2018年04月25日公開
2018年04月25日更新
編集王(漫画)の最終回は?業界に切り込んだ内容と打ち切りという噂を検証
「編集王」は小学館のビッグコミックスピリッツで連載された漫画で、主人公の「カンパチ」は元プロボクサーのアルバイト編集部員です。売れる漫画が良い漫画である、という編集長の方針に、カンパチはボクサー時代の熱情そのままで、ぶつかっていきます。漫画業界の内情をシビアでありながらユーモラスにも描いている作品です。しかし、業界の慣習や問題点の、かなり危うい部分にまで切り込んだ内容故に「編集王」は打ち切りになったのではないかという噂もあります。あらすじやネタバレなど紹介いたします。
目次
「編集王」とは?
土田世紀氏の「編集王」について、まずは基本データから紹介します。掲載誌・掲載期間・単行本・モデルになったと思われる人物など、「編集王」という漫画のデータから、作品の掲載誌の編集方針との食い違いは無かったか。編集部との遺恨は無かったか。時代を超えて読者を惹きつける作品であるか。など、気になる情報を引き出していきます。
編集王の掲載誌と掲載期間
「編集王」は小学館の「ビッグコミックスピリッツ」で連載されました。連載開始は1993年12月発売の94年2・3合併号で最終回は1997年の44号です。「編集王」の連載前には「俺節」を1990年から連載しました。「編集王」の連載期間の前後で本誌や増刊号での単発作品を描いており2002年には「帰ってきた編集王」が掲載されています。「編集王」最終回後の連載は無くても作品の掲載はあり、遺恨などは無かったようです。
編集王の単行本情報
「編集王」の単行本は3タイプがあり、全て小学館から発行されています。それぞれ「ビックコミックス版」全16巻、「小学館漫画文庫版」全10巻、「ワイドコミックス版」全4巻です。コンテンツの再利用という側面は有りますが、形式を変えて何度も発行されているので、出版社側の、長く愛される漫画であるという認識がうかがえます。
編集王のモデルとなった人物
小学館の編集者である「八巻和弘」氏がモデルと言われていますが、NHKのBSマンガ夜話の「編集王」の回では、一人の編集者がモデルという事では無く、色々な編集者の要素を合わせたものではないかという事になっていました。八巻氏はいわゆる名物編集者で、何人もの漫画家の作品に実名で登場したり、登場人物のモデルになっていたりします。西原理恵子氏を見出した編集者としても知られています。
編集王の主な登場人物とそのネタバレ
桃井環八
「編集王」の主人公です。通称はカンパチ。明日のジョーに憧れプロボクサーになるも網膜剥離で引退します。その状況を見かねた幼馴染の青梅は、自分の勤めている「週刊ヤングシャウト」編集部でのアルバイトを勧めます。名前の由来は「環状八号線」沿いにある杉並区の地名「桃井」です。
青梅広道
桃井環八の幼馴染で、ヤングシャウトの編集部デスク。学生時代は水泳でインターハイ3年連続日本一で、オリンピックのメダル候補とまで言われていましたが、病気によるブランクで断念しています。最終回では海外の支社への出向の命を受け、旅立ちます。名前の由来は「青梅街道」です。なお杉並区の桃井付近を青梅街道が通っています。
疎井一郎(そがいいちろう)
ヤングシャウト編集長。データ主義で効率と売り上げを第一に考える人物です。しかし、若い頃には、担当する漫画家「マンボ好塚」のマネージャーである「ベニー八木山」こと「仙台角五郎」の作品を載せる事に懸命になる熱血漢でした。名前の由来は、「疎井」は不明ですが、「一郎」は、年齢を重ねた姿から、政治家の「小沢一郎」ではないかと言われています。
マンボ好塚(こうづか)
代表作は「王女アンナ」。戦後を代表する漫画家で、疎井がかつて担当していました。惰性で漫画を描き続けていましたが、桃井らの尽力により、再び熱意を取り戻し、新作「あした」に取り組みます。しかし長年の飲酒により肝硬変を患っており、書き上げた直後に心不全で死亡します。名前の由来は好事家。モデルは赤塚不二夫他、複数の漫画家と土田世紀自身が語っていますが、その最大のモデルは土田本人であるとも言われています。
編集王のあらすじをネタバレとともに紹介!
