつ子は美沙子のはじめての友人になりました。みつ子のために手料理を食べさせたいと思ったり、リストカットを止めさせたいと思う反面、美沙子はみつ子を殺したいという衝動を抑えることができませんでした。

美沙子は、みつ子や自分に言い寄ってきた男を手にかけますが、彼女の「ユリゴコロ」を満足させることはできませんでした。誰かれ構わず殺せばよいということでもなかったのです。そして、突然2人の別れがやってきます。ある日美沙子は、リストカットの常習者みつ子の手首を切ってあげます。しっかりと深く切りました。美沙子は満たされた気持ちでいっぱいでした。そしてみつ子が冷たくなるまで、一緒にそばにいてあげました。

文章の特徴から、亮介は作者が女だ確信します。はたしてそれは母なのでしょうか?だとすると、以前の母は今の母によって消されてたことになります。このノートは、この部屋にあったのだから当然父も知っているはずです。「いったい、なにがあったのか?」、釈然としないまま亮介は3冊目の「ユリゴコロ」を読み始めました。ノートの出だしで、2冊目との間に大きな時間的な開きのあることが読み取れました。

美沙子は一旦は就職したものの、社会人生活に適応できず1年で退職を余儀なくされます。その後、生活費もままならない美沙子は、体を売って生活するようになります。突発的に客を殺してみますが、ユリゴコロが満たされることはありません。美沙子にとって大切な人しかユリゴコロの対象にはなり得ないのです。

美沙子は「アナタ」に出会いました。美沙子に関係を迫るわけでもなく食事に連れて行ってくれるアナタは、美沙子にとって特別な人になりました。ある夜、アナタは美沙子に「むかし子供の命を奪ったことがある」と告白します。なんと美沙子が中学生のとき側溝のふたを持っていた若い男こそアナタその人だったのです。アナタの人生は、美沙子のせいで一変していました。

アナタは、あの事件以来性的不能者になりました。アナタと出会ってからも美沙子は客をとり続け、遂に妊娠してしまいます。「結婚して、一緒にお腹の子を育てよう」とアナタが言います。アナタは一人の子供の命を奪った罪滅ぼしに、新しい子供の父親になろうとしていました。それから、美沙子たちは結婚し新しい家に引っ越します。アナタは生計を立てるため就職します。ある雨の日に美沙子は、男の子を赤ん坊が産み落としました。

まもなく父が帰ってくるというので、亮介は3冊目のノートを家に持ち帰ることにします。これまで読んでわかったことを整理してみます。まず、作者が「アナタ」と呼ぶ男は父のことでしょう。ただ、問題は書き手が誰かというでした。母か、それとも以前の母なのか、判然とはしません。亮介は「ユリゴコロ」の続きを読み始めました。

アナタは赤ちゃんを大変可愛がり、美沙子もまた赤ちゃんを見ていると「楽しい」という感情が芽生えてくるのを覚えました。さらに変化は表れます。アナタが美沙子を抱くようになったのです。今まで感じたことのない、ユリゴコロと同じくらいの幸福感を美沙子は感じました。アナタの強い要望で両親の家にあいさつにいきます。両親を早くに亡くしたアナタも、男の子のいなかった美沙子の両親も、どちらも幸せそうでした。

亮介は思いにふけります、「この赤ん坊は自分かな?」と。4冊目に進みたいのですが、1週間先でないと実家には行けません。そんな時、亮介は話があると言う細谷と向き合います。細谷の話は意外なものでした。「千絵ちゃんのこと、だいたい分かりました」。細谷は休みを利用して千絵を探していたとのことでした。「千絵ちゃん、夫のところへ戻ったようです」。衝撃の事実でした。千絵は結婚していたのです。

結婚後暴力を振るうようになった夫を逃れてたどり着いたのが、亮介の喫茶店だったのです。まだわからないけど、千絵の住所は必ず突き止めると細谷は誓ってくれました。一方、弟からも連絡が入ります。謄本を確認したところ、母・美紗子には英実子という妹がいたことがわかったのです。英実子は失踪人扱いとなっており、戸籍からは抹消されています。「はたしてこの人が本当の母なのか?」、新たな疑問が頭をもたげます。

1週間後、亮介は最後の「ユリゴコロ」を読み始めました。ある日美沙子は昔の職場の同僚にばったり会います。なぜか元同僚は美沙子の犯罪について知っていました。美沙子はごまかしてその場を去ります。ところが、しばらくして家に刑事が訪ねてきます。例の元同僚が通報したのです。美沙子は何とか切り抜けますが、その時アナタに嘘をついてしまいます。アナタに嘘をついた罪の意識は、他のどんな事よりも美沙子を苦しめました。

