2018年11月06日公開
2018年11月06日更新
聖なる鹿殺しのネタバレあらすじと感想は?タイトルの由来はギリシャ神話?
2017年に公開された『聖なる鹿殺し』。カンヌ映画祭で2度受賞している鬼才ランティモス監督の最新作です。目に見えない何かを思わせるあらすじに夢中になってしまうファンが続出。ギリシャ神話からヒントを得て作られたあらすじには、ギリシャ神話に馴染のない現代人には理解できぬ情景がより恐怖感を増幅させます。今回は『聖なる鹿殺し』の結末までのあらすじをネタバレ紹介します。『聖なる鹿殺し』の内容、どんな背景があるのか、ファンのネタバレ感想なども交えてご紹介。どんな感想を持たれるか楽しみにお読みください。
目次
聖なる鹿殺しのあらすじと感想をネタバレ紹介!
第89回アカデミー賞脚本賞ノミネート『ロブスター』のヨルゴス・ランティモス監督の最新作です。カンヌ映画祭で「ある視点」グランプリ受賞『籠の中の乙女』、審査員賞『ロブスター』、そして『聖なる鹿殺し/キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』で脚本賞と見事3度の受賞を果たした、いま世界から最高に注目が集まる鬼才ランティモス監督の作品として、本作『聖なる鹿殺し』は多く話題を集めました。
『聖なる鹿殺し』の物語はギリシャ神話、エウリピデスの「アウリスのイピゲネイア」から影響を受けた作品です。「アウリスのイピゲネイア」は古代ギリシアのエウリピデスによるギリシア悲劇の1つです。『聖なる鹿殺し』ではこのギリシャ神話からのヒントをもとに現代版映画として制作されました。今回は『聖なる鹿殺し』のあらすじ、キャストのネタバレ、映画の感想をご紹介いたします。
聖なる鹿殺しとは?
2017年公開の『聖なる鹿殺し』はコリン・ファレルやニコール・キッドマンをメインキャストとしたサイコホラー映画です。少ないメインキャストの中で複雑な人間関係や、ゾクっとさせる重々しさを実現しています。演出だけでなく音楽での表現も特徴的です。そして、その中でも特にカメラワークが話題となりました。尚、『聖なる鹿殺し』とゆうタイトルですが実際に鹿は出てきませんが、ギリシャ神話から影響を受けています。
『聖なる鹿殺し』では心臓外科医の主人公スティーブンが一人の少年を自宅に招き入れたことで、家族の身に数々の不幸が降りかかります。抗えない不可解な影響に、スティーブンは決断を迫られることになります。
本作の演出として生々しい描写もありますが、その描写がより恐怖感を増幅させます。ここからは、ネタバレを踏まえあらすじと本作の特徴を、お話していきます。ネタバレを含みますのでご注意ください。
聖なる鹿殺しのあらすじをネタバレ!