主人公の桃井環八、通称「カンパチ」は幼い頃に夢中になって読んだ「明日のジョー」に憧れプロボクサーになりますが、網膜剥離で引退し、大手の出版社が発行する漫画雑誌「ヤングシャウト」にアルバイトとして入社することになります。売り上げ至上主義の編集長への反発、個性豊かな編集部員、それぞれの事情を抱えた漫画家など、漫画を取り巻く人々とカンパチとのぶつかり合いが描かれています。
第一話のあらすじ~カンパチ「編集王」への第一歩
子供の頃、明日のジョーを読んでジョーを目指す事を決意した桃井環八は宣言通り憧れのプロボクサーになりましたが成績は芳しくなく、拳闘を始めて10年、24歳には万年10回戦ボーイと言われる「色物扱い」の選手となっていました。しかし、ついに恐れていた「網膜剥離」の宣告を受け環八はプロボクサーを引退することになります。そんな環八に幼馴染の編集者、青梅広道は、漫画雑誌「ヤングシャウト」でのアルバイトを勧めます。
初期から中期にかけてのあらすじ~編集長とのぶつかり合い
ヤングシャウトの編集長「疎井一郎」は、売れる漫画を至上とし売り上げ第一で冷酷な人物として描かれており、環八はそんな編集長のやり方に反発します。しかし疎井は、かつて一人の漫画家を売り上げの為につぶさざるを得なかったという過去を抱えており、その反動で作家や作品の良し悪しではなく効率第一の編集者へと変貌しました。そして、疎井は環八や青梅にかつての自分の姿を見出していたのでした。
後半部分のあらすじ~ヤングナッツとの攻防(ネタバレあり)
ヤングシャウトの出版社「支配社」のライバル出版社「講学館」を香港の大富豪の息子「陳子昂(ちんすこう)が買収します。利益にならない部門は切り捨て、漫画部門の強化を図ります。その方法は「ライバルを蹴落とし、市場のうまい汁を独り占め」するために、ヤングシャウトの作家を引き抜き、講学館の「ヤングナッツ」で漫画を描かせるというものでした。
後半部分のあらすじ~ヤングシャウト対ヤングナッツの戦争(ネタバレあり)
漫画家達にヤングシャウトの何倍もの原稿料を持ち掛けて全ての作家の引き抜きを図ろうとする陳ですが、若手のリーダー格である骨川サユリがなかなか首を縦に振ろうとしないため、他の作家の引き抜きも遅々として進みません。そこで陳は骨川の父親が闘牛で作った借金を肩代わりし、さらに恋人との結婚の障害を取り除くという条件を出します。骨川は泣く泣くその条件を飲みました。
後半のあらすじ~勝負の行方は(ネタバレあり)
漫画家達がごっそりと引き抜かれたヤングシャウト編集部では新たな対応策として「新人を編集者が複数ついて育てる」という方針に転換します。しかし、編集者の三京稔はそれだけでは不十分だとして「ヤングナッツの企画に真っ向からもっと良い企画をぶつける」作戦を提案します。スパイ作戦は功を奏し、全ての企画においてヤングシャウトはヤングナッツを上回るものをぶつけることに成功したのでした。
最終回の謎を解くのにチェックしたいネタバレ
ヤングシャウト側は疎井編集長も先頭に立ち、ヤングナッツと陳への対抗策を打ち出していきます。このままでは埒が明かないと考えた陳は、最後の砦「再販制度」へ踏み込み、テレビの討論番組での直接対決を申し込みます。『出版が文化』やって言い切るんなら…再販制度が撤廃されたあかつきにゃあ…おめーら、文化と一緒に死ねるゆうんやな?」という陳の煽りに対して、疎井編集長は「もちろんだ。」と返します。
打ち切りの噂がある最終回のあらすじは?
最終回あらすじ
最終回では、陳は出版から撤退し香港へと帰り、青梅は海外の出版業界へと旅立ちます。疎井は若かりし頃に担当していた漫画家「マンボ好塚(こうづか)」と経験した、ある夜の事を思い出していました。二人が熱く打ち合わせをしていたマンボ好塚のアパートに「漫画の神様」と呼ばれる人物がやってきます。彼はマンボの作品を称賛し、「競いましょう、マンボさん。あなたには、その資格があるのだから。」と伝えるのでした。
打ち切りを彷彿とさせると言われているラストシーンは?
ヤングシャウト編集部は飛行機に乗り、海外へと旅立った青梅を見送りました。疎井編集長は「漫画の神様」の言った言葉の最後を思い出していました。「競いましょう、マンボさん。あなたにはその資格があるのだから。あなたにも、そして誰にでも…」そして、第一話の冒頭シーンがもう一度、最終回のラストを飾ります。
編集王の作者「土田世紀」の紹介
土田世紀さんは秋田県出身の漫画家で、2012年2月に肝硬変でお亡くなりになりました。42歳でした。代表作は「俺節」「編集王」「同じ月を見ている」などです。漫画家の西原理恵子さんによると、普段からアルコール使用障害気味であったそうです。宮沢賢治を愛し、作品内にもしばしば引用されています。
編集王はドラマ化もされている
小栗旬、金髪バイク便少年として中山秀征を刺す! 21世紀活躍の予感が~2000年『編集王』より/懐かし番組表 #小栗旬 #中山秀征 #編集王 https://t.co/8PgzQVm1as pic.twitter.com/n89oIQA9pe
— テレビPABLO (@televi_pablo) November 14, 2016
「編集王」は2000年にドラマ化されフジテレビ系列で放送されました。桃井寛八役にネプチューンの原田泰造氏が抜擢されています。視聴率は芳しくは無かったのですが、「編集王」のドラマの演技が好評だったため、これ以降、原田泰造氏には演技の仕事が増えていきました。
編集王の元ネタを紹介!
ヤングシャウトを出版している「支配社」の元ネタは、竹熊健太郎原作、相原コージ作画の「サルでも描けるまんが教室」に出てくる出版社です。ライバルのヤングナッツの出版社は「講学館」ですが、これは講談社と小学館の組み合わせです。
著作物の再販制度とは「再販売価格維持制度」といって、出版社が書籍類の価格を決定し、小売店などでは定価販売ができるという制度です。これによって、需要が限定的となるマイナーな内容の書籍が不利にならずに済むなどのメリットがあります。
最終回で出てくる「漫画の神様」は、手塚治虫氏が元ネタです。後ろ姿のみですが、ベレー帽、太いフレームの眼鏡、ハイネックのインナーというシルエットがあからさまなほど手塚治虫であること、作品名として「ブロックジィック」という「ブラックジャック」によく似たタイトルのものが出てくるといった事があげられます。
編集王が打ち切りと噂に?
「編集王」が打ち切りだったという噂で最も多かったのが「書籍の再販制度」が出版界ではタブーであり、出してはいