2020年03月16日公開
2020年03月16日更新
もののけ姫の包帯人間はハンセン病の患者?裏設定やエボシの役割を考察
1997年7月に公開された宮崎駿監督渾身の大作アニメ「もののけ姫」。多くの観客が映画館に詰めかけ、興行収入は当時の日本映画最高額となる193億円に上りました。この作品には全身を包帯巻きにした人たちが登場します。彼らはハンセン病患者だというのですが本当なのでしょうか?これから、ハンセン病の基礎知識に始まり、アニメもののけ姫の裏設定や都市伝説、さらにはエボシやタタラ場の役割についても考察していきます。名作もののけ姫の本質に迫る内容ですので、この機会にぜひご覧ください!
目次
もののけ姫とは?
もののけ姫の概要
1997年7月に公開されたスタジオジブリ制作のアニメ作品「もののけ姫」。構想に16年、制作に3年の歳月をかけた宮崎駿監督が渾身の大作です。多くの観客が映画館に詰めかけ、興行収入は当時の日本映画最高額となる193億円に上りました。
アニメもののけ姫は、宮崎駿監督の過去の作品に基づいているとされています。題名は1993年の絵本「もののけ姫」から取っており、またストーリーは1983年の漫画「シュナの旅」に原型を見ることができます。
この作品ではそれまでのジブリ作品のファンタジー的な要素は影をひそめ、差別問題や人の間に蔓延する憎悪の感情など重いテーマを表現しています。映画のキャッチコピーとなった「生きろ」は、そうした理不尽な現実に苦しめられる人々に向けたメッセージであるとも言われています。
もののけ姫のあらすじ
時代は今から600年ほど前の室町時代、大和朝廷の支配に抵抗した人々が暮らすエミン村が物語の舞台です。主人公の少年アシタカは村を襲撃したタタリ神を退治するものの、呪いを掛けられてしまいます。村を追われることになったアシタカは、西方の地を目指して旅立ちます。訪れた地でエボシ御前や森を守る山犬一族、そして少女サンと出会ったアシタカ。タタリ神が生まれた云われを知ることになります。
もののけ姫の包帯人間はハンセン病の患者?
ハンセン病はどんな病気?
ハンセン病は、原因菌である「らい菌」を発見したノルウェーの医師、アルマウェル・ハンセンにちなんで名づけられた感染症の一種。感染力は極めて弱く、らい菌と接触する人の95%は、自然免疫で感染を阻止できるとされています。感染するのは大半が抵抗力の弱い幼児のようです。感染して症状が出ても現代では抗菌剤を用いた薬物療法で完治しますし、命にかかわる病気でもありません。
ハンセン病が恐れられてきた理由は、治療方法の確立していなかった時代には重篤化すると顔面や指が溶けるように変形してしまったためと言われています。そのためハンセン病に罹患した患者は隔離され、激しい差別を受けてきた痛ましい歴史があります。
タタラ場の包帯人間はハンセン病の患者?
もののけ姫の中で、エボシ御前が統治するタタラ場に包帯をグルグル巻きにした人たちが登場します。彼らの登場シーンはわずかなのですが、この包帯をした人たちはハンセン病患者を想定して描かれたとされています。
前述のように病状が進むと鼻や口が変形してしまうハンセン病。もののけ姫のタタラ場に現れた包帯姿の人たちがハンセン病であるのなら、グルグル巻きの包帯が変形した顔を隠すための手段だったことも頷けるのではないでしょうか?
ハンセン病との関連を宮崎駿監督が認めた?
タタラ場に現れた包帯姿の人たちがハンセン病患者であるかどうか、アニメもののけ姫を制作したスタジオジブリが公表しているわけではありません。しかし、宮崎駿監督自身が映画公開後に行った講演会でそのことに言及していました。
宮崎駿監督は次のように話しています。「ジブリアニメを通してそうした病気(ハンセン病)を持つ人たちを知って欲しかった」と。宮崎駿監督が直接語っていたことなので、もののけ姫の包帯姿の人々はハンセン病患者で、ハンセン病についてのメッセージが込められていると理解するのが自然でしょう。
もののけ姫のエボシとハンセン病の裏設定や役割・都市伝説
裏設定①エボシは奴隷出身?
