映画ファントム・スレッドのあらすじと感想は?ラストシーンの意味を考察

洋画『ファントム・スレッド』は、2017年に公開されたアメリカ合衆国の映画です。アカデミー主演男優賞を3度受賞したダニエル・デイ=ルイスを主演に迎え、世界三大映画祭全てで監督賞を受賞したポール・トーマス・アンダーソンが監督したラブロマンス映画ですが、その意外性ある結末は、観る者に多様な解釈を許すものになっています。そのミステリアスなラストシーンは、一体何を表したものなのでしょうか?洋画『ファントム・スレッド』の謎めいたラストシーンの意味に、映画のあらすじと感想を紹介しながら、迫っていきます。

映画ファントム・スレッドのあらすじと感想は?ラストシーンの意味を考察のイメージ

目次

  1. ファントム・スレッドのあらすじや感想を調査!
  2. ファントム・スレッドとは?どんな意味?
  3. ファントム・スレッドを手掛けた監督は?
  4. ファントム・スレッドの登場人物
  5. ファントム・スレッドのあらすじネタバレ!
  6. ファントム・スレッドの劇中曲が素晴らしいと話題に!
  7. ファントム・スレッドを観た感想は?
  8. ファントム・スレッドのあらすじや感想まとめ

ファントム・スレッドのあらすじや感想を調査!

洋画『ファントム・スレッド』は、1950年代のロンドンを舞台に、オートクチュールの天才仕立て屋である男性と、彼にモデルとして見初められた若きウェイトレスとのラブロマンスを描いた映画です。しかし、二人の関係は、一種の狂気すら感じさせる思いがけない終幕を迎えます。奇妙な愛の形を描いた洋画『ファントム・スレッド』のラストは何を意味しているのでしょうか?映画のあらすじと感想の紹介を交え、考察していきます。

映画『ファントム・スレッド』オフィシャルサイト

ファントム・スレッドとは?どんな意味?

そもそも映画のタイトルになっている「ファントム・スレッド」とは、どんな意味なのでしょうか?直訳すると「幻の糸」ですが、「糸」は、映画が描くオートクチュール界でのドレスの仕立てと関係があります。ここでは、まず、洋画『ファントム・スレッド』の中で重要な存在感を持つ衣装の観点から映画を紹介し、続いて、映画の物語部分に関わってくる「幻」の意味に迫っていきます。

舞台は1950年代のロンドンのオートクチュール界

洋画『ファントム・スレッド』は、1950年代のロンドンのオートクチュール界を舞台にしています。その設定にリアリティを与えるため、当時の衣装デザインやカルチャーなどが、入念に調査された上で制作されました。その結果、映画は、第90回アカデミー賞において、作品賞・衣装デザイン賞など6部門にノミネートされ、高い評価を得ることになったのです。

衣装デザイン賞でオスカー獲得

洋画『ファントム・スレッド』の見所の一つは、何と言っても、華やかで美しいドレスの数々です。衣装を手掛けたマーク・ブリッジスは、この映画のために、当時のデザインを徹底的に研究し、結果、第90回アカデミー賞で、衣装デザイン賞を勝ち取ります。また、主演のダニエル・デイ=ルイスは、役作りのために、ニューヨークの裁縫師の元に弟子入りし、1年間の修行を経て、とうとうドレスを一着作れるまでになったそうです。

「ファントム・スレッド」の意味①:母の幻

さて、そんな洋画『ファントム・スレッド』の世界を彩る美しいドレスの数々を、劇中で仕立てる天才デザイナーが、ダニエル・デイ=ルイス演じるレイノルズ・ウッドコックです。レイノルズは、子供の頃、愛する母が再婚する際、そのウェディングドレスを自分で作ったことがあるのですが、その後、母は亡くなり、ドレスもどこかへ無くしてしまいます。その失った母の「幻」を求めて、彼は、完璧な美の探求へと進んでいくのです。

「ファントム・スレッド」の意味②:モデルは美の手段

美を追い求めるレイノルズにとって、モデルとなる女性は、自分の創作のためのインスピレーションの源でしかありません。そんな中、新たに彼に見初められたのが、ヴィッキー・クリープス演じるアルマ・エルソンです。彼女は、レイノルズの仕事を尊重し高く評価する一方で、彼からの愛も求めます。しかし、やはり、「仕事の邪魔をするな」と、彼から突き放されます。

「ファントム・スレッド」の意味③:赤子に寄り添う母

ここで、これまでのモデルたちだったら、彼からの愛を待つことに耐えきれず、結局立ち去ることになるのですが、アルマは違っていました。レイノルズには、仕事に全神経を注ぎ込んでしまうため、ベッドに倒れ込んで、しばらく何もできなくなることが時々あったのですが、その無力な赤ん坊のような姿に、アルマは、母親のように優しく添い寝してあげることで、二人の関係が抱える問題解決へのヒントを見つけることになるのです。

「ファントム・スレッド」の意味④:ラストシーン

失った母の「幻」を求め続けるレイノルズと、その空白に母に代わる存在として入り込もうとするアルマ。そんな両者の関係における主導権争いは、二人の仲が悪化したら、アルマが食事に毒を盛り、レイノルズがそれを承知の上で食して倒れ込むというパターンに行き着きます。そして、それを問題解決の方法として永遠に繰り返していくという決意を、レイノルズの治療に当たる医者に、アルマが語るというラストを迎えるのです。

「ファントム・スレッド」の意味⑤:「幻の糸」

映画のタイトルにもなっている「ファントム・スレッド」は、直訳すると「幻の糸」という意味になります。本来は、徹夜仕事に疲れたお針子が見てしまう幻覚の糸のことなのですが、それが、この洋画『ファントム・スレッド』の世界においては、どんな意味を持つことになるのでしょうか?

「ファントム・スレッド」の意味⑥:「糸」の3つの解釈例

まず、レイノルズが失った母の空白にアルマが入ることで、その空白を縫い合わせて閉じる「糸」という意味があります。また、二人の仲を、生地同士をつなぐように結び付ける「糸」という意味もあります。さらには、レイノルズの求める美が流行としては衰退しても、アルマとの間に織り上げられる恋物語というドレスは永遠だという、そんなロマンスを縫い上げる「糸」の意味もあります。アルマは、この物語の語り手でもあるからです。

「ファントム・スレッド」の意味⑦:多様な解釈を許す比喩

このように、「ファントム・スレッド」=「幻の糸」は、様々な意味をもたらす巧みな比喩表現になっています。この良い意味での曖昧さが、観る人ごとの視点や考えによって、様々な解釈や感想を生み出し、その結果、洋画『ファントム・スレッド』は、単なるスキャンダラスなラブ・ロマンスに終わらない、豊かな作品となっているのです。

ファントム・スレッドを手掛けた監督は?

洋画『ファントム・スレッド』は、基本、ラブロマンス映画ですが、同時に、ホラーサスペンス的な要素もあり、さらには、ブラックユーモア漂うコメディタッチな側面ものぞかせます。この、なかなか一筋縄ではいかない洋画『ファントム・スレッド』の世界観を作り上げた監督を、ここでは紹介します。

監督/ポール・トーマス・アンダーソン

ポール・トーマス・アンダーソンは、1970年生まれのアメリカ合衆国の映画監督です。1996年の『ハードエイト』で映画初監督を務め、翌1997年、ポルノ映画界に携わる人々の栄枯盛衰を描いた『ブギーナイツ』のヒットで、一躍有名監督の仲間入りを果たします。1997年の長編『マグノリア』では、ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞し、「群像劇の名手」と呼ばれました。

「00年代最高の映画」

2002年の『パンチドランク・ラブ』では、一転、ロマンティック・コメディに挑戦し、カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞します。そして、2007年、一部の批評家からは「00年代最高の映画」とまで高く評価された『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』を公開し、ベルリン国際映画祭で、同じく監督賞を受賞しました。

世界三大映画祭の監督賞を完全制覇

続く2012年の『ザ・マスター』では、ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を獲得し、これをもって、ポール・トーマス・アンダーソンは、世界三大映画祭の全てで監督賞を受賞するという快挙を達成することとなりました。2014年には、現代のアメリカ文学を代表する小説家の一人であるトマス・ピンチョンの作品を初映画化した『インヒアレント・ヴァイス』を公開し、早くも「若き巨匠」としての地位を確立しています。

ファントム・スレッドの登場人物

洋画『ファントム・スレッド』の美しさは、単に高級仕立てのドレスの数々によるだけではありません。それを取り巻く上流階級の人物たちに漂う気品によるところも大きいのです。ここでは、そんな洋画『ファントム・スレッド』の世界を華やかに盛り立てる主要な3人の登場人物を紹介します。

レイノルズ・ウッドコック/ダニエル・デイ=ルイス

イギリス出身の俳優、ダニエル・デイ=ルイスが演じるレイノルズ・ウッドコックは、1950年代のロンドンのオートクチュール界で脚光を浴びる天才仕立て屋です。亡くした母の幻を求めて、完璧な美を持つドレスの制作に、日々、全身全霊を傾けていますが、モデルとして招き入れた女性を、仕事の手段としてしか見ようとしません。しかし、新たに迎え入れたアルマによって、その姿勢は、変化を被っていきます。

アルマ・エルソン/ヴィッキー・クリープス

ルクセンブルク出身の女優、ヴィッキー・クリープスが演じるアルマ・エルソンは、天才仕立て屋レイノルズ・ウッドコックにモデルとして見初められた元ウェイトレスです。自分の体形にコンプレックスを持っていましたが、それをレイノルズに認められたことから、モデルとデザイナーの関係を超えた愛を求めて、とある行動に出ることになります。

シリル・ウッドコック/レスリー・マンヴィル

イギリス出身の女優、レスリー・マンヴィルが演じるシリル・ウッドコックは、天才仕立て屋レイノルズ・ウッドコックの姉です。社交界に多くの顧客を持つ「ハウス・オブ・ウッドコック」の経営を取り仕切り、仕事最優先の秩序を重んじる弟・レイノルズの理解者でもあります。しかし、弟が口論を仕掛けてくると一喝してそれを鎮めるなど、実質的にレイノルズが逆らえない影の支配者といった側面も持っています。

ファントム・スレッドのあらすじネタバレ!

洋画『ファントム・スレッド』は、仕事上の秩序を何よりも重んじるデザイナーと、彼からの愛情を求めるモデルが、最終的に、奇妙に歪んだ愛のかたちに辿り着くという物語です。タイトルの意味する「幻の糸」を、より具体的に理解するために、ここでは、洋画『ファントム・スレッド』のあらすじを、詳しく紹介していきます。

あらすじ①:あなたの心はどこ?

時は1950年代、社交界から一際脚光を浴びるオートクチュール界の天才仕立て屋がいました。名前は、レイノルズ・ウッドコックといいます。彼がロンドンに構える「ハウス・オブ・ウッドコック」は、上流階級に多くの顧客を持ち、そこには、朝から、たくさんのお針子スタッフが出勤してきます。

レイノルズは、何よりも、仕事第一の静かな秩序を重んじます。身なりをいつもきちんと整え、人が食事の席で大きな音を立てるのも許しません。そんな彼に、同居していた女性モデルのジョアンは、堪りかねて、「あなたの心はどこ?」と不満をぶつけますが、レイノルズは、「一日を言い争いで始めたくない」と、まともに取り合う様子も見せません。

あらすじ②:長いこと君を探していた

ジョアンは、レイノルズからの愛を待ちすぎて、その体形も崩れてきていました。レイノルズは、「最近、心が乱される。ママの思い出が現れる」と、姉・シリルに相談します。彼女は、ハウスの経営を取り仕切ると同時に、弟の理解者でもあります。シリルは、レイノルズに、別荘で休息することを勧めます。

休息先のレストランで、レイノルズは、ウェイトレスをしていた若い女性を見初めます。名前は、アルマ・エルソンといいました。レイノルズは、彼女を別荘に連れて来て、自分の母の思い出を語ります。子供の頃、再婚する母に、ウェディングドレスを作ってあげたことがあるが、その後、母は亡くなり、ドレスもどこかへ行ってしまったという話でした。

また、レイノルズは、「ドレス作りに関わる人は皆呪われる」という迷信や、自分の独身主義についても語ります。そこへ、遅れて来たシリルが登場し、アルマは、ドレスづくりのための採寸をされることになります。シリルは、アルマを「理想の体型」と評し、自分の体形にコンプレックスを持っていたアルマは、レイノルズからも、「長いこと君を探していた」と言われ、とても誇らしく思います。

あらすじ③:客の好みではなく、正しいものは正しい

レイノルズは、アルマを、新しいモデルとして採用し、連れ帰ったハウスで共に暮らすようになります。仕事場で、アルマがモデルとして「この生地、好きじゃない」というと、レイノルズがデザイナーとして「客の好みではなく、正しいものは正しい」と返すなど、時折激しい意見の対立を見せながらも、二人は共に、完璧な美を追い求めるドレス作りに勤しんでいきます。

しかし、レイノルズにとって、モデルは、自分の創作意欲をかき立てるための道具でしかありませんでした。アルマも例外ではありません。食事の席で、食器をぶつける音や、パンにバターを塗りつける音などが、静かな秩序を好むレイノルズの神経に触ります。彼から、「動きが多すぎる」と叱られたアルマは、シリルからも、「朝食は彼の後、あるいは部屋で」と言われてしまいます。

あらすじ④:赤ん坊みたい

レイノルズのあまりの気難しさに、彼と、仕事上の関係を超えて親密になることの難しさを感じていたアルマでしたが、そんなある日、ドレスの発表会を終えた後、とある出来事が起こります。レイノルズが、突如、体調不良を訴えたのです。自分では車を運転できないほどだったので、アルマが代わりに運転し、無事ハウスへと送り届けます。

実は、レイノルズは、完璧な美を持つドレス作りの仕事に全精力を傾けてしまうため、こうして倒れ込んでしまうことが、定期的にあったのです。一旦倒れ込んだら、数日間何もできなくなってしまうため、寝かせて、回復を待つしかありません。ベッドで無力に寝込んだままのレイノルズを見て、看病するアルマは、「赤ん坊みたい」と思います。そして、自分もベッドに入り、母親のように、優しく添い寝をします。

数日後、全快し、無事仕事に復帰したレイノルズに、アルマは、差し入れの紅茶を持っていきますが、相変わらず邪険にされ、追い出されてしまいます。「紅茶を下げても邪魔された事実は残るんだ」とまでの言われようでした。そんな中、アルマは、山へキノコ採りに出かけます。そして、キッチンで、人から、毒キノコのこと、さらに、レイノルズがバターが嫌いなことを教わります。

あらすじ⑤:ドレスがかわいそう

ある日、静かだった朝食の席で、レイノルズは、シリルから、お得意客であるバーバラの結婚話を聞かされ、心を乱されることになります。富豪であるバーバラは、明らかに財産目当てである男と結婚することになり、そのドレスをレイノルズに依頼してきたのです。バーバラは、自分がレイノルズのドレスにふさわしい美しさを持っていないことはわかっているのですが、それでも止むに止まれず、結婚式にも彼らを招待します。

式場で、バーバラは酔いつぶれ、自室のベッドで休むことになりますが、ドレスを着たままでした。「ドレスがかわいそう」と言うアルマは、レイノルズと部屋へ押しかけ、そのドレスを奪還します。「あなたの生き方には口出ししないが、私たちのドレスはもう着ないでください」と言い放ったアルマに、帰り道の路上で、レイノルズはキスをします。アルマは「愛してるわ」と答えますが、しかし、レイノルズは、やはり黙ったままでした。

あらすじ⑥:私の方法で彼を知りたい

ある日、ベルギー王室のプリンセスが、ウェディングドレスを所望して、ハウス・オブ・ウッドコックにやって来ます。レイノルズは、聖体式から社交界デビューに至るまで、彼女のドレスを、ずっと手掛けてきていたのです。しかし、そんなプリンセスの美しさから、アルマは、レイノルズが自分に向ける気持ちの確かさに不安を覚えることになり、仕事中ずっと、穏やかな気持ちではいられませんでした。

レイノルズの気持ちを確かめるため、アルマは、二人っきりでのディナーをサプライズで行うことを思いつきます。そのため、シリルに帰りを遅くしてくれるように協力を仰ぎますが、彼女からは「弟はそういうのを好まない」と断られてしまいます。「今は新しいことをすべきではない」というのがシリルの言い分でしたが、しかし、アルマは、「私の方法で彼を知りたい」と強く主張し、結果、押し通すことに成功します。

アルマによるサプライズは、案の定、レイノルズの不興を買い、失敗します。レイノルズは料理に皮肉を言い、アルマは「私は何のためにここにいるの?ただバカみたいにあなたを待つだけ」「いつも一緒にいても隔たりを感じる」と不満を爆発させます。そして、「あなたが出て行けと言うのを待ってる。それなら待たなくてすむ」と言ったアルマに、レイノルズは「なら出ていけ」と言い放ち、二人っきりのディナーはお開きになります。

あらすじ⑦:彼女を亡霊にさせるなら好きにしなさい

「出ていけ」といわれたアルマは、逆に、レイノルズへの反撃に出ます。毒キノコをすり潰し、食事に混ぜたのです。アルマ不在の朝食の席で、「彼女を亡霊にさせるなら好きにしなさい」と言うシリルは、同時にアルマに好感を持っていることも弟に伝えます。レイノルズは、反論しようとしますが、「私に口論で勝てると思ってるの?」と一喝され、黙り込みます。そして、毒入りの飲み物を、そうとは知らずに、口にしてしまいます。

毒入りの食事をとってしまったレイノルズは、仕事場で体調に異変をきたして倒れ込み、その拍子に、完成していたプリンセスのウェディングドレスを破損してしまいます。アルマに付き添われ、部屋に戻り、ベッドに横になりますが、何度も吐いて苦しみます。シリルは、アルマに、仕事に戻るように指示しますが、アルマは聞かず、レイノルズの枕元で、付きっきりで看病に当たります。

あらすじ⑧:呪いを解くために

夜、シリルが医者を呼びます。アルマは、渋々、彼を部屋に入れますが、レイノルズは「手を触れるな。失せろ。アルマ、追い出してくれ」と、診察を拒否します。追い返された医者を玄関で見送ったアルマは、引き返し際、お針子たちが、徹夜で、破損したドレスの補修をしているのを見かけます。アルマはその作業を手伝いますが、途中、ドレスの中に「呪われることなく」と刺繍されたタグを発見します。

夜を徹したドレスの補修作業が続けられている間、レイノルズは、苦しむベッドの中で、幻覚を見ていました。部屋の壁際に、ウェディングドレスを着ていた母が立っていたのです。幻覚の母に話しかけるレイノルズですが、彼女の声は聞こえてきません。そこへ、看病のため、アルマが入ってきます。戻ってきたアルマと母の姿が、レイノルズの目に重なります。

翌朝、レイノルズは無事回復します。起き上がって部屋から出ると、疲れてソファで横になって休んでいるアルマを発見します。彼に気付き目覚めたアルマの手を取って、レイノルズは「愛してる」と言います。そして「多くの過ちを繰り返してきた。守ってほしい。呪いを解くために」とプロポーズします。アルマもそれを受け入れ、二人は結婚します。

あらすじ⑨:子供と結婚したようなものね

結婚して幸せなはずの二人ですが、それで万事まるく収まってめでたしめでたし、というわけにはいきません。旅行先で、大きな音を立てながら食事をするアルマを、レイノルズは、少し複雑な面持ちで見ていました。そんな中、夫婦で参加したとあるパーティーで、二人は、以前ハウスに呼んで追い返した医者と再会します。

まだ若い医者は、アルマを大晦日の舞踏会に誘います。楽しげに話す二人の様子を少し離れたところから見ていたレイノルズは、不安に気持ちを乱していきます。そして、ついに苛立ちを爆発させて、アルマと口論になってしまいます。「子供と結婚したようなものね」と知り合いの女性からは言われ、レイノルズは、少しずつ結婚を後悔するようになります。

あらすじ⑩:僕は人生で大きな過ちを犯した

大晦日、アルマは舞踏会に行きたいと言いますが、レイノルズは、仕事を理由に断ります。結局、アルマは一人で出かけますが、レイノルズは、彼女のことが気になって、後から様子を見に行きます。会場で、アルマは、一人でパーティの大騒ぎを楽しんでいました。レイノルズは、壁際で一息ついている彼女を見つけると、強引に手を引いて、家へ連れ帰ります。

レイノルズは、仕事中も、心がどこか上の空といった様子で、ドレス作りに集中できません。一旦席を外して、シリルのところへ行くと、常連客がよそのハウスへ移ったという話を聞かされます。また、レイノルズは、最近流行し始めた「シック」という概念にも理解を示すことができず、自分の求める完璧な美が、時代からずれ始めたことを感じます。

レイノルズは、思わず「僕は人生で大きな過ちを犯した。助けてほしい」と叫びます。「仕事に集中できない。アルマと結婚したことで、いやそもそも彼女をここへ連れてきたことで、2人で築いてきたハウスがおかしくなってしまった」と、シリルおよび途中で部屋に入ってきたアルマに聞かせるように言います。

あらすじ⑪:あなたには無力で倒れていてほしい

アルマは、再びキノコ採りへと向かいます。そして、夕食の準備の時、レイノルズに見せつけるように、夫の嫌いなバターも加えて、キノコを炒め始めます。水も、グラスにこれ見よがしに大きな音を立てて注ぎます。挑戦的な妻の態度に、レイノルズは、まず料理の匂いをかぎ、次に彼女の顔を見つめながら、それを食べて見せます。その時、レイノルズは、既に全ての事情を理解していたのです。

アルマは、「あなたには無力で倒れていてほしい、救いがなく、優しく、素直に。助けるのは私だけ。そして強さが戻る」と言います。そして、「死にはしない。そう願っても、そうはならない。少しおとなしくなるだけ」と続けます。微笑むアルマに、レイノルズは、「倒れる前にキスしてくれ」と答えます。

あらすじ⑫:私がドレスを管理する

案の定、体調を崩したレイノルズは、「医者に連絡しろ」とアルマに言います。「私を信じないの?呼んでもいいけど、私が元気にしてあげる」とアルマは返します。そして、二人は、お互いに「愛してる」と言います。医者が来て、診察の結果、「問題ない」と言われると、二人は、してやったりといった笑みを交わします。

以上のいきさつを、アルマは、医者に語って聞かせます。そして、「もし治らず、彼が死んでしまっても構わない。この世、次の世、その次の世へと、そこへ続く道に何があろうとも、私はひたすら耐えて、再び彼の元へ向かう」と、また問題が起きたら、再び同じ行為を、何度でも永遠に繰り返していく決意を示します。さらに、「彼に恋することで、人生は謎ではなくなる」と、自分の生きる意味や二人の関係性の答を、そこに見出します。

「私には未来が見え、問題はすべて解決」と語るアルマの脳裏に浮かんでいる光景は、乳母車をシリルに預け、あの大晦日の舞踏会会場で共に踊り、レイノルズに支配される道具としてではなく、自らも主体的にドレス作りに関わっていく、そんな夫婦の姿でした。そして、次のような言葉で、アルマはその語りを終えます、「私がドレスを管理する。埃や亡霊や時の流れから守り抜く」。

ファントム・スレッドの劇中曲が素晴らしいと話題に!

洋画『ファントム・スレッド』は、映像面のみならず、音楽面でも話題になり、第90回アカデミー賞では、作曲賞にもノミネートされました。惜しくも受賞は逃しましたが、その優雅でありながら時折不協和な感じも併せ持つ劇中曲の数々は、映画の質の向上に大きな役割を果たしています。ここでは、そんな洋画『ファントム・スレッド』の音楽面を担当した人物を紹介します。

音楽/ジョニー・グリーンウッド

洋画『ファントム・スレッド』の音楽を担当したのは、イギリスのロックバンド、レディオヘッドのメンバーであるジョニー・グリーンウッドです。幼少の頃、クラシックを中心に音楽を学んだことから、バンドでは、ギター、キーボードはもちろん、ストリングス、グロッケンシュピール、オンド・マルトノなど幅広い楽器を演奏し、その、ただのロックバンドの域にとどまらない、実験的で多彩な音楽性に、多大な貢献を果たしています。