「いっそのこと、この子を手にかけてしまおうかしら」美沙子は考えます。そうすれば、アナタはきっと私を亡き者にしてくれるでしょう。美沙子には、それが救いのように思われました。私がいつかまた生まれてきてアナタに抱かれることがあるとしたら、今度こそアナタの本当の子供を産みたい、そう思ったのです。

ノートを読み終えた亮介は父に尋ねます。「僕を生んだのは、このノートを書いた人でしょう?」。父は頷きました。父も母も祖父母も、みんなで亮介を騙していたです。「英実子というのが僕の実の母親なんでしょう?」。父は否定します、「お前を生んだのは美紗子だ。あのノートを書いたのも美紗子だ」。

さらに父親は続けます。「先日亡くなった母さんがほんとうは英実子だ。お前を産んだ美紗子の妹だよ。英実子は年齢を偽って、ずっと姉の美紗子として生きてきた」。「では殺されたのは?」と訊く亮介に父は絞り出すように言葉を発しました、「美紗子」。段ボールの黒い髪束は美紗子の遺髪でした。父は「ユリゴコロ」ノートに書かれていない続きを語りだしました。

父が語る衝撃の結末

それが起きたのは、美紗子と幼い亮介が祖父母の家に泊まりに行った時のことでした。夜起きると美紗子と亮介がいないのに気づきます。家族みんなで探したところ、川に流されている美紗子と亮介を見つけました。美紗子の手首には切り傷がありました。息子を手にかける前に自ら命を絶とうと考えたのでしょう。幸い2人とも命に別状はありませんでした。しかし、妹の英実子が、その時姉の書いた「ユリゴコロ」を読んでしまったのです。

実の姉が大変な犯罪者であることを知ってしまった英実子は、義兄や両親と話し合い、以下の結論に達します。自首させても閉所恐怖症の美沙子は牢屋で罪を償うことなどできない、いっそのことすべてを終わりにすべきだ、と。その大役は両親が負うことになりました。睡眠薬で美紗子を眠らせたうえで手足を縛り、さらにおもりの石をくくりつけてダムに沈めたのです。

その後は成り行きで、英実子が美沙子に代わって母親役をすることになりました。英実子は、密かに亮介の父(義兄)に好意を持っており、結果として姉から夫を奪ったことに罪悪感を感じているようでした。父は亮介に、育ての母の優しさだけを覚えていてほしかったと言いました。「今の母さん(英実子)のなかに美紗子も生きていた」とも。父は疲れ果てたようすで「続きはまた今度」と言い口を閉ざしてしまいました。

その2日後、細谷は再び千絵を探しに出かけました。そして細谷が帰ってきたとき、痩せてボロボロになった千絵が一緒に現れます。亮介は衝動的に千絵を抱きしめます。「ごめんなさい」やっと聞き取れる弱々しい声でした。亮介は抱きしめながら千絵に言いました。「もう、どこへも行くな」
 

千絵が休養を取っている間に、亮介は細谷から何があったのかいきさつを聞きました。千絵の夫・塩見哲治は、ヤクザからの借金返済のため千絵を無理やり働かせていたということでした。千絵は自分の意思表示さえできず、塩見の言うがままになっていました。亮介は塩見に対し殺意を抱きます。その止めどなくあふれてくる衝動は、どこからくるのか彼にもわかりませんでした。

亮介は千絵を守るためなら、塩見を殺すことぐらい何でもない気がしました。「そんなことを考えてはいけません」細谷が眉間にしわを寄せて亮介をにらみます。千絵はいかがわしい写真をネタに塩見に脅迫されていました。塩見はいずれ今いるこの場所を見つけることでしょう。その時、塩見から電話にが入ります。百万円を持ってくれば例の写真のネガを渡すという内容の電話でした。亮介は塩見を亡き者にする覚悟を決めます。

亮介は、指定された場所に時間どおりにたどりつきます。塩見の車が目に入りました。亮介は、助手席に乗ってから包丁で刺すというイメージトレーニングをしていました。その亮介が車に近づいて見ると、中には誰も乗っていません。そしてシートにはまだ新しい大量の血が染みついていました。どこにも死体はありません。ヤクザに始末されてしまったのかもしれない、亮介はこう思いました。

