2018年11月19日公開
2018年11月19日更新
恋の罪は実話映画?あらすじや感想をネタバレまとめ【園子温監督の傑作】
邦画『恋の罪』は、2011年に公開された園子温監督による映画です。1997年に渋谷区で実際に起こった「東電OL殺人事件」に着想を得た内容で、主演・水野美紀のヘアヌードが注目されたこともあり、単館系の作品でありながら興行収入が一億円を超えるヒット作となりました。はたして映画の内容は、どの程度現実の事件に基づいているのでしょうか?あらすじや感想のネタバレを交えながら、邦画『恋の罪』の実話説に迫っていきます。
目次
恋の罪のあらすじや実話説に迫る!
園子温監督による邦画『恋の罪』は、ラブホテル街としても知られる渋谷区円山町を舞台に、日常の生活に違和感をもつ女性たちが売春婦へと身を落としていく姿を描いた作品です。この内容は、実際に円山町で起きた「東電OL殺人事件」(1997年)と共通点を持っているため、どこまでが実話と言えるのかが興味の対象になってきます。邦画『恋の罪』と実際の事件の関係を、あらすじや感想のネタバレをしながら、探っていきます。
恋の罪の映画作品情報
園子温監督による邦画『恋の罪』は、2011年に公開されました。1997年に渋谷のラブホテル街で実際に起きた「東電OL殺人事件」という実話にインスパイアされた本作は、その内容への関心はもちろんのこと、エログロ描写満載なエンタメとしての完成度の高さを見せたこともあり、興行収入1億円を超える大ヒットを記録しました。第64回カンヌ国際映画祭・監督週間部門に正式出品され、ワールドプレミア上映もされています。
邦画『恋の罪』のヒットの要因には、女性層からの支持の厚さもありました。東京・ヒューマントラストシネマ渋谷では、上映中、観客の約4割が女性だったそうです。園子温監督は、「大人の女性の映画を撮ってみたかった」、「男性目線で映画を撮らないようにしようと決めた」とインタビューで答えており、結果、実話に基づいたリアルな女性心理として、性別を問わず広く受け入れられる映画になったのです。
恋の罪の映画登場キャスト
実際の事件をモデルにした園子温監督による邦画『恋の罪』は、渋谷のラブホテル街で発生した殺人事件を巡って展開する3人の女性たちについての映画です。セックスや暴力など、得てして男性目線に陥りがちな内容が、リアルな表現として女性からも支持されたのは、女優陣による体当たりの演技があったからです。ここでは、そんな邦画『恋の罪』の3人の主要キャストを紹介します。
水野美紀/吉田和子役
出典: https://eiga.com
吉田和子役の水野美紀は、1997年放送のテレビドラマ『踊る大捜査線』シリーズに出演したことで、全国的に広く知られるようになった女優です。以降、主演を含む数多くの作品に出演し、女優としてのキャリアを着実に築いていきますが、邦画『恋の罪』においては、ヘアヌードを披露し、それまで培ってきた清純派のイメージを覆す新たな挑戦を見せています。
冨樫真/尾沢美津子役
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尾沢美津子役の冨樫真は、桐朋学園大学短期大学部演劇専攻修了の女優です。1998年、蜷川幸雄演出の舞台『十二夜』で主役のヴァイオラを演じたことで注目されました。また、同年の映画『犬、走る DOG RACE』では、高崎映画祭新人女優賞を受賞しています。時にヌードになることも厭わないその演技は、『恋の罪』においても、観る者に鮮烈な印象を残しています。
神楽坂恵/菊池いずみ役
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菊池いずみ役の神楽坂恵は、元グラビアアイドルの女優です。園子温監督の邦画『冷たい熱帯魚』『恋の罪』に出演し、おおさかシネマフェスティバル2012、および第33回ヨコハマ映画祭で助演女優賞を受賞しました。また、両作品に出演したことがきっかけで、園子温監督と結婚しています。
恋の罪を手掛けた園子温監督について
出典: https://eiga.com
邦画『恋の罪』は、1997年に渋谷のラブホテル街で起きた「東電OL殺人事件」という実話を元ネタに制作されたヒット映画です。ここで、この映画の監督であり、国内外でも高く評価されている園子温のプロフィールを紹介します。
園子温監督プロフィール①:詩人としてデビュー
園子温は、1961年に愛知県で生まれました。17歳のとき、詩人としてデビューし、その詩が「ユリイカ」「現代詩手帖」といった雑誌に次々と掲載されると、「ジーパンをはいた朔太郎」と呼ばれるようになります。1990年代前半には、横断幕を掲げて「ガガガ」と叫びながら渋谷や新宿の街を練り歩く街頭詩パフォーマンス集団「東京ガガガ」を主宰し、一大旋風を巻き起こしました。
園子温監督プロフィール②:代表作の映画
映画監督としては、2002年、問題作『自殺サークル』を公開します。新宿駅で54人の女子学生が一斉に線路に飛び込む集団自殺を描いたこの衝撃作は、物議を醸す一方、新宿武蔵野館では過去最高の観客動員数を記録しました。そして、2006年には、その続編『紀子の食卓』を公開します。「レンタル家族」という仕事を通して、家族の崩壊と再生を描いたこの映画は、園子温監督の代表作の一つとして、とりわけ高く評価されています。
2009年に公開された、3時間57分の長さに及ぶ『愛のむきだし』では、『映画芸術』誌上で、批評家による日本映画ベストテン第1位を獲得しました。2011年に公開された『冷たい熱帯魚』では、『恋の罪』同様、実在の事件をモデルにしています。また、同年には、両映画に出演した女優・神楽坂恵と結婚しています。翌2012年には、『ヒミズ』で初の漫画原作物に挑戦するなど、現在に至るまで活躍の幅を広げています。
恋の罪は実話映画?
園子温監督による邦画『恋の罪』は、1997年に実際に起きた「東電OL殺人事件」という実話をモチーフにして撮られた映画です。ここでは、そのモデルとなった事件を説明することで、事件と映画との関係をネタバレ解説していきます。
東電OL殺人事件とは?
「東電OL殺人事件」は、1997年3月9日未明に、東京電力の幹部社員だった女性(39歳)が、東京都渋谷区円山町のアパート1階の空き室で殺害された事件です。当初は、日本に不法残留していて、被害女性とも面識のあったネパール人男性が、犯人として逮捕され、2003年に有罪判決を受けましたが、後2012年に冤罪認定され、無罪が確定しました。その後、事件は、現在に至るまで未解決となっています。
昼はエリート社員、夜は売春婦
「東電OL殺人事件」で注目されたのは、被害者女性のプライバシーでした。彼女は、一流大学卒業後、東京電力に初の女性総合職として入社したエリート社員でしたが、退勤後は、円山町付近の路上で、客引き売春をしていたのです。そんな昼と夜の顔の二面性が、マスメディアによって取り上げられると、多くの議論が呼び起こされることになりました。
被害者女性に自分を重ねる女性多数
社会的にも金銭的にも満たされているはずのエリートが、なぜ不特定多数の相手との性行為を繰り返すようになったのでしょうか?その背景には、職場でのストレスがあったとも言われていますが、それだけでは言い尽くせない現代社会の闇が感じられます。特に、被害者と同年代の働く女性たちの間には、彼女に自分の姿を重ねてしまうとの声も、少なからずあったのです。
映画に登場する3人の女性
邦画『恋の罪』では、主要な女性が3人出てきます。ネタバレになりますが、被害者女性に最も近い存在が、尾沢美津子(冨樫真)です。昼は大学で教鞭をとり、夜は路上で客に声をかける生活を送っています。そんな彼女を信奉し教えを乞うのが、ベストセラー作家の貞淑な妻・菊池いずみ(神楽坂恵)です。そして、渋谷で起きた殺人事件に、捜査を超えた関心で引き寄せられていくのが、刑事・吉田和子(水野美紀)となっています。
事件と映画との関連
もちろん、実際の事件からは、あくまで着想を得ているだけであり、あとは作品独自の世界観へと組み替えられているので、映画が実話そのものというわけではありません。事件を元ネタにして、大幅な脚色を交えたオリジナルの物語として、現代社会に生きる人間(とりわけ女性)の闇に深く切り込んでいこうとする、そんな意欲に満ち溢れた作品とも言えるでしょう。
恋の罪のあらすじネタバレ
