恋する惑星（映画）のあらすじまとめ！フェイウォンの主題歌も紹介

では、映画「恋する惑星」のあらすじをご紹介します。映画「恋する惑星」は当時まだイギリス領だった香港が舞台です。イギリスから中国に返還されたのが1997年ですので、返還三年前に公開された映画ということです。原題は「重慶森林」、英題は「Chungking Express」。香港の九龍にある重慶大厦（チョンキンマンション）を主な舞台とした2組の男女の恋愛模様です。

映画「恋する惑星」は2部構成になっています。1部は警官223号（金城武）と、金髪のカツラを被った麻薬ディーラー（ブリジットリン）。2部は警官663号（トニーレオン）と「ミッドナイトエクスプレス」の店員フェイ。1部は雑居ビルである重慶大厦、2部はおしゃれなバーなどが立ち並ぶ蘭桂坊（ランカイフォン）が主な舞台です。

まずは「恋する惑星」1部のあらすじから。1994年4月28日から映画は始まります。長年つきあった彼女メイにふられた警官223号モウ（金城）は、まだ諦めきれていません。ポケベルにメイからのメッセージがないか確かめたり、メイの好きな店に通ったり、メイが好き（だと思っている）パイナップルの缶を買い続けたりしながら気持ちの整理をしていくのです。

金髪にサングラス、トレンチコートを身にまとった女ディーラー（ブリジットリン）。麻薬を密輸するために重慶大厦で大勢インド人を雇い、食事をおごったり身支度をさせたりのですが、土壇場で麻薬を持って逃げられてしまいます。早く捜し出さなければ殺される、焦る彼女は苦労してインド人たちを見つけ銃撃戦に。ようやく逃げ切ったところで警官223号と出会います。

「パイナップルは好き？」を口説き文句に、女ディーラーとバーで飲む警官223号。最初は相手にしなかった女ディーラーも、警官223号を信頼していき、二人は心を通わせます。女ディーラーの為にホテルを借りますが、結局何もないまま二人は別れます。5月1日、警官223号のポケベルには、女ディーラーから「誕生日おめでとう」と伝言が残されていました。

「恋する惑星」2部のあらすじを見ていきましょう。警官663号（トニーレオン）にはＣＡ（客室乗務員）の彼女がいます。彼女の為に惣菜を買う店（ミッドナイトエクスプレス）の店員がフェイ（フェイウォン）なのです。何度か通ってくるうちに、663号は彼女にふられてしまいます。彼女は店に現れ、663号に家の鍵と手紙を渡してくれるよう店主に頼みます。店主を始め、フェイも含む店員たちはその手紙を開けて読んでしまいます。

663号と友達になったフェイですが、不在時を見計らい合鍵を使って663号の家に上がりこみます。そして勝手に部屋の模様替えをしていくのです。何も知らない663号は、失恋の痛手からか変わっていく自分の家にあまり注意を払っていません。しかしある日、とうとうフェイが自分の家の模様替えをしていることに気づくのです。

元カノをなかなか忘れられないでいた663号ですが、フェイの恋心に気づきます。店にやってきた663号はフェイをデートに誘いますが、フェイは店主に手紙を託しカリフォルニアに行ってしまいます。1年後、フェイがミッドナイトエクスプレスに帰ってくると、そこには663号の姿が。二人の恋はこれから始まる、というところで映画は終わります。

「恋する惑星」は、日本でつけられたタイトルです。原題は「重慶森林」。重慶は映画の舞台になった重慶大厦から、森林はジャングルのような意味ですので、ジャングルのようにいろいろな生き物（人間）がひしめく重慶大厦でのストーリーということを表しているのでしょうか。英題の「Chungking Express」のChungkigも重慶のことです。Exprssは直訳すると特急、速達ですが、忙しい現代香港人の有様を表しているようです。

邦題「恋する惑星」は原題・英題よりポップで柔らかい印象です。原題・英題では映画の中身までわかりませんが「恋する惑星」だと恋愛映画かな？という見当はつきます。街の一角での恋愛模様に「恋する惑星」というタイトルはミスマッチのようにも言われますが、香港の雑多でせわしない人ごみで起きた「恋」はこの地球という惑星の何処ででも起きるものなんだ、ミクロでありマクロ、という風にも受け取れるとも言われています。

王家衛監督の映画は「難解」「意味がわからない」とよく言われます。「恋する惑星」は比較的わかりやすい方に属するようですが、一度見ただけでは理解しにくい方も多いようです。映画「恋する惑星」のあらすじを追いながら、意味を解説していくことにします。

1994年4月28日金曜日夜9時。「その時、彼女との距離は0.1ミリ」とあるように、警官223号であるモウと、女ディーラーが出会います。でもその出会いはすれ違いであり、モウのモノローグ通り「57時間後」に二人は再び出会うのです。最初の出会いの後、モウは「ミッドナイトエクスプレス」でやってくるはずのない元カノメイの帰りを待ち、入っているはずのないポケベルの伝言を確かめるのです。

ポケベルのパスワードは「1万年君を愛す」。しかしメイからの伝言はありませんでした。一方女ディーラーは、重慶大厦でインド人たちに金を払い彼らの体のサイズを測らせます。麻薬を彼らの服やスーツケース、靴の中に隠して空港の税関を通らせる計画なのです。

身支度を整えさせたインド人たちは、女ディーラーが少し目を離した隙に逃げ出します。彼女はデニスブラウンの「Things in Life」がかかるバーで、5月1日がタイムリミットだと知らされます。そしてモウのモノローグ。4月1日にふられた彼は、5月1日期限のパイン缶を毎日買い続けています。それまでにメイが戻らなければ諦めるつもりなのです。

女ディーラーは逃げたインド人たちの行方を捜します。少女を誘拐し、仲間の居所を突き止めた様子。モウは半年追っていた犯人を逮捕し、メイに報告しようと電話しますがメイではなく男が出て電話を切ります。5月1日期限のパイン缶は廃棄されていて、期限切れになれば捨てるのかと店員に食ってかかるのです。恋の期限切れでふられた自分を重ねているように……

重慶大厦で、女ディーラーは裏切ったインド人たちを銃で撃ち殺します。反撃してくる追手を振り切り、地下鉄で安全圏へ。223号モウは今まで買い溜めしていたパイン缶を食べまくります。パイン缶の期限＝恋の期限は切れてしまったのです。次の恋を探そうとミッドナイトエクスプレスへ行きますが、店員のメイは違う男とデートしている模様。手当たり次第に女の子に電話してみますが、誰ひとり捕まりません。

バーに行って酒を飲むモウは、店に入ってきた女性を好きになろうと決意します。そしてやってきた女ディーラーに声をかけるのです。最初は相手にしない女ディーラーでしたが、モウは積極的に話しかけます。二人は閉店まで飲みあかし、ホテルで休みます。眠っている彼女と同じ部屋で古い映画を2本、サラダを4皿食べるモウ。彼女の靴をネクタイで綺麗に拭いてから部屋を出ます。

早朝ジョギングをしたモウのポケベルに、女ディーラーから「誕生日おめでとう」の伝言が。モウにとって忘れ得ぬ人となった彼女の記憶に期限がないといい、と微笑みます。女ディーラーは「Things in Life」のバーにいた男性を射殺します。モウは新しい店員フェイを店主に勧められ、ここで1部が終わって「恋する惑星」2部のストーリーが始まるのです。

ママス＆パパスの「カリフォルニアの夢」が大音量で流れます。店員フェイのお気に入りの曲のようです。警官663号は店主に勧められ、ＣＡの彼女にサラダとフライを買って帰ります。663号はその後フライとピザを買いますが、ＣＡの彼女にふられてしまった模様。夜食の好みが変わるように、男の好みも変わったようです。つまみ食いが終われば帰ってくると店主は慰めますが、結局ヨリは戻らないのです。

663号の元カノが店にやってきます。家の鍵と手紙が入った封筒を店主に託しますが、店員全員がその手紙を盗み読みするのです。そしてフェイから渡すよう仕向けるのですが、663号はまた今度と受け取りません。失恋の痛手から、家にある石鹸やタオル、豚のぬいぐるみやシロクマに話しかける663号。担当地域が変わったので店には行かなくなります。しかし、市場でフェイと再会します。

表向きは友達ですが、フェイは合鍵を使い勝手に663号の家へ。楽しそうに彼の部屋の模様替えをします。模様替えはかなり大規模なもので、普通なら気づきそうなものですが663号はなかなか気づきません。しかしある日、とうとう鉢合わせします。フェイは足がつったと嘘をついてごまかし、マッサージをしてもらいます。それから663号は、自分の家の中が以前と違っていることに気づき始めるのです。

