攻殻機動隊のクゼ・ヒデオの最期は？過去や素子との関係もネタバレ考察

士郎正宗氏によるSF漫画「攻殻機動隊」は、1995年に押井守監督の劇場用アニメ映画が公開されています。その後、神山健治監督のTVアニメ作品や、黄瀬和哉氏と冲方丁氏の「攻殻機動隊」の前日譚を描いた劇場用アニメ映画などがあります。これらの「攻殻機動隊」は日本を代表するクリエイターによって、それぞれが原作を元にした別作品となっています。その他、小説やゲームなどの数多くの派生作品が混在しているようです。

イマイチの観客動員数だった押井守監督の「GHOST IN THE SHELL／攻殻機動隊」は、海外で高い評価を受けたことにより、日本国内で再評価されるようになったようです。

2017年には、ハリウッドによる実写版が公開されています。日本語版吹き替え声優は、アニメと同じ声優陣を起用しておりファンの間では話題となったようです。主要キャストの声優は、ミラ(素子)役のスカーレット・ヨハンソンを田中敦子さん、バトー役のピルー・アスベックを大塚明夫さん、クゼ役のマイケル・カルメン・ピットを小山力也さん、トグサ役のチン・ハンを山寺宏一さんとなっています。

士郎正宗は、アーサー・ケストラー著の「The Ghost in the Machine（機械の中の幽霊）」に由来した「GHOST IN THE SHELL」をメインタイトルに希望したようですが、編集者の意向で「攻殻機動隊」になります。「GHOST IN THE SHELL」は、「攻殻機動隊」シリーズのテーマとなります。基本設定は1988年以降、第3次核大戦～第4次非核大戦後、電脳化や義体化が飛躍的に高度化した2029年の日本を舞台にしています。

AIやネットが飛躍的な発展と遂げた近未来で、アンドロイドやサイボーグは日常的となり、人間は自身の脳とコンピュータネットワークを接続する電脳化や体のパーツを自由に移植する義体化ができるようになります。一見、理想的で幸福な近未来社会を描いている「攻殻機動隊」は、クゼや素子のように電脳化や義体化により、失われつつある人間である拠り所を問い続けています。

TVアニメ「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」に登場する全身義体のクゼは、身長178cm・血液型B型で漢字表記は、九世英雄(クゼヒデオ)となっています。全身義体であるクゼの無表情な美顔は、世界有数の造顔作家によるものです。神経ネットワークを顔面に定着させるために、殆ど表情筋を動かすことができないクゼの美顔は、世界屈指の造顔作家が手掛けただけの事もあり、崩れることのない優れモノとなっています。

「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」1話での「個別の11人」によるテロ行為は、公安9課の活躍でテロは制圧されます。事件後、権力者の裏にいる者の暗躍により、「個別の11人」というウイルスが電脳に放たれます。このウイルスにより、ニセの思想を植え付けられた者による集団自決が行われますが、その中にいたクゼは疑問を抱き生き残ります。

過去に4つの大戦を経た日本は、戦後復興と国際貢献を国際社会にアピールするためアジア難民を受け入れ招慰難民居住区を設置します。しかし、招慰難民に多くに税金が投入されることなどが社会問題となり、アジア難民撤廃をスローガンにした「個別の11人」というテロ集団が出現します。過去、陸上自衛軍時代にクゼは、PKF（国連平和維持活動）の一員として朝鮮半島新義州に渡っています。

そこでクゼは、国が滅びた事態に無責任な難民達に落胆しながらも、生きる希望を見出していきます。いつしかクゼは、「難民の記憶とゴーストをネット融合させ、新たな生命体として進化」という理念を構想します。後にクゼは招慰難民のリーダーとなり、己の理想を実現すべく、招慰難民居住区の一つである出島を政府に独立国として認めさせるため核武装し戦いを挑んでいきます。以上ような経緯でを経て、クゼは革命家となっています。

幼少期にクゼは、事故で重体となり全身義体化を余儀なくされます。全身義体化により不自由のない生活を手に入れたクゼですが、心と義体とのバランスがとれず孤独な人生を送ることとなります。そんな中、招慰難民たちとの出会いを通じて意義を見出したクゼは、行き場のない彼らの指導者になる道を選択することになります。