園子温監督による邦画『恋の罪』は、「東電OL殺人事件」(1997年)という実話をモデルに制作されています。ここでは、実際の事件との共通点と違いを具体的に探っていくため、映画のあらすじをネタバレ解説していきます。物語は、事件を追う刑事・吉田和子視点と、事件に至るまでの菊池いずみ視点を、平行させながら進んでいきます。
『恋の罪』あらすじネタバレ①:ラブホテル街で見つかる変死体
渋谷・円山町のラブホテル街にある廃墟アパートの一室で、女性の変死体が発見されました。遺体はバラバラに切断されていて、持ち去られて無くなっていた頭部などにはマネキンがあてがわれるなど、異常性が感じられる事件でした。そんな中、捜査に赴いた刑事・吉田和子は、壁に血で書かれた「城」という字に引き付けられます。
人気作家の貞淑な妻として何不自由ない生活を送っていた菊池いずみは、それでも「何かがしたい」という思いを抑えきれません。まずパートに出ますが、そこで騙されてAVにスカウトされてしまいます。ところが、それがきっかけで、いずみは、家の中でも、パート先でも、生き生きと日常生活を演じられるようになったのです。
いずみは、派手に着飾って出かけた渋谷で、怪しげな男・カオルにナンパされます。暴力的な性交渉で脅され、心身ともに疲弊していたところ、路上で客引き売春をしていた尾沢美津子と出会います。いずみは、美津子に、「手遅れにならないうちに帰れ」と、一旦突き放されますが、作家・カフカの「城」の話で意気投合したことから、「どうしたらいいのか教えてください」と頼み込みます。
『恋の罪』あらすじネタバレ②:落ちていく女たち
身元不明者を洗っていた和子は、部下から、「ゴミ収集車を追いかけ見知らぬ街まで行ってしまった主婦がそのまま失踪した」話を聞かされます。また、不倫を止められない自分に苦しんだ主婦の自殺現場に立ち会ったことから、その主婦の幻覚にも付きまとわれるようになります。実は、和子自身も、家庭を持ちながら、夫の友人と関係を結んでいたのです。こうして、和子は、事件に対して、捜査を超えた興味を持つようになります。
夜は売春をしている美津子ですが、昼は大学で教鞭をとるエリートでした。いずみは、その講義する姿に心を奪われ、彼女を信奉するようになります。「愛がなければ金を取れ」「本物の言葉は、一つ一つ、体をもっている」「お前はきちっと私のところまで落ちてこい」など、彼女の叱咤激励の下で、悩み戸惑うことの多かったいずみは、次第に、渋谷での立ちんぼを、立派にこなせるようになっていきました。
迷わず売春を行えるようになってきたいずみに、美津子は、売春斡旋人だったカオルと再会させ、デリヘル勤務へと誘います。また、母と二人暮らしをしているという「お屋敷」へ、いずみを招待しますが、そこでいずみが見たのは、今は亡き父を巡って不満や憎しみをぶつけ合う美津子とその母の姿でした。
『恋の罪』あらすじネタバレ③:それぞれの結末
いずみは、デリヘルの派遣先で、夫と鉢合わせしてしまいます。そこで発覚したのは、夫が美津子と何度も交渉を持っていた事実でした。いずみと美津子は、廃墟アパートの一室に移動し、いさかいを始めます。美津子は、叶わなかった亡き父への愛と、永遠に入口の見つからない「城」との関係を一通り語った後、いずみの首を絞めます。しかし、そこに、美津子の母が現れます。
娘の売春に苦しんでいた母は、いずみを促して美津子を絞殺させます。そして、一緒にその場にいたカオルに娘の死体を解体させます。これが事件の真相でした。カオルは首を吊り、また母は包丁で喉を刺し、共に自殺します。一方、いずみは逃亡し、立ちんぼを続けて生きています。彼女の心の支えになっているのは、美津子から講義された詩の一節「言葉なんて覚えるんじゃなかった」でした。
和子は、事情聴取に向かったいずみの夫の家で、事件の手がかりを見つけますが、無視します。事件自体に投げやりな気持ちになっていたのです。そんな中、とある朝に、和子は、ゴミ出しに遅れ、収集車を追いかけるはめになります。汗だくになり、へとへとになって辿り着いた場所は、事件現場であるアパートの前でした。そこへ不倫相手から電話がかかってきます。「今、どこだ?」と聞かれた和子は、一言「わからん」と答えます。
恋の罪を観た感想は?
