2018年08月22日公開
2018年08月22日更新
ノーカントリーを解説ネタバレ!あらすじや人気の理由・魅力も考察
映画ノーカントリーは、2007年度のアカデミー賞で8部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞の計4冠を受賞したスリラー映画です。当時の批評家たちからも絶賛の評価を受け、監督コーエン兄弟の名声をより確固たるものにしました。この記事ではノーカントリーのあらすじや人気の理由、観た人を惹きつけて離さない不思議な魅力をネタバレを含みながら紹介・解説していきます。
目次
ノーカントリーを解説ネタバレ!
2007年にアメリカで公開された映画ノーカントリー。アカデミー賞4冠他、世界の映画賞で89部門を受賞したこの映画は今でも世界中から評価されています。この映画を初めて観た時の衝撃を憶えていますか?難解なメッセージ解釈に悩み、あらすじや結末に呆気にとられ、それでもその魅力に憑りつかれてしまう。そんな不思議な魅力をもった映画ノーカントリーについて、あらすじなどネタバレを含め解説していきます。
ノーカントリーとは?
スリラー映画!
ジョエル&イーサン・コーエン兄弟が監督したノーカントリー。スリラー映画を得意とする両監督の代表作です。監督自身が「自分たちが監督した映画の中で飛び抜けて暴力的だ」と語っているとおり、随所に暴力、殺人といった描写があり観る人を常にハラハラさせるあらすじになっています。しかしそれだけでは終わらない奥深さがこのノーカントリーの魅力なのです。
原作は「血と暴力の国」
原作は2005年に発表されたコーマック・マッカーシーの小説「血と暴力の国」。原題は映画と同じく「No Country for Old man」、「ここは老いたる者たちの国ではない」という意味です。この句はアイルランド出身の詩人ウィリアム・バトラー・イェイツの詩「ビザンティウムへの船出」の冒頭から引用されています。
ただイェイツがこの詩で芸術の都ビザンティウムへのロマンを謳ったのに反して、映画と小説のあらすじでは暴力や欲、死といった、ただひたすらの現実が描かれています。マッカーシーもコーエン兄弟もその相反する皮肉も含めて、このノーカントリーを表現したかったのかもしれません。
ノーカントリーのあらすじネタバレ!
以下はノーカントリーのあらすじとなります。あらすじを簡単に解説していますが、ネタバレを多く含む内容となりますのでご了承ください。
物語の舞台は1980年のアメリカ合衆国テキサス州西部。凶悪化する犯罪を憂える保安官エド・トム・ベル(トミー・リー・ジョーンズ)の独白を背景に、殺し屋アントン・シガー(ハビエル・バルデム)が若い保安官を殺して逃走するところから始まります。
一方、もう一人の登場人物、ルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)は猟の途中で、麻薬取引が決裂したように見える銃撃戦後の殺人現場に遭遇します。ベトナム帰還兵だったモスが周囲を注意深く探ると、少し離れた場所に100ドル札が詰まったブリーフケースが放置されており、このケースを自宅に持ち帰ります。これがモスの死と隣り合わせの逃避行の始まりでした。
その夜モスは昼間見た光景が気になって現場に戻ってしまい、メキシコ側の組織に追われます。同時にアメリカ側の組織に金の奪還を依頼されたシガーにも追われることになるのです。現場に残してきた車から身元がバレて身の危険を感じたモスは、妻のカーラ(ケリー・マクドナルド)を実家に帰し、自分はモーテルに潜伏します。
しかし札束の入ったブリーフケースに仕掛けられていた発信機からすぐに居場所は特定され、シガーとメキシコ人たちがそれぞれモーテルに踏み込んできます。しかし用心深いモスは予めケースをうまく隠していたので、辛くもモーテルを脱出し次の潜伏先へと向かいます。シガーはこの時、モスによって通気口にブリーフケースが隠されていた痕跡に気が付いていました。
一方発信機の存在に気が付いたモスは、それを囮にシガーを返り討ちにしようとしますが、激しい銃撃戦の末どちらも重傷を負ってしまいます。その後シガーが自らの傷の手当に時間を取られている間に、モスは国境を越えてメキシコの病院入院します。
病院で目覚めた時モスに面会に来ていたのは、シガーと同じアメリカ側の組織に雇われた賞金稼ぎのカーソン・ウェルズ(ウディ・ハレルソン)。金と引き換えにモスの命を守ることを提案しますが、モスはそれを拒絶します。