ここからは、もののけ姫の裏設定や都市伝説について解説していきます。最初はエボシの出自に関することであり、都市伝説ではありません。
アシタカがたどり着いた製鉄を行う工房集落・タタラ場を統治する指導者、エボシ御前。名前の通り女性です。この気品ある女性エボシが奴隷出身だというのです。物語の舞台となった室町時代には、美しい娘を連れ去り売って利益を得る不届き者が多かったそうです。実はエボシもそうした犠牲者の一人でした。
拉致されたエボシは、中国からベトナムにかけての海岸を縄張りとする海賊・倭寇のボスに買い取られます。倭寇のボスの庇護のもと、エボシは辣腕を振るい倭寇を実質支配。現在のタタラ場はこの時稼いだ資金をもとにして作り上げた施設でした。
裏設定②エボシのハンセン病患者に対する扱い
次もハンセン病患者に対するエボシの扱いに関することで、都市伝説ではありません。宮崎駿監督は、エボシ御前を「現代における理想の人間」と説明しています。高い理想を持ち失敗しても負けずに捲土重来を期す精神、そうした点を理想の人間と考えていたようです。
ところが、エボシが経営するタタラ場を作業所として見ると、彼女の別の面が浮かび上がって来ます。従業員であるハンセン病患者にしても売られた女性にしても他に行き場はありません。そうした弱い立場の人たちを集めて過酷な環境で長時間労働を強いるタタラ場は、今で言うブラック企業のようなものでした。
労働者たちは外出も許されず楽しみも与えられていません。そして過酷な労働が終わると、たこ部屋のような狭くて汚い部屋に押し込められます。仮に報酬をもらっても使い道もないですし、送金するあてもない人たちばかりです。労働者の多くは顔が包帯で覆われているので表情を読み取ることはできませんが、おそらく希望の失せた暗い顔をしていたのではないでしょうか?
裏設定③エボシはハンセン病患者にとって恩師?
室町時代を舞台とするアニメ・もののけ姫。ハンセン病が病気として認識されたのは、それからさらに600年ほど前の奈良時代に遡ります。らい予防法が廃止されハンセン病患者の隔離政策が終了したのは1996年のことですから、ハンセン病患者は人々からの差別だけでなく、国家による非人道的な扱いに長い間耐えてきたのです。
出典: https://ciatr.jp
劣悪な労働環境であったとしても、彼らに仕事を与え社会的な役割を果たすことのできる機会を提供したエボシ様。アニメもののけ姫には、エボシ御前に心を寄せる女性が出てきます。彼女は「行き場のない私たちを助けてくれた」と言ってエボシを称えていました。冷徹な性格から恐れられていたエボシでしたが、タタラ場で働く人々からは恩師のような存在だったのでしょう。
映画では悪の象徴として描かれているタタラ場。実際にハンセン病患者たちも行き届いた待遇を受けていたわけではありません。しかし、社会から厳しい弾圧を受けていたハンセン病患者にとって、衣食住が保証されているタタラ場は貴重な居場所であったことは間違いないことでしょう。そうした場所を提供したエボシ御前がハンセン病患者にとって恩師であることは、都市伝説ではなく事実と言えるでしょう。
裏設定④タタラ場の役割
労働環境として見れば最悪と言ってもよいタタラ場ですが、文化的には大きな役割を果たしていたと考えられます。製鉄所であるタタラ場では、戦に必要な武器が製造されていました。
鉄器製造技術の進歩が戦国時代の世に与えた影響は計り知れません。室町時代の太刀の質は後の江戸時代のそれよりも高いとされています。タタラ場は、質の高い鉄製武器を生産する中心地としての役割を担っていました。
また、当時は山林の開拓が盛んに行われた時代でもありました。人々は山林を田畑に変え活用していきます。ところが、これがひいては、もののけ姫の逆鱗に触れることになります。山や森を守るもののけ姫にとって、開発の象徴でもあるタタラ場は憎んでも憎み切れない施設。もののけ姫は、その施設を運営するエボシを宿敵と見なし襲撃を繰り返すことになります。
裏設定⑤ハンセン病が差別の対象になった理由
ハンセン病は不治の病として長い間恐れられていました。ハンセン病患者を隔離し社会から排除する差別的な法律、らい予防法がようやく廃止されたのはつい20年ほど前の話です。電子顕微鏡などの発明により細菌学が飛躍的に進歩し、病因が明らかになってからも差別は終わらなかったのです。これは、鼻や口が溶けるように変形する見た目が多分に影響しているものと考えられます。
出典: https://note.com
実際には、ハンセン病の原因とされる”らい菌”の感染力は極めて弱く、成人には感染しないと言われています。免疫力の弱いお年寄りや乳幼児などは感染するリスクもありますが、現在では薬で完治する決して不必要に恐れる病気ではないのです。
昔はハンセン病は子や孫に遺伝すると考えられていました。こうした都市伝説が、ハンセン病患者に対する差別を助長し、強制堕胎など患者を苦しめてきた原因となったといっても過言ではないでしょう。
裏設定⑥エボシの娘はサン?
ここまで、もののけ姫の裏設定について解説してきましたが、中には都市伝説というものもあります。こうした都市伝説の代表例は、エボシの娘がサン(もののけ姫)であるというもの。
この都市伝説は、もののけ姫の研究本で紹介され巷に広まった情報です。アニメ作中で犬神モロの君が語っていたところでは、サンは生け贄として差し出された人の娘だそうです。また、サンという名前は「三の姫」であることを宮崎駿監督自身が明かしています。サンがエボシの娘というのは都市伝説で、彼女の正体は武士の娘(姫)ということになります。
もののけ姫の時代背景やモデルとなった場所
もののけ姫はいつの時代設定?