ここまで『聖なる鹿殺し』の作品背景、概要情報をご紹介いたしました。ここからは映画本編のあらすじについてネタバレを交えながらご紹介していきます。ぜひ物語の背景を想像しながら読み進めていただければと思います。多様の感想が見られる作品ですので色々な視点でご覧ください。
急に生々しく律動する心臓、そして心臓の手術をするシーンから始まります。主人公のスティーブンは今日も無事に心臓外科手術を成功させました。術後院内を歩くスティーブンは同僚の腕時計から最近の話を始めます。その後近所のダイナーで男の子マーティンと待ち合わせをします。畏まったスティーブンを尻目にマーティンは食事を進めます。そしてスティーブンはマーティンに、同僚が付けていた高級な腕時計をプレゼントします。
ネタバレあらすじ!高級住宅地に妻と子供2人と住むスティーブン
スティーブンは妻のアナと健康な子どもキムとボブがいる自宅へ帰宅します。家族団らんで夕飯を取り、夜はアナと熱いひと時を過ごします。翌日、スティーブンが出社すると病院にマーティンが来ていました。急に病院に来るなと諫めるスティーブンに、マーティンは時計のお礼が伝えたかったといいます。そこへ、スティーブンの同僚が通りかかりマーティンが同じ腕時計をしていることを見つけます。
その話を逸らすように、スティーブンは同僚にマーティンを「娘の学校の同級生」と紹介をし、医療に興味のあるマーティンは病院を見学中と説明します。スティーブンはマーティンに、マシューは麻酔科医だと紹介し雑談は終わります。
自宅ではスティーブンと子供たちがお喋りしています。晩さん会に向かうスティーブンと妻は子供たちに挨拶をして出かけます。晩さん会ではスティーブンは出席者たちに向けた心臓外科医としてのスピーチを行います。明日朝からオペがあることを理由にスティーブンと妻は退席します。
ネタバレあらすじ!マーティンを自宅に招待
翌日、スティーブンはマーティンと会います。友人は多いとか、マーティンの身の回りの話をします。そして、スティーブンは家族を紹介したいと、マーティンを自宅に招きます。マーティンは薔薇を土産にスティーブン宅を訪問。そして、マーティンは子どもたちにも、それぞれプレゼントを渡します。子供部屋では、マーティンとスティーブンの子供キムとボブが他愛もない話をしています。
16歳のマーティンは喫煙をし、吸い始めて後悔していると2人に告げます。そこから話の流れでマーティンとキムは犬の散歩を兼ねて出掛けます。キムはマーティンに得意な歌を聞かせます。夕方になり、スティーブンはマーティンに泊まっていかないかと聞きますが、母親が待っているとマーティンは帰宅するとやんわり断ります。丁寧でソフトな受け答えをするマーティンにアナは好印象を抱きます。
ネタバレあらすじ!マーティンの父親は他界していた?
スティーブンとアナはマーティンの父親の話をします。交通事故で即死したマーティンの父親はもともとスティーブンの患者だったとアナに伝えます。アナはまたマーティンを招待するようにとスティーブンに話します。その日の夜マーティンからスティーブンの携帯に電話がかかってきます。今日のお礼をかねて翌日マーティンの自宅で会えないかという用件でした。
マーティン宅を訪問したスティーブンはマーティンとマーティンの母と過ごします。夜になりマーティンは先に就寝し、スティーブンとマーティンの母は2人だけになります。マーティンの亡くなった父親を看病していた頃の話をしていましたが、マーティンの母は急にスティーブンに迫りますが、スティーブンはそれを拒否しさっさと帰宅します。
翌日スティーブンは出社すると、自分の個室にはマーティンがいました。心臓の辺りが痛い、最近喫煙をしているとスティーブンに縋ります。必死なマーティンを見てスティーブンはマーティンの心臓検査をします。そして、マーティンは今日も自宅に来てほしいと言います。スティーブンは断りますが、マーティンは母親がスティーブンに好意を寄せているから来てほしいと告げます。
そして、マーティンの体に異常がないことを伝え帰宅するよう促します。しかし、スティーブンが自宅に帰った頃マーティンから電話がかかってきます。どうしても家に来てほしいとしつこくせがみます。自宅に来ていたお抱えのコックが、病院の駐車場でマーティンがスティーブンの車の中を伺っているのを見たと告げます。そして、帰宅したキムがマーティンに会って家まで送ってもらったと言います。
ネタバレあらすじ!ボブに起きた最初の異変とは?