元陸上自衛隊の軍人であったクゼは、豊富な戦闘経験を兼ね備えており、ある程度は自己修復可能なハイスペックな全身義体を使用しています。リーサルウエポン(致命的な兵器)とも言えるクゼは、ほとんど全身義体であるバドーを戦闘不能に陥れ勝利しています。すなわちクゼは、バトーや全身義体の素子以上の戦闘力を持っているのです。そんなクゼは向かう所、敵なしと言えます。

理想的な電脳化や義体化技術を手にした「攻殻機動隊」の世界は、現代以上に混沌としていると言えます。

そこに登場した新世界を夢見るクゼの名言の数々は一見、取っつき難いものですが、ベテラン声優・小山力也さんの演技力で説得力があり奥深さあるもののとなっています。

画期的な義体技術の恩恵を受けることとなったクゼは、精神と義体化された体が不一致なまま人生を送ることとなります。そこから希望を見出したクゼが発する言葉だからこそ、名言だと言えるのでしょう。

クゼは素子率いる公安9課との壮絶な戦い末、権力者に踊らされた招慰難民たちに対する復讐と救済というクゼの革命は失敗に終わる最期を迎えます。捕らえられ最期を覚悟したクゼは、最期の瞬間を迎えるまで折り鶴を折っています。死を迎える最期の瞬間、折り鶴を折ったクゼの脳裏には素子が過ったのでしょうか？このクゼの最期の場面は、「攻殻機動隊」シリーズ史上で心に残る場面となるでしょう。

無表情な顔の作りであるクゼは、「個別の11人」の自決事件直前に「頼む、誰か個別の11人を」と言った場面と、最終話で死に間際に言放った「先に行くぞ」という場面で僅かに唇を動かしています。

革命が失敗に終わったクゼの「先に行くぞ」という最期の言葉から、クゼ自身の記憶がネットに融合したとも考えられます。その過程の上で考えると、クゼの最期の言葉は素子に言ったものかもしれません。様々な解釈が考えられるクゼの最期の言葉は、見る者の好奇心を駆り立てます。

公安9課のリーダーで少佐と呼ばれている草薙素子は、幼少期に事故で脳と脊髄の一部を除いた全身を義体化した女性型サイボーグです。高度なハッキングスキルを持ち、判断力・統率力・身体能力で素子は、少数精鋭のスペシャリスト集団・公安9課を率いています。全身義体である素子は、周囲から人間ではないとも囁かれていますが、湧き上がる直感を「ゴーストの囁き」と称しているようです。

「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」の11話でクゼと素子の過去が語られます。正確には、クゼと素子らしい少年と少女の出会いと別れを描いています。このクゼと素子は、航空機墜落事故の生還者だったのです。

神山健治氏の「攻殻機動隊 S.A.C.」シリーズと「東のエデン」は、世界観を共有している裏設定があるようです。「東のエデン」で2011年2月14日、ミサイルに撃墜された旅客機から奇跡的に救出された幼い男女2名は幼少時クゼと素子であるようです。「東のエデン」の19年後が、「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」の前作「攻殻機動隊 S.A.C.」の舞台となっています。この2作品は、他にもいろいろな世界観を共有しているようです。

幼かったクゼは航空機事故から奇跡的に生還しますが、左手しか動かない全身麻痺という状態です。天涯孤独のクゼは、一緒に助かった意識不明の女の子（素子）のために、唯一動かせる左手で折り鶴を折り続けます。いつしかクゼは素子に対し友達のような感情を抱き始めますが、容態が急変した素子はクゼの前から居なくなります。再び独りぼっちとなったクゼは、一心に折り鶴を折り続けます。折り鶴はクゼの心の支えとなるのです。

原作やアニメ版の新たな進化形となるハリウッド実写版で、ファンの評価が高かったクゼと素子との折り鶴エピソードがあって欲しかったというファンもいたようです。

折り鶴を折り続けるクゼは、ある男から不自由のない生活を送るために全身義体化を勧められますが、当時の義体技術では折り鶴を折れなくなるため拒否します。しばらくして、その男は全身義体化された素子を伴いクゼの前に現れます。義体化により不自由のない生活を送っている素子は、クゼのことは覚えてないようです。クゼは、懸命に折り鶴を折る全身義体の素子に触発され、自分も義体化して再び彼女に会うことを決意します。