亮介の周囲に平穏な日々が戻ってきます。塩見からの連絡は途絶えています。千絵も徐々にではありますが回復してきているし、喫茶店の経営状態も良くなって来ています。これもすべて細谷さんのおかげだ、亮介は細谷に感謝します。

「細谷さんは千絵を亡くなった娘さんのように思っているのかな」と亮介がいうと、千絵は「実の娘のように思ってくれているのはそのとおりだけど、あなたの考えとは少し違うわ」と返します。「どんなふうに?」と訊いてみると「亮介さん、鈍感だから」と言って千絵は笑いました。

ある日、亮介は父親から呼び出しを受けます。実家に駆けつけてみると、弟の洋平も一緒にいました。父の容体は予断を許さない段階に進んでいました。もう少しでその時を迎えることになるかも知れない、亮介は覚悟を決めます。子どもたちを前にして、父は家族の物語の結末を語りだしました。

衝撃の告白

「美沙子は生きている!」父からの衝撃の告白でした。父と美沙子は、何年も前から年に1度は会っていたといいます。美沙子をダムから突き落とす役を引き受けた義父母。しかし美沙子を死なせることはできませんでした。子供の将来を案じ家族と一切関わらず別人格として生きるよう言い聞かせると、ひそかに美沙子を逃します。しばらくして美沙子は、亮介のことが気になり実家に電話を入れ、義母が引っ越し先を教えたのでした。

美沙子は義父母の言いつけを守り、家族とは一切関わらないようにしていました。義母から電話で聞いた地名を探して美沙子は駅までくるものの、夫に声をかけるつもりはありませんでした。ところが、ある日つい夫の姿を見て声をかけてしまいます。父は、妻美沙子をいつまでも忘れられずにいました。

美沙子になり代わった妹の英実子も、亮介の父の気持ちには気づいていました。英実子は、自分が姉の夫に好意を持っているから姉を亡き者にしようとしたのではないか、と自分を責め苦しみ続けていたのです。

亮介の父が美沙子に最後に会ったのは、数ヶ月も前のことでした。美沙子に自分の命が幾ばくもないことを話し、一緒に旅に出ることを決めていたのでした。父は亮介に告げます。「美紗子はもうそこに来ている。会うか会わないかはお前次第だが。」玄関で物音がしたので、亮介は音のするほうへ向かいます。見覚えのある顔がそこにありました。それはずっと亮介を支えてくれていた人、細谷さんでした。

父は細谷と一緒に旅行に行くと言いました。もう帰ることはないとでも言うように、2人は荷物を持っていません。細谷は喫茶店を辞めさせてもらうと亮介に告げますが、急な展開に亮介は困惑します。細谷は「千絵が戻ったからやっていける」と励まします。それから「千絵のネガは全て自分が奪い返して処分した」とも。塩見の件は細谷がやったことでした。幸せそうな父と母を乗せた車は、亮介と弟の洋平を残して出発しました。

ユリゴコロの小説の結末をネタバレ!

ここまで沼田まほかるの小説『ユリゴコロ』のネタバレあらすじをお届けしてきました。ここからは、その結末をさらに深掘りしてネタバレありでご紹介します。

父親の話では、なんと「美紗子は生きている」ということでした。何年も前から2人は時々会っていたとのことでした。美沙子は、ある時父の前に突然現れたのだそうです。あれから10年以上が経っていた。美紗子は家族のことを聞くと涙ぐみながら笑っていました。不思議なのは、そのとき父も母美沙子も自然に会うことができたことでした。

美沙子が生きていた理由はこうでした。美沙子の両親は、ダムに彼女を突き落としますが親として見るに耐えなかったのでしょう。ギリギリのところで救出していたのです。「美沙子のような罪人がいては、まわりが不幸になる」として、2度と家族に関わらせず別人格として生きていくよう強く言い聞かせて解放していました。自由の身になったとはいえ、美紗子には戸籍も住民票もありません。大変な苦労が待っているのは明らかでした。

それから父と母は年に1度は密かに会うようになります。そのときに家族の写真を見せると、美紗子は喜んだそうです。「母さん(妹の英実子)には悪いが、俺にとって特別な女は美紗子だけだった。」としみじみとした口調の父。最後に会ったのは数ヶ月前だったとのこと。そのときから、この結末を予測していたようでした。「つまり、美紗子が迎えに来てくれて、一緒に旅行にでも出かけるんじゃないかと」