翌日、なかなか起きてこないボブに痺れを切らしスティーブンがボブの部屋に行きます。足が動かないと言うボブにスティーブンは駄々をこねるな、と叱りますがどうやら本当に足が動かない様子にスティーブンは焦ります。アナと一緒にボブを病院に連れていきます。ボブは神経系の検査を受けますが異常はなく、この頃には既にボブは歩けるように。スティーブンと別れ、アナとボブは外に出ようとエスカレーターを下ります。
しかし、エスカレーターを下りきったところでボブの足が動かなくなり倒れます。念のためボブは検査入院させることになります。最近はテストがあったのでちょっとしたストレスではないか、と医師と話しスティーブンとアナは帰宅します。その頃、キムはマーティンとバイクに乗っていました。帰宅したキムはなんだか様子が変でした。
翌日、スティーブンとアナがボブの病室を訪れると、病室にはマーティンがいました。マーティンは母のレモネードを持ってお見舞いに来たようでした。マーティンは病室を出る時に、スティーブンにカフェテリアにいるから来てと耳打ちします。カフェテリアでマーティンは、いつも貰っているから自分をプレゼントを渡したいと、スイスアーミーナイフを贈ります。
ネタバレあらすじ!急に本性を出し始めるマーティン
もう行かないとと言うスティーブンに、マーティンは「最近会う時間が短くなってるけど引き止めない」と皮肉を言います。ボブの事は気の毒だったと付け加えます。大丈夫だ、というスティーブンの言葉にマーティンは「いや、」と被せます。そしてこ「これからもっと最悪なことになる。ついに始まったんだ。分かるよね。」と告げますがスティーブンは分からないと反応します。
するとマーティンは更にこう告げます。「先生は僕の家族を一人殺しているから、先生の家族も一人殺さないとバランスが取れない。誰を殺すかは先生が決めることだ。でも殺さないとアナもキムもボブも全員が病気で死ぬことになる。1は手足の麻痺、2は餓死するまで食事を拒否、3は目からの出血、4は死亡。4段階だ、先生は助かるから安心して。」と早口に伝えます。
そして「3の目から出血が始まったら数時間後に死ぬ。分からないことある?」と付け加え、マーティンは帰っていきます。ボブの病室に戻ったスティーブンは、アナからボブが食事を取らないことを告げられます。どうしても食べたくないと言うボブに対して、スティーブンは無理やりドーナツを口に詰めますがボブはどうしても食べようとしません。
ネタバレあらすじ!キムはマーティンを好いていた
留守のスティーブン宅では、キムとマーティンが密会しています。キムは下着姿になりマーティンを誘いますが、マーティンは帰ると言います。キムは、困らせるなと言うマーティンに、愛してると告げます。一方、病院ではボブの食事拒否が続いていました。再検査するものの異常は見当たらず、アナと医師は心理的なものと結論付けますが、スティーブンはそれを拒否します。
スティーブンは車いすに乗ったボブを歩かせようとします。何度も無理に立たせようとしますが、その都度ボブは歩けずに倒れます。嘘をついているのなら、白状するのは今のうちだぞとスティーブンは諫めますが、ボブは本当のことだと言います。その後、病院の個室で居眠りするスティーブンのもとにアナが来て、家族で乗り越えましょうと励まします。
キムは所属する聖歌隊の練習で歌を練習しているところ急に倒れてしまいます。急きょ、ボブと同室で緊急入院することとなります。キムもボブ同様食事を取らず、無理に食べさせても戻してしまいます。頭に血が上ったスティーブンはマーティンの家を訪れますが、誰も出てきません。俺の家族に手を出すな!と玄関先で怒鳴りつけます。その後、スティーブンはマーティンの事をアナに相談します。
ネタバレあらすじ!スティーブンが隠していることとは?