素子との再会を信じ義体化したクゼは、想像を絶するリハビリに耐え自由の生活を手に入れます。その後、皮肉にもクゼは反体制側として素子と戦うこととなります。クゼと素子は全身義体となり、航空機事故にあった頃の記憶があるかは定かではありませんが、折り鶴と通じて見るクゼと素子の間には、何かしら感じるものがあるようです。

「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」の25話「楽園の向こうへ」というタイトルと、全身義体であるクゼが僅かに動く表情筋を動かし青林檎を齧った行為から、禁断の知恵の実を食べ楽園を追放となったアダム（クゼ）とイヴ（素子）をモデルにしているとも考えれられます。

アダムとイヴが禁断の知恵の実を食べたのに対し、クゼは青林檎を齧り、素子は最後まで齧ることはなかったようです。つまり、ネットと融合し新たな進化を理念としていたクゼと、そうではない素子という構図となります。そして林檎が青であったのは、全身義体となった微かな記憶の中に残っているかもしれない、クゼと素子の初恋を示唆しているのでしょうか？

クゼ役の声優・小山力也さんは、1989年に「仮面ライダーBLACK RX」で俳優としてデビュー後、大ヒット海外ドラマ「ER」で声優デビューしています。アニメ・ゲームなどにも数多く出演しており、「名探偵コナン」の二代目・毛利小五郎役に抜擢されています。舞台俳優としては、第9回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞しています。声優としては、第5回声優アワード「富山敬賞」を受賞しています。

海外ドラマファンにはご存知の「ER」のジョージ・クルーニーと、「24」のキーファー・サザーランドの吹き替え声優に関しては小山力也さんほぼ専属となっています。「24」のキーファー・サザーランド扮するジャック・バウアーのインパクトがありすぎる吹き替えが、お笑い芸人のコントにされるほど話題になっています。

アメリカ合衆国ニュージャージー州出身の俳優マイケル・ピットは、本名のマイケル・カルメン・ピットでクレジットされることもあるようです。実写版「ゴースト・イン・ザ・シェル」のクゼ・ヒデオ役で出演していたマイケル・ピットは、同作では本名でクレジットされています。

俳優を目指して16歳で単身ニューヨークに出てきたマイケル・ピットは、働きながら1999年にオフ・ブロードウェイの舞台にデビューしています。2000年には日本でも放映されたテレビドラマ「ドーソンズ・クリーク」に出演後、ヒットした舞台の映画化「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」で知名度がアップします。ミュージシャンとしても顔もあり、バンド「Pagoda」で2006年にデビューしています。

「攻殻機動隊」の実写版「ゴースト・イン・ザ・シェル」でマイケル・カルメン・ピット演じるテロを仕掛けるハッカーであるクゼは、全身義体が強調され機械的な人物として描かれています。悪役として登場するクゼとミラ(素子)との過去の関係は、「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」のクゼと素子のような深い繋がりが伺えます。しかし、クゼと素子の関係性は実写版の方のダイレクトに描かれているようです。

今まで語られることのなかった素子の過去に、グゼが関わっていたという意外な展開には恋愛的な要素を感じてしまいます。しかし、素子とクゼの間に恋愛があるような・ないような描き方は見る者の好奇心を掻き立てるようです。

「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」の終盤で、クゼが語った革命資金調達方法には驚かされます。この地道な資金調達方法を実践したグゼは、かなり根気がある人だと言えるでしょう。

一言では表現できませんが、「スターウォーズ」のレイ＆カイロ・レンと「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」の素子＆クゼの関係は、惹かれあっているけど結ばれることがないということでしょうか？

クールジャパンの代表格に挙げられる「攻殻機動隊」シリーズは、電脳化や義体化という画期的な技術を手にした社会で、現代とは大差ない社会情勢を織り込んだリアリティある社会派SFアニメとなっています。「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」の虚無感を抱えた全身義体のクゼは、混沌する社会の中で革命を起します。革命は夢半ばに敗れ、壮絶な最期を迎えることなったクゼはファンの間で話題となります。

「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」で過去に関わりがあったらしい素子とクゼは、その事実をどの程度認識していたのか明確には描かれていません。しかし、素子とクゼの見えない絆が物語を盛り上げています。「攻殻機動隊」は原作を基にした様々なバージョンがありますので、「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」で興味を持たれた方は、TVアニメ版や映画版の「攻殻機動隊」シリーズなどをお勧めします。