父は最後にこう結びました。「亮介、美紗子はもうそこに来ている。会うか会わないかはお前次第だ。」玄関で物音がします。亮介は母が来ているの気づき、玄関へ向かいます。その人影には見覚えがありました。ずっと前からそばにいて、苦しいときも支えてくれた人。「店長、お父様をお迎えに来ました」今日も細谷は、いつもと変わらない声で話しかけます。それに対し亮介は声を出すこともできず、ただ頭を軽く下げるだけでした。

父は細谷、否、母と一緒に旅行に行くと言いました。2人は手荷物すら持っていません。もう生活に必要なものはいらない、と不吉な空気が漂います。細谷は喫茶店を辞めることを亮介に告げます。「しかし、そんなに急では困ります」亮介は戸惑います。「もう、大丈夫ですよ。千絵ちゃんと一緒にしっかりやっていってください」細谷は別れを告げるかのように言いました。

細谷はいったん亮介の父親から離れてそばにくると、亮介の耳元でささやきました。「千絵ちゃんの過去のことは心配しないで。私が全部奪い返して処分しましたから」。『細谷さんの仕業だったのか、きっと塩見との待ち合わせ時間をずらして伝えていたんだ』と亮介は思いました。『僕の手を汚さないように、細谷さんが始末してくれたのに違いない』とも。

「それでは、店長、洋平さんもお元気で」細谷と亮介の父を乗せた車が走り出します。「アナタ」が美沙子に訊きます。「どこへ行く?」。美沙子が答えます。「どこへでも。アナタの行きたいところへ」その後のことばは聞き取れませんでした。亮介には2人が楽しそうにうなずき合うのが見えました。弟の洋平が激しく泣くので、亮介はそっと彼の背中に手を添えます。そうして2人は、いつまでも道路のアスファルトを眺めるのでした。

ユリゴコロのタイトルの意味とは?

聞きなれない言葉をタイトルに持つ、沼田まほかるの小説『ユリゴコロ』。つづいては、ユリゴコロという言葉が意味するものは何なのか、小説から読み取れる言葉の定義について解説します。

ユリゴコロについて小説では次のような説明が加えられています。幼い美沙子の異常さを心配した母親が、彼女を病院に連れて行ったとき医師が言った「…(こころの)拠りどころ…」という言葉を美沙子が聞き間違えたというものです。たしかに幼い子にとって、初めて聞く言葉は単なる音でしょうから、「ヨリドコロ」が「ユリゴコロ」と聞こえても不思議はありません。(”百合”も”心”も知っている言葉だったのでしょう)。

ただ沼田まほかるのこの小説を読み進めるうちに、『ユリゴコロ』という言葉にはそれ以上の意味があるように感じてきます。美沙子がこの言葉を使った時の状況、美沙子の心象の変化を考えると、次のような説明が近いのかもしれません。『人の命が消えていくときに生じる、言葉では言い表せない感覚』

美沙子にとって『ユリゴコロ』とは、「空虚なこころを満たすもの」あるいは「言いようのない充足感を味わえる行為」と定義できると考える人も多いようです。特異な異常性を示す美沙子にとって、普通に生きていてはこころは満たされません。満足を得る唯一の手段が、残酷にも殺人という世の中では重罪とされる行為だったのです。

ユリゴコロの原作小説と映画を比較!違いはある?

映画では登場人物が削られていた!

まず原作小説と映画との最も大きな違いは、映画では一部の登場人物が削られていることです。

  • 美紗子の妹・英実子
  • 美紗子の両親
  • 亮介の弟・洋平
以上、原作のキーパーソンともなる登場人物が映画には出てきません。

ストーリーも改変されている!

映画ではキーパーソンが削られたことにより、沼田まほかるの原作に対しストーリーにも変更が加えられています。影響が大きいのは、美沙子の妹・英実子の存在です。原作では亮介を育ててくれた母(実母の妹!)はつい最近交通事故で亡くなったことになっていますが、映画では母は亮介幼少時に亡くなり、父洋介が男手一つで育てたという設定に変わっています。

映画では美沙子の妹・英実子が削られたことにより、亮介が「母親だと思っていた人が実は母の妹だった」というミステリー小説のネタがひとつ消失したことにもなります。

亮介の実母、美沙子が殺人鬼であたことが判明し、両親と夫が彼女をダム湖で水死させるという苦渋の決断と実行をするシーン。このときの実行役が原作では両親でしたが、映画では夫の洋介となっています。また、美沙子の夫は、原作では「アナタ」と代名詞で呼ばれていましたが、映画では「洋介」という名前が与えられています。

沼田まほかるの原作では、美紗子がいなくなった後、妹の英実子が亮介の母になり代わります。父親にひそかに逃がされた美紗子は生き延びて、「細谷」という偽名を使い亮介の喫茶店で働いていました。映画では、前述のように「妹の英実子が亮介の母になり代わる」話は削られ、「細谷」は亮介の婚約者・千絵の友人として、映画では原作よりも早い段階から登場してきます。

ラストシーンも変更あり!