ポール・トーマス・アンダーソン映画の常連

映画音楽を初めて手掛けたのは、2007年、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』においてです。この映画で作曲したスコアは、英国アカデミー賞やグラミー賞にノミネートされるなど、高く評価されました。以降、2012年の『ザ・マスター』、2014年の『インヒアレント・ヴァイス』、そして、2017年の『ファントム・スレッド』と、同監督の映画音楽を引き続き担当しています。

ファントム・スレッドを観た感想は?

洋画『ファントム・スレッド』は、1950年代のロンドンのファッション業界という華やかな舞台設定において、完璧な美を求めるデザイナーとそのモデルとの間に生まれた奇妙な愛情関係を描いています。この、狂気に踏み込んだところさえ感じられる愛のかたちは、実際に映画を観た人に、どう受け取られたのでしょうか?具体的な感想を見ていきましょう。

感想①:愛のかたちは人それぞれ

映像が美しくて、いつまでも見ていられる。危うい糸一筋で繋がった男女の絆。端から見れば病んでいるように見えるかもしれないけど人間の愛ってそういうものなのかもしれない。

病的なところすら感じさせる二人の関係も、美しい映像や音楽などによって表現されることで、説得力を増し、納得できるという感想です。また、自分だったら嫌だけど、観てる分には楽しめるという感想もありました。つまるところ、愛のかたちは人それぞれということかもしれません。

感想②:ラブロマンスか、ホラーサスペンスか?

映像、音楽、演技、どれも皆完璧レベルだけれど、ストーリーが余りにも病的で気持ち悪い。。そのギャップが、更に気持ち悪い。。。

こちらは逆に、映像や音楽の美しさとの落差が、かえって二人の関係を怖いものにしているという感想です。ラブロマンスでありながらホラーサスペンスっぽさを感じさせる所以です。また、二人の関係に見られる疑似母子関係に加えて、姉と弟の間にも近親相姦っぽさが感じられるという感想もあり、その辺りにも拒否感の原因があるのかもしれません。

感想③:衣装はきれいだけど脚本は?

ドレスとか登場人物たちの衣装が綺麗なものばかりでファッション好きとしては目に楽しかった。ストーリーは愛と殺意を結びつける系のよくある感じなのかな、という感想。

上流社交界を顧客に持つオートクチュール界を舞台にしているだけあって、その華やかな衣装の数々は、それだけで目を見張らせるものがあるという感想です。しかし、それに比べて、「狂気を謳っているわりには平凡」という脚本の弱さを指摘する声もありました。また、「この監督にしては毒が足りない」という往年のファンの感想もありましたが、逆に言えば、だからこそ、一般の人には受け入れやすい作品になっているとも言えます。

感想④:ダニエル・デイ=ルイスの引退を惜しむ声

主演のおじさま、ダンディすぎ、かっこよい。いったい何歳なんや。深く難解な愛の物語。完璧な世界観に感服。

とりわけ目立ったのが、天才仕立て屋レイノルズを演じたダニエル・デイ=ルイスを絶賛する感想です。アカデミー主演男優賞を3度受賞した唯一の俳優なだけに、大きめの演技から、小さな仕草、さらには、単にそこにいるだけの佇まいに至るまで、この映画の中での完璧な存在感に魅了された人が多かったようです。この作品で引退を表明しているだけに、なおさら名残惜しむ感想が生まれるのかもしれません。

ファントム・スレッドのあらすじや感想まとめ

以上、洋画『ファントム・スレッド』の謎めいたラストシーンの意味に、映画のあらすじと感想を紹介しながら、迫ってきました。美しく優雅な映像・音楽・衣装に彩られながら、二人の関係は、一種病的なものへと辿り着きました。そのロマンスをアルマから聞かされる医者は、映画を観た観客に重ねられるかもしれません。この奇妙な愛の物語を、どう受け取めるべきなのか?興味を持たれた方は、ぜひご覧になってみてください。

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