フェイが部屋から飛ばした紙飛行機で、ようやく633号はフェイが自分の家の模様替えをしていること、自分を好きだろうことを悟ります。店にやってきた633号は、フェイを「カリフォルニア」という店でのデートに誘います。しかし約束の日、フェイは来ません。本当のカリフォルニアに行きたくなり、手紙を残して旅立ったのです。

一年後。フェイはミッドナイトエクスプレスにＣＡの恰好で現れます。店は663号が買い取り、改装中でした。「カリフォルニアの夢」が大音量でかかっています。新しい飛行機のチケットを書いてあげる、と言うフェイ。「行先はどこにする？」と聞かれ、663号は「君の好きなところに」と答えます。二人の恋はここから新しく始まるんだな、というところで「恋する惑星」はエンディングを迎えます。

映画「恋する惑星」は返還前のざわざわした香港の空気、鮮やかな色使い、スタイリッシュなモノローグや映像美に魅力的な主題歌、挿入歌やＢＧＭが上手く噛み合っています。特にフェイウォンの透明でのびやかな歌声は主題歌「夢中人」にマッチし、映画のみならずフェイウォンの人気を確かなものにしました。映画「恋する惑星」に出てくる主題歌、挿入歌についてご紹介します。

フェイウォンの中国名は王菲と言います。1969年生まれ、出身は香港ではなく北京。北京、香港で数枚のアルバムを出しアメリカへ留学した後、1993年「ルージュ」のカヴァー曲「傷つきやすい女」でブレイクします。「ルージュ」はちあきなおみの歌で、作詞作曲は中島みゆき。広東語で歌われたアルバムの累計売上でギネスにも載ったことがあり、第二のテレサテンとも呼ばれているそうです。

「恋する惑星」の主題歌「夢中人」も、アイルランド出身のロックバンドThe Cranberriesの「Dreams」という曲のカヴァーです。フェイウォンより、元歌の方がソフトな感じの歌声です。Dreamsは映画「ユーガットメイル」の主題歌、キリン生茶のＣＭにも使用されています。

「Dreams」も「夢中人」も、歌詞は恋の始まり特有の夢見心地な喜び、ドキドキ感を歌ったものです。映画「恋する惑星」は通常の恋愛ものより現実から少し浮遊していて、ある種「夢の中」のような印象を受けます。そのちょっと不思議な空気感と、ふわふわした透明な恋する気持ちが「夢中人」によって見事に表現されているのです。

レゲエの貴公子デニスブラウンの歌う「Things in Life」は「恋する惑星」の前半部分、女ディーラーと関係のある白人男がいるバーで流れる曲です。ゆったりしたリズムに乗って、人生良いことも悪いこともいろいろ起こるけれど、ちょっとした信頼が大切だと歌っているのです。

1965年に発表されたこの曲は「恋する惑星」2部のテーマ曲になっています。この曲は夢の中に出てきたものが元になっているそうです。寒い冬の日に暖かいカリフォルニアの夢を見、カリフォルニアに行きたいと焦がれる歌詞です。この曲はカーペンターズやビーチボーイズなどがカヴァーしています。

原題は「What a difference a day makes」。たった一日で世界がこんなに変わるなんて、というような意味です。こちらも恋の素晴らしさを歌った歌です。663号とＣＡの彼女が部屋でイチャイチャしていた時に流れていた曲ですが、後にフェイをデートに誘う時にも店内に流れています。663号は「その曲は似合わない」と言い、「カリフォルニアの夢」のＣＤを渡します。

映画「恋する惑星」のあらすじや主題歌、挿入歌を見てきましたが、いかがでしたでしょうか？王家衛監督はきちんとしたシナリオを決めず、俳優たちの個性、特性を見ながらまるでジャズのセッションのように撮影を進めていくことで有名です。雑多な国籍の人々が集まる、タフでジャンクな香港。俳優たちの演技、挿入される音楽はまるでドキュメンタリーのようなライブ感を持っています。

「恋する惑星」は恋愛の素晴らしさを謳った映画です。今日人ごみですれ違った人と恋に落ちるかもしれない、そして退屈で灰色だった日常は、一瞬で鮮やかな色彩を放つかもしれない。それは香港でも、日本でも、この地球という惑星のどこででも起こりうる現象なのだと教えているのです。