スティーブンはマーティンの父親のオペをした際にアルコールを飲んでいたことが判明します。アナはその事を知っていました。マーティンへの引け目と、母親が無職のことからスティーブンはマーティンにお金を渡していました。後日、病室にはアナとボブとキムがいます。キムの携帯にはマーティンからの着信が。立ち上がって窓の傍に来て、とマーティンがキムに言うと、キムは立ち上がり窓際まで歩きます。
その姿を見てボブも立ち上がろうとしますがうまくいきません。アナはキムにもうマーティンと会うなと言うとキムはクソババアと呟きます。その発言に怒るアナはキムの携帯を取り上げます。その様子を見てキムが「落ち着いて。時々体が痛くなって眠れなくなるだけ。それだけ。次はママよ。」と言います。アナはスティーブンに事の顛末を報告します。その後、アナは一人でマーティンの家を訪れます。
ネタバレあらすじ!マーティンに翻弄される家族
家を訪れたアナにマーティンは「先生が父を殺した後、先生は母といい仲になったんです。いつもイチャついて。母も気があるようなので僕は邪魔する気はない。」と言います。アナは冷静を貫き「夫の過失の原因が職務怠慢かどうか、それは知らない。でも妻と子どもが代償を払わないといけないの。」とマーティンに質問します。それに、マーティンはパスタの食べ方の話をし出します。
マーティンは意味不明な話をした後、「フェアがどうかは分からないけど正義には近付いている。」と最後にアナに告げます。一方、医師会に参加したスティーブンは、院長からもう手を尽くしたから入院させておく理由がない、と言われてしまいます。翌日キムとボブは退院することになります。
ネタバレあらすじ!マーティンの父親の死の真相とは?
アナは一人の医師と会い、マーティンの父ジョナサン・ラングを知らないかと質問します。どうしてもカルテが見たいと詰め寄ります。アナは医師の自慰行為の手伝いをする代わりに当時の話を聞きだします。その医師は、当時スティーブンはオペに入る時すでに2杯のアルコールを飲んでおり確実にスティーブンの責任だったとその医師は言います。事実を知ったアナはスティーブンに怒りをぶつけます。互いに途方に暮れていたのです。
聖なる鹿殺しのラストをネタバレ!
ここまで、『聖なる鹿殺し』の中盤までネタバレを交えてあらすじをご紹介して参りました。ここからは、最後の結末まで引き続きネタバレしながらご紹介していきます。内容が多く開示されていますので、まだ作品の結末を見ていない方や、ネタバレが苦手な方はご注意くださいませ。
ある朝、スティーブンはアナを起こし来てくれと言います。地下室にアナが連れられて行くと、傷つけられたマーティンが軟禁されていました。アナがレモネードを作りに行った後、スティーブンとマーティンは話します。スティーブンはマーティンを殺人鬼呼ばわります。マーティンの態度に腹を立てたスティーブンは殴りつけます。
ネタバレあらすじ!スティーブンが迫られた決断とは?
マーティンはスティーブンに”決断”を迫ります。するとマーティンはスティーブンの腕に噛みつき、そして自分の腕にも噛みつき肉を噛み千切ります。これは”象徴”だとマーティンは言います。一方、アナは車についたマーティンの血をふき取っているところで銃声を聞き、焦って地下に向かいます。地下室にはマーティンに銃を向けたスティーブンの姿がありました。
マーティンはスティーブンを煽りますが、アナはスティーブンを落ち着かせます。その頃、キムとボブは自宅の一室にいます。キムは自分はマーティンと暮らすから、あなたが死んでとボブに懇願します。その後、ボブは床を這ってスティーブンのもとに来ます。ボブは「僕の本当の夢はお父さんと同じ心臓外科医。お母さんには気を使って眼科医になりたいって言ったけど本当はお父さんと同じ仕事がしたい。」と打ち明けます。
後日、スティーブンは子どもたちの通う学校で校長と会い、キムとボブのどちらが優秀か聞きます。校長は決められないと返答します。自宅ではアナが地下室にキムとボブも連れていき、マーティンに会わせていました。アナはマーティンの怪我の手当てをし、マーティンの両足にキスをします。地下室を出る時マーティンは「ボブはもう死ぬから、ボブに時間を使ってあげて」とアナに告げます。
ネタバレあらすじ!アナの非情な進言とは?
その晩、アナはスティーブンに私たちは子どもを作れるから、犠牲にするなら子供のどちらかだと言います。スティーブンは静かにそれを聞いています。その晩、キムは全員が寝静まった頃地下室を訪れていました。逃げるなら今だから私の足を直して、とキムはマーティンに言います。マーティンは煙草をふかしながら適当に聞き流しています。その態度に怒ったキムはその場を後にします。
キムがいない事に気付いたスティーブンとアナは外でキムを見つけ連れ戻します。そして、キムはスティーブンとアナに、自分の命を犠牲にしてほしいと懇願します。自分の命で母と弟を救える喜びがほしいと訴えます。翌日、アナはスティーブンに無断でマーティンを逃がします。その事にスティーブンは激高します。その頃、ボブの目から血が流れ始めます。スティーブンは優しくボブの血を拭います。
ネタバレあらすじ!決断できなかったスティーブン
その晩、スティーブンはアナとキムとボブを拘束し全員に布を被せます。銃で撃たれることを見えなくする為です。スティーブンは中心で帽子を深くかぶり回転します。どうしても一人に決められないスティーブンは運に任せようとしました。2回空振りし、3度目で命中します。布を被ったボブの首元からは大量の血が流れてきます。
後日ダイナーで食事をするスティーブン、アナ、キムの姿が。マーティンもダイナーに入ってきて少し遠くの席に座ります。キムはマーティンと目を合わせます。そして、スティーブンとアナが席を立ち、続いてキムも立ち上がります。キムの足は通常通り動いていました。その後ろ姿をマーティンが無表情で見つめます。
聖なる鹿殺しのタイトルの由来はギリシャ神話?
『聖なる鹿殺し』の公式パンフレットやwikipediaに記述がありますが、本作は古代ギリシアのエウリピデスによるギリシア悲劇の1つ『アウリスのイピゲネイア』を基にしていると言われています。もちろん『アウリスのイピゲネイア』は古代ギリシャ神話に則った作品風景となりますので現代版にアレンジされています。ギリシャ神話で見られる価値観などの影響が随所に散りばめられています。
ギリシャ神話『アウリスのイピゲネイア』とは?
『アウリスのイピゲネイア』はギリシア軍総大将のアガメムノンを主とする物語です。女神アルテミスの怒りを買ったアガメムノンは女神の怒りを緩和させる為、娘イピゲネイアを生贄とすることを決断します。自国兵たちの反乱分子を抑える為の決断でした。アガメムノンは兵士であり偉大な英雄であるアキレスと結婚させると偽り、娘イピゲネイアと妻クリュタイムネストラを呼び寄せます。
しかしアガメムノンの偽りと知った2人は心底ショックを受けます。妻クリュタイムネストラは娘を奪われることを拒みますが、娘イピゲネイアはギリシア軍を救う英雄として堂々と死ぬことを望みました。妻クリュタイムネストラとアキレスはなんとかイピゲネイアを救い出そうとします。そして、死に赴くイピゲネイアの最期の祭壇の上で、イピゲネイアは鹿と入れ替わってしまいます(諸説あり)。
ギリシャ神話『アウリスのイピゲネイア』と『聖なる鹿殺し』の共通点
ギリシャ神話をもとにすると、あくまでも物語を真似ているわけではありませんが、『聖なる鹿殺し』の劇中にギリシャ神話に共通する部分がいくつか見られます。女神アルテミスの怒りのような”超自然的要素”としてマーティンの呪い(復讐)として模っていたり、生贄が必要となる要素であったりが当てはまります。生贄となったイピゲネイアがキムで、鹿がボブという見方が一番分かりやすいという感想もあります。
そして、劇中の一幕でキムがこのギリシャ神話に関する作文を書いている事が描かれています。キムのセリフの中に「私を支配しているのはお父さんだから好きにして」というような発言があります。キムが『アウリスのイピゲネイア』を知っていて、生贄となる娘イピゲネイアと自分を重ねていた為、そういった言い方をしています。マーティンの呪いを明確に描写しなかった点もギリシャ神話に寄せている、との意見も見られます。
支配する者・される者の構図もギリシャ神話からきている?
本作では”支配”を思わせる構図が多々でてきます。まずはスティーブンは心臓外科医で執刀もしますのでオペ中はスティーブンがオペ室の支配者となります。また、父親を失ったマーティンに献身的に振る舞い信用を得ることでマーティンを支配しようとします。そして、マーティンがスティーブンとその家族を支配する立場へと変わります。最終的にはスティーブンが家族全員の命を握る者として支配者となります。
この”支配する者”と”支配される者”というのはギリシャ神話時代当たり前である上下関係を表しています。古代ギリシャでは支配するか支配されるかの立場しかありませんでした。病状の中でも、歩けなくさせることで頭を低くさせ、食べられないことで奴隷制度を思われる共通点もあります。映画『聖なる鹿殺し』中でもこのギリシャ神話由来の支配の構図を効果的に多用しています。
ギリシャ神話的”フェアトレード”
マーティンは常にスティーブンと対等の立場でいるよう行動しています。ダイナーではスティーブンに支払いをさせません。スティーブンからプレゼントを貰えば、マーティンからもプレゼントを返します。スティーブンの家でレモネードをご馳走になれば、今度は自宅へ招きレモネードをご馳走します。そして、マーティンはスティーブンの腕と自分の腕に噛み傷を作り「象徴」であると言います。
この事から殺された父の代わりをスティーブンに求める事がマーティンにとっての「正義」であったと考えられます。実際にマーティンは「正義には近付いている」と言っています。現代では到底考えられませんが、古代ギリシャでは「目には目を歯には歯を」が当たり前の価値観だったことを演出している、との感想も見られます。ギリシャ神話自体とても奥深いです。
聖なる鹿殺しの謎を徹底解説!
『聖なる鹿殺し』はシンプルに淡々とあらすじが進みます。一度映画を観ただけでは理解しづらい点も多く存在します。その中でも多く疑問視されている点を解説していきます。様々は感想がありますので、その中の一つの感想としてお楽しみいただければと存じます。
聖なる鹿殺しのカメラワークが意味するものとは?
『聖なる鹿殺し』では特徴的なカメラワークが使われてます。”目線”が少ないことから、観ている側からすると想像が膨らむ半面ヒヤっとした感覚を持ちます。多くの映画では何かハプニングがあると本人以外のキャストの表情や反応を入れ感情操作を行いますが、『聖なる鹿殺し』ではそういった演出が少ないです。特にボブが倒れたシーンではただひたすらに上から映し続けるという方法を取っているので周りの細かい反応が見えません。
この見下ろし続けるシーンが数秒続くことで、見ている側自身が”何者かの目線”として見下ろしている感覚を植え付けます。そして、被写体と同時に動くカメラワークも多く見られました。通常はカメラが固定されている状態で被写体が動いていくシーンが多いですが、『聖なる鹿殺し』では被写体と同じ速さで動くので、前述同様”何者かが付いてくる感覚”を感じられるのです。
そして最大の特徴として”大きな変化がない”ことです。『聖なる鹿殺し』を見終わった時点で”疲れていない”のです。通常はキャストの喜怒哀楽に自分も入り込んだり、一挙一動に都度反応したりとたった2時間見ているだけなのに結構疲れます。しかし、『聖なる鹿殺し』ではキャストの表情はほぼ変わらず、抑揚の激しい部分も少なく虎視眈々と時間が過ぎるので視聴者目線で常に冷静でいられます。その中でただ不気味感だけが残ります。
この映画が伝えたかったこととは?
『聖なる鹿殺し』ではマーティンの復讐劇が繰り広げられますが、あくまでも直接的な描写であり内面的な描写はスティーブン自身の贖罪にフォーカスしているものという声があります。劇中で、マーティンはそれこそ恐ろしい事をたくさん言いますが、実態に人を傷つけたりせず逆に自傷行為をするほどです。その為、本当に伝えたいこととは”過去に起こした間違いを補う為の贖罪”という部分が最終的な答え、というコメントもあります。
そして、他に表現した部分として”人間の非情さ”という点も挙がります。スティーブンは自らの贖罪の為に家族を生贄にする運命を辿りますが、自分の犯した罪をなぜ家族が代償を負うのか、という描写が一切ありません。そして、スティーブンが生贄を選ぶ際に母親であるアナは、子どもを選ぶように促すシーンがあります。普通親であれば子どもが助かる道を追求するものですが、そういったスティーブンとアナの犠牲心が見られません。
聖なる鹿殺しを見た人の感想を紹介!