その後、ウェルズは滞在先のホテルでシガーにあっさり殺されてしまいますが、その部屋にモスからの電話がかかってきます。ここで初めてモスとシガーの会話が成立するのです。シガーはモスが一人で金を持って来れば妻のカーラには手出しをしないという条件を出しますが、モスは拒否して電話を切ります。
再び国境を越えアメリカに戻ってきたモスは、カーラに電話をしてエル・パソのモーテルで待ち合わせて金を渡す計画を話します。しかしそれを追いかけてくるのは3組。モスが飛行機で逃げると予測してエル・パソの空港を目指したシガー、紳士を装いカーラの母親から行先を聞き出したメキシコ人たち、カーラから事情を聞いて惨劇を防ぐべく駆けつける保安官のベル。
しかしモーテルに到着したベルを待ち受けていたのは、多数の銃声とメキシコ人たちが車で逃げ去る姿でした。そしてモスはすでに部屋の中で殺されていて、そばにはマシンガンを持ったメキシコ人も倒れていました。
その夜、気になったベルが現場のモーテルに戻ると、シガーによって新たに鍵が壊された形跡がありました。シガーの気配を感じて恐る恐る部屋に入るベル。しかしそこにはシガーの姿はなく、コインで開けられたような通気口の蓋が落ちているだけでした。
シーンは変わって後日、母親の葬儀から帰ったカーラの目の前にシガーが現れます。シガーはモスとの取引に基づきカーラを殺さなくてはいけないと言いますが、途中で気が変わりコイントスでの勝負を持ち掛けます。しかしカーラは動じず「決めるのはコインではなくあなたよ」と言い放ちます。
カーラの家を後にしたシガーは、交差点で横から車に突っ込まれる事故に遭い重傷を負います。通りかかった少年から買ったシャツで折れた腕を吊って、救急車が来る前に足を引きずりながらその場を立ち去るシガー。
そして物語は保安官を引退したベルが、妻に自分の見た2つの夢の話をするシーンで幕を閉じます。深い余韻と数多くの謎、様々な難解なメッセージを残して。
ノーカントリーを解説ネタバレ!
一度観ただけでは、その難解さに首を傾げたくなるノーカントリー。ここではそのあらすじから読み取れることを、ネタバレを含め解説していきます。
モスを追っていた組織とは?
麻薬の取引現場とみられる現場から金を持ち去ったモス。そのモスを追ってきていたのは、麻薬を買い取る側だったアメリカ側組織が雇ったシガー。後に追加で雇われた賞金稼ぎのウェルズ。対して麻薬を売る側だったメキシコ人の組織。
しかしメキシコの組織はモスを追う必要があったのでしょうか?麻薬取引が失敗した夜にトラックに積んであった麻薬は回収したようですし、その場で不審な動きをするモスを追うのは当然ですが、その後はもう用はないはずです。では執拗に追ってきたスペイン語を話すメキシコ人たちは何なのか?彼らの目的もモスの持つ金の入ったケースのようです。
金を回収するのが目的なのはアメリカ側の組織。メキシコ人たちもモスが最初のモーテルにいることを探せたのは受信機を持っていたから。モーテルで殺されたメキシコ人の話を聞いたベルが「アメリカ国籍を持っていたかが重要だ」というセリフ。これらを考えるとモスを最後まで追っていたメキシコ人たちは、実はアメリカ側組織に雇われたアメリカ国籍を持っているメキシコ出身者たちかもしれないという推測もできます。
シガーの使っている武器についての解説
殺し屋シガーの使っている武器は銃でもなくナイフでもなく、家畜銃ピストルと呼ばれるもので、本来は家畜を殺すためのものです。ボンベの中の圧縮した空気でボルトを撃ち出し、そのボルトはバネで引っ込むようになっている仕組みです。弾が残らないで殺せる、当時は最新型の器具でした。
誰がモスを殺したのか? ネタバレ注意
モスが殺されるシーンで映されているのは、大急ぎで逃げていくメキシコ人たちの車、殺されて倒れているモス、同じく撃たれて倒れているマシンガンを持ったメキシコ人と、その前のシーンでモスと話していた女性。ここにシガーの姿はありません。この状態で一見すると、車で逃げたメキシコ人たちがモスを殺したかのように思えます。
しかしそれならば何故、メキシコ人たちは仲間の一人を見捨てて逃げたのでしょう。そして何故あんなにも慌てた様子で車は走り去ったのでしょう。この2つの点から、カメラに映らない表現としてシガーの存在が匂わされているのではないでしょうか。
メキシコ人たちにはモスと話していた女性を襲う理由がありません。何の感情もなく殺人を繰り返すことかできるのは、この映画ではシガーだけです。シガーはまず邪魔な女性を撃ち、モスを追い部屋で殺し、そこへちょうど乗り込んできたメキシコ人の一人も撃つ。そしてベルの到着と共に姿を消す。そんなシーンが裏にあったのではとういうことも考えられます。
カーラはシガーに殺されたのか?