園子温監督による邦画『恋の罪』は、社会的にインパクトのあった実際の殺人事件をモデルにしています。そこには、スキャンダラスな性愛が関わっているため、映画の方も、過激な演出が施された作品になっています。ここでは、そんな刺激的な映画『恋の罪』を実際に観た人たちの感想を、ネタバレ込みで紹介していきます。
ただのエログロでは終わらないすごい映画だ〜女だからかな一歩間違えたらこの映画大好きってなっちゃいそうで怖かった〜ぶちかましすぎだよ〜
「男性目線で撮らないように心掛けた」という園子温監督の狙いが成功したのか、女性からの感想には好印象なものが多かったです。「こういう異常な性愛や殺人に落ちていく闇が自分の中にもあるかしれない」という物語内容への共感のみならず、「エログロなど過激なシーンが多いにもかかわらず、決して下品になっていない」といった演出面を評価する感想もありました。
「いつまでも女として見られたい。」を女性目線で描こうとした...けどやっぱり男性的。女性目線で描いてたらここまでのエネルギーは出ないです。本当に、すごい...。園子温監督の男性的な描写に目が釘付けになります。
監督が「女性目線で描こうとした」と言っても、やはり観る人によっては、必ずしもそうは映らないという感想です。しかし、むしろ男性的な表現であるがゆえに、そこで描かれる性愛や殺人には生き生きしたパワーが宿り、それが劇中の女性、ひいては映画全体のリアルな力強さにつながっているのかもしれません。
「愛」を求めて女性という生き物の怖さ、悲しさを感じられるうえになおかつエンタテイメントとして作られているのが素晴らしかったです。こういう映画を観て、男は一体どうしたらいいのかと立ち止まってしまうくらいトラウマになりそうな映画でした。
シリアスな内容でありながら、観る人をこれだけ引き込む力を持っているのは、エンタメとしての完成度が極めて高いからだという感想です。エログロの描き方にしても、独特のコミカルさやユーモアのセンスに、思わず笑ってしまうという声も多数あります。また、折に触れて投げられるピンクのカラーボールが醸し出す妖艶な雰囲気など、やや過剰とも言える演出を、良い意味で評価する感想もありました。
冨樫真の家行ったときの早く死ねばいいのにお前が死ねよババアこの人たちほんとおかしいでしょみたいなやり取り何回観ても好き
役者陣の体当たりの演技を評価する感想は多いですが、とりわけ絶賛されているのは、尾沢美津子を演じる冨樫真と、その母・志津を演じる大方斐紗子です。特に、丁寧な口調で「下品」という単語を連発する後者は、その「怖さと気味悪さに痺れる」とまで言われています。多くの人が「怪演ぶりが光っている」という感想を述べる、お互いを憎み合う母娘のやり取りは、この映画におけるハイライトの一つと言っても過言ではありません。
恋の罪のあらすじや実話説まとめ
以上、園子温監督による邦画『恋の罪』を、モデルとなった実際の事件との関係を踏まえながら、あらすじや感想のネタバレとともに、解説してきました。3人の女性のうち、美津子といずみは、それぞれの結末を迎えましたが、和子に関しては宙吊りで終わっています。はたして彼女は闇の先へ進んでいくのか日常へ戻ってくるのか?その判断は映画を観た人に委ねられているので、興味を持たれた方は、ぜひご覧になってみてください。