まず、もののけ姫の時代設定ですが、すでに紹介した通り室町時代(1336年~1573年)とされています。240年余り続いた室町時代には、南北朝合一を成し遂げた南北朝時代や応仁の乱で有名な戦国時代が含まれます。
もののけ姫のモデルとなった場所
モデルとなった場所①屋久島
最後にアニメもののけ姫でモデルになったゆかりの場所について紹介しましょう。最初は屋久島です。屋久島は、鹿児島県の南部、佐多岬から南南西約60kmに位置し、鹿児島県の島としては奄美大島に次いで2番目の大きさになります。(周囲130km、東西約28km、南北24km)。
島の約90%を森林が占め、標高500m以上の山地に生える「屋久杉」が特に有名です。屋久杉とは樹齢1000年を超える杉の事を言いますが、その中でも樹齢3000年を超えるとされる屋久島最大の杉は「縄文杉」と呼ばれています。1993年、屋久島はユネスコの世界遺産に登録されました。
モデルとなった場所②白神山地
青森県から秋田県にかけて広がる標高1000mを超える白神山地。ここもまたアニメもののけ姫の舞台のモデルとなった場所です。世界最大のブナ天然林が手つかずの原生林の状態で残っているこの場所も、屋久島と同時期にユネスコ世界遺産に登録されました。
寿命200年と言われるブナですが、ここ白神山地には樹齢400年を超えるブナの木が鬱蒼と生え茂っています。神秘的なブナ林を眺めていると、木々の間からシシ神さまが見ているようだと感じる人も多いようです。
もののけ姫に関する感想や評価
ここまで、宮崎駿監督のアニメ作品もののけ姫特集をお届けしてきましたが、最後にもののけ姫に関する感想や評価を紹介します。
もののけ姫がマイブームになっております
— サンダース大佐 (@K_Sanders_Colon) February 22, 2020
田中裕子さんのエボシ様がホントに綺麗な声
この映画の凄いところは絶対的な悪が存在しない
それぞれがそれぞれの事情を抱えながらだからこそ共に生きるという言葉がズシンと心にくるし、最後のエボシ様の「みんな初めからやり直しだ」に泣いた
最初に紹介する宮崎駿監督のアニメ・もののけ姫に関する感想や評価は、もののけ姫の際立って優れた点を挙げている方のツイートからです。この映画の凄いところは、絶対的な救いようのない悪者がいないところにあると言います。環境を破壊するタタラ場を経営するエボシ様も、行く当てのないハンセン病患者の働く場を提供しているという点に感動し、最後の言葉には涙したそうです。
失礼します。
— banako🍌 (@banako_brian) January 28, 2019
もののけ姫とハンセン病との繋がりを、これまでまったく知りませんでした。
ハンセン病については、昔から何か想うところがあり、駿河や全生園は何度か訪ねています。んー。改めてもののけ姫を観てみようと思いました。これほどに想いを馳せることの出来る宮崎監督をとても尊敬します。
宮崎駿監督のアニメ・もののけ姫に関する感想や評価、つぎに紹介するのは、もののけ姫とハンセン病との繋がりを初めて知った方のツイートからです。ハンセン病患者収容施設を訪れたこともあり、この問題に関心を持つ投稿者が、作品を通じて問題の本質を世に問おうとした宮崎駿監督を尊敬するとツイートの最後に書き込んでいました。
もののけ姫のエボシ様の本質や良さは大人になってから理解出来た 子供の頃は「人間側のトップであり人間のことしか考えられない自分勝手な人」としか見れなかったけど、大人になってから観ると全然違う視点で観れるからもののけ姫はすごい。
— まお (@__prosciutto__) January 31, 2020
最後に紹介する宮崎駿監督のアニメ・もののけ姫に関する感想や評価は、大人になって初めてエボシ様の本質や優れたところが理解できたという方のツイートからです。子供の頃とは全く違う視点で見ることのできる、もののけ姫の作品としての懐の深さに驚きを覚えたようでした。
もののけ姫の裏設定やハンセン病との関係まとめ
ここまで、宮崎駿監督のアニメ・もののけ姫に登場するハンセン病患者では?と言われる包帯人間に焦点を当て、エボシやタタラ場の役割など裏設定や都市伝説について考察してきました。いかがでしたでしょうか?
反戦など強いメッセージ性を持つ、宮崎駿監督のアニメ作品。もののけ姫も例外ではなく、今回取り上げた人類史上類のないほどの非人道的な扱いを受けてきたハンセン病患者に対する監督の思いもその1つと言えるでしょう。もののけ姫を既に観た方も、こうした視点を念頭において鑑賞し直してみてはいかがでしょうか?新たな発見や感動が待ち受けているかも知れません。