映画ではカーラが殺されるシーンも描かれていません。シガーとカーラの会話の後、シガーが家から出てくるシーンがあるだけです。では結局、シガーはカーラを殺さずに出てきたのでしょうか?
しかし、ここにも巧妙な表現が出てきます。ドアを出てきたシガーが、しきりと自分の靴の裏を気にしているシーンです。この前にもシガーが靴を気にしたシーンがありました。ウェルズをホテルで殺した時です。流れてくるウェルズの血を気にして足をよけたシガー。殺し屋としてのシガーの慎重さなのかもしれません。
カーラの家から出た来た時も靴の裏を確認したということは、カーラはシガーに殺されたという表現ということになります。ただウェルズの時は血をよける余裕があったのに対し、カーラの時は靴裏を確認しなくてはいけない程、シガーにとっては珍しく動揺してたとも解釈することができます。
最終的に大金を手に入れたのは誰?
最後にモスが隠れていたモーテルの通気口が開けられていたので、ケースの金はシガーが手に入れたのでしょうか?モスが通気口にケースを隠すようにしていたのを知っていたのはシガーだけです。雇い主だったアメリカ側のボスもシガーが殺しているので、手に入れた金を雇い主に返す必要もありません。実際に原作の小説にはケースを回収したシガーが車に乗り込む描写があります。
しかし、実はモスが殺される前にすでにカーラと会っていて、金だけ受け渡し済みと考えるのはどうでしょうか?シガーがカーラを訪ねる理由にもなりますし、この時のカーラのセリフ「お金は持ってないわ。持っていたお金は使ったし、諸々の請求書も多い」も観る人の想像力に訴えかけるようにできています。しかし最終的に、少年たちに100ドル札を渡したシガーが手に入れたと考えるのが順当かもしれません。
ベルが保安官を辞めた理由の解説
事件後、ベルは保安官を辞めます。辞める意思を元保安官の叔父に話に行くシーンがあり、時代の流れと共に凶悪化する犯罪に自分の無力を感じたと語っています。直接の原因はもちろんモスの事件なのですが、その中でもシガーとの対峙が大きく影響していると思われます。
冒頭でもベル自身が独白で「魂を危険にさらすべき時は“OK”と言わねばならない」と言っています。暗い部屋の中でのシガーとの駆け引き。鍵がかかった洗面所の窓を確認することで、さらに緊張感が高まります。結局部屋の中でシガーを見つけることはできず、ベルはベッドに座り込みむのですが、この死と隣り合わせの状況から解放された時の脱力感と無力感。ベルの表情が多くを語っています。
ノーカントリーが人気な理由と魅力を考察!
ここまではあらすじに基づいた解説をしてきましたが、以下は映画ノーカントリーが公開されてから10年、その衰えない人気の理由と魅力を、ネタバレを含めて考察していきます。
視点が面白い!
ベルの独白から始まって、ベルの見た夢の話で終わるノーカントリー。話全体の流れはモスとシガーの命を懸けた駆け引きなのに、ここにベルが加わることによって話に奥行きが増しています。この映画を麻薬取引のトラブルを描いたサスペンスとしてみるか、現代社会の不条理を表現した映画とみるか、観た人の数だけ解釈があり楽しみ方があります。そんな変幻自在な観方ができるのもこのノーカントリーの魅力なのではないでしょうか。
意味深な結末!