『聖なる鹿殺し』はとても素晴らしい作品ですが、個性的な為観る人を選ぶ作品でもあります。様々な賛否両論が見られますがその中から一部ご紹介いたします。
不評な感想を紹介!
映画 #聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア 鑑賞。
— グルミット (@GenyRedWell) April 24, 2018
不穏な空気と張り詰めた音楽が緊張感を煽る。
一見穏やかな人物たちが、徐々に歪な心の闇を見せ、遂にはエゴを剥き出しにしてくる恐怖。
何処に収束するのか全く見えないうちに後味の悪い結末。
共感出来ない不快さ。#横川シネマ pic.twitter.com/1Yf7WZBPnU
不評意見のほとんどが、不気味さが生理的に合わなかったという方が多いようです。また、最終的に何を伝えたいかがほとんど見えてこないので後味が悪かったと思われる感想がありました。
好評な感想を紹介!
『聖なる鹿殺し』鑑賞!なんというか・・・好み過ぎる作品だった。タイトルが全てを語っている。いつも存在感ありまくりのバリー・コーガンだけど、この作品は彼なくしては成り立たない!大袈裟すぎるくらいの音の演出も相まって不気味さを際立たせていた。エンドロールも秀逸。 pic.twitter.com/1La0rcrAOh
— 魔人アラタ (@arata_222) April 5, 2018
好評意見には今までにない感覚にハマってしまった方が多いようです。人の死が明確に描かれないのに”死の恐怖”を感じられる本作では得体の知れない恐怖感を感じてしまう方が多く見られました。その不思議な感覚を気に入られた方が多く、そういった感想も多く投稿されていました。
中間的な感想を紹介!
#聖なる鹿殺し
— yossy (@la_paixmondiale) March 4, 2018
絶対的支配者を前にただひれ伏す
しかないのか…
エゴと自己愛と欲望
人間の業のおぞましさや哀しさ
因果応報の果ては心の闇や恐怖に振り回される
あー怖かったぁ😱
さらにBGMが怖さを増長して不気味!
やるせない気持ち…
あまりの不条理にワナワナ
これを怪作と言わずして何と言う pic.twitter.com/35zRygCvvE
様々な感想を見ていて多かったのが、下記のような中間的な感想でした。傑作なのは理解するけど・・・と思われている感想も多いです。色々な意見が寄せられるからこそ相当凝った作品だったと言えます。
聖なる鹿殺しのネタバレまとめ!
この度は映画『聖なる鹿殺し/キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』に関して、結末までのあらすじやファンからの感想について、ネタバレを交えながらご紹介いたしました。感想紹介の部分でも記載していますがこれまでに無かった感覚を感じる方が多い作品となっています。これはこれまでの映画界を大いに賑わす朗報ですのでまた見ていないという方には、ぜひ一度ご覧いただければと思います。
本作の監督、脚本を務めた鬼才ランティモス監督の作品には『籠の中の乙女』、そして『ロブスター』も賞を受賞しています。いずれも大変興味深い作品となっていますので、気になるかたはぜひ観てみてください。ランティモス監督の演出に夢中になってしまうこと間違いなしです。
今回のネタバレあらすじ紹介では『聖なる鹿殺し』の魅力が伝わるようにご紹介しておりますが、書ききれない魅力もまだまだたくさんございます。もし、もう一回見てるんだけどな・・・という方でも違った目線で見ていただきたいので、ぜひ2度目3度目にご挑戦いただければと存じます。より本作を理解できるようになります。周りの方とも是非意見交換してみてください!