沼田まほかるの原作では父が母美紗子を連れ行先も告げずに車で旅に出ます。それに対して映画では、それまで家族の誰とも接することができなかった美紗子が、病床にいる夫・洋介と再会を果たすというラストになっていました。映画では、原作からミステリー要素を減らした分、人間ドラマに重点を置いたのでしょう。元夫から千絵を連れ戻した亮介が美紗子と相対する、原作にはないシーンが映画には付け加えられていました。

ユリゴコロの原作小説を読んだ人の感想や評価は?

ここまで小説『ユリゴコロ』のネタバレあらすじから映画との比較まで解説してきました。最後に、この小説を読んだ人の感想や評価をご紹介します。

ラストをめぐって評価が分かれる!

この沼田まほかるの小説『ユリゴコロ』ですが、ラストをどうとらえるかで評価が分かれるようです。まず高評価の感想からご紹介します。

沼田まほかるは何冊か読んでますが、どれもなんか読後に、胸の奥にとげが刺さったっまま放り出されるような。そんなイヤーな感じで終わることが多いのですが。 この作品の、読後の爽やかさったら。 いや、途中はエグいし、グロいし。まほかる節バリバリですけど。 なんといっても、最後の暖かさ。まほかるさんが苦手な方も、ゼヒゼヒ。

プロローグから中盤までは幼子を含む殺人事件がメインで、暗鬱な雰囲気もあり気がめいってしまいます。ところが、ラストのどんでん返しのストーリー展開とホッとするような暖かさを伴うエンディングに胸のつかえがとれた、という人も多かったようです。

つづいて小説『ユリゴコロ』のラストに疑問を感じる低評価の感想です。同じものを読んでいても、ひとそれぞれ感じ方は違うものです。

読み始めは興味を引かれますが、美紗子の心理には???殺人の内容や描写もとても不快に感じ…はずれかな~なんて思いながらもページを捲る手は止まらず。最後の告白の後二人で旅立つシーンは思わず涙してしまったが…ふと冷静になると、いろいろ納得出来ないわ~きれいに終わってるけど、殺された人々や巻き込まれた家族…妹の英実子…洋平はすべてを知って自分の母が不憫に感じなかったのか?

小説のラストが生理的に受け付けない、という方も多いです。亮介と千絵にとっての邪魔者を影の救済人・細谷が手を下して抹殺するとか、解決の仕方があまりにも粗暴で受け入れがたいと感じてしまうようです。愛を誓い合った2人で爽やかにランデブーにでかける結末には、ふざけていると怒りの感想を持つ人もいます。殺人者は裁かれて罪を償うべき、被害者が可哀そうでとても主人公に同調する気になれないようです。

べーじをめくる手が止まらない!

いや、本当に50ページぐらいから徐々に面白くなって。ノートが3ぐらいにいったときには、もうのどが渇いているのも無視して。ひたすら読み進めてましたからね。(中略)普段、ミステリーを読まない女性にも読んでみてほしいなーって思った作品でしたね。(中略)ミステリーといっても、パズル的な要素はかなり鳴りをひそめており。作者が女性なだけあって、ソフトな読み口ですし。感覚的に読んでも十分楽しめるようになっていますからね。

小説『ユリゴコロ』の評価というより、読みだしたら次の展開が気になってやめられなくなった、という感想を持った人も多いようです。これは作者の文章や構成が巧みで読者を飽きさせないテクニックの表れなのかもしれません。

ユリゴコロ小説あらすじと感想まとめ!

ここまで、小説『ユリゴコロ』のあらすじと感想、そして映画との内容比較をじっくりとお届けしてきましたが、楽しんでいただけましたでしょうか。

この小説『ユリゴコロ』は、吉高由里子主演の話題の映画の原作でもあります。映画を観た方も、一度原作小説を読みその違いを味わうのも一興という声が多くあります。評価は人それぞれですが、巧みな展開で読み手を引き込む手法で定評のある沼田まほかる作品ですから、ストーリー展開の意外性、奥深さは読む価値十分との世評が多いです。ぜひ一読されることをおすすめします!

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