ノーカントリーには結末と呼べるものが2つあります。それぞれをネタバレを含み解説していきます。
1つ目は交通事故に遭って重傷を負い、去っていくシガー。これまで他人の生と死を思うがままにしてきた殺人鬼シガーも、やはりこの不条理な世界の一部でしかなかったことを表しているかのような結末です。そして善良な心で助けにきた少年たちもシガーからお金を受け取った途端、その権利について争いをはじめます。永遠に繰り返される人間の欲という現実を表現しているのかもしれません。
2つ目の結末は、ベルの見た意味深な2つの夢。1つ目の夢は「どこかの町で親父に金をもらい、それを無くした」。祖父から父親、そしてベルと3代続いた保安官という職(金)を手放してしまったという後悔を表している夢なのかもしれません。
2つ目の夢にも父親が出てきます。「夢の中で俺は知ってた。親父が先に行き、闇と寒さの中どこかで火を焚いていると。俺が行く先に親父がいると」。ベルの行く先で暖かな火を持って待っていてくれる父親。決して父親は保安官を辞めたベルを責めたりはしない、という救いの暗示がある夢にも思えます。
これらの意味深な結末は、観た人がそれぞれの考えで解釈し、また他の人とも議論したくなるというのがこのノーカントリーの魅力であり、根強い人気の理由かもしれません。
ノーカントリーの評価と感想を紹介!
現在でも世界中から様々な評価をされているノーカントリー。その評価と感想を以下にまとめてみました。
完成度が高い!
「ノーカントリー」という映画を見て、演出というものの職人芸のような映画で、本当に見るものに感じさせるものが物凄かった。特に、主人公を追う、暗殺者、アントン・シガー。アメリカニューシネマのようだった。 pic.twitter.com/43rP9Z8QX8
— 中原 岬(生きるとは私だけの実験です) (@au230) August 11, 2018
この映画に関して「完成度が高い」というのはよく目にする評価です。メッセージ性、ストーリー性、演出におけるテクニック、全てがひとつになってノーカントリーという映画を構成しています。
#周りに理解されないけど超好きな映画
— Akira Oshimi (@killertune_) August 10, 2018
これも外しがたい、『ノーカントリー』。全編に漂う、得体の知れない重く救いのない空気。BGMに依存せずこの雰囲気を醸し出していることがすばらしい。#コーエン兄弟 #ノーカントリー #ハビエル・バルデム pic.twitter.com/cCyabya00j
監督のコーエン兄弟はこの映画のBGMの使用を最小限に抑えて、代わりにシンギング・ボールと言われる仏具の鈴を使って音を作り出しました。重い金属が摺り合わさるような音が低く響く緊迫のシーン。こんなこだわりも完成度が高いという評価につながっています。
何度見ても飽きない!
映画『ノーカントリー』 ★★★★★5.0点。 久しぶりに再鑑賞したけど、やっぱり傑作。 「インビクタス」と正反対の主張>「私は我が運命の支配者」 https://t.co/kJU2QEz4ZF #Filmarks #映画 #ノーカントリー
— こう (ジェネシスを聴いてる男はモテない (@kou1kou1) February 19, 2015
「もう一度観た」「何度も観たくなる」といった評価が多いのもノーカントリーの特徴です。その難解な内容の為もありますが、観る度に自分の中でまた新しい見解が出来、前とは違った感じ方ができるのもこの映画の魅力です。
役者の魅力がすごい!
軸になる3人の演技の評価はもちろん、アカデミー賞助演男優賞を受賞したハビエル・バルデムへの評価は言うまでもありません。不気味で冷酷非道な殺し屋シガーはあの特徴的な髪型と共に、夢にまで出てきそうな迫力です。特に冒頭に若い保安官を襲うシーン。ハビエル・バルデムのあの表情は背筋に寒いものが走ります。
ハビエル・バルデム。若い時にバーで喧嘩して鼻を怪我した。それ以来バイオレンスが嫌い。映画のバイオレンス場面も耐えられない、目を閉じている。「ならなぜ『ノーカントリー』に出たのかw。カメラが停まった瞬間にその銃をどかしてと懇願していた」https://t.co/ltq9dZc3ib
— 鶴原顕央 (@tsuruhara) May 6, 2017
ハビエル・バルデムはノーカントリーの話を最初にもらった時、「運転もしないし、英語もヘタ。暴力は嫌いだ」と一旦オファーを断ったといわれています。もし本当に断っていたら、この名作ノーカントリーという評価は生まれなかったのかもしれません。
ノーカントリーの解説まとめ!
映画ノーカントリーのあらすじ、ネタバレを含み解説してきました。難解な映画では面白くなかったという評価もあるのが大抵ですが、この映画は難解だけど面白いといった評価が多いのには驚かされます。解らないところを解りたいがために何度も観返し、そして魅了され、さらに奥深さに嵌っていくノーカントリー。さて、ではもう一度最初から、ノーカントリーを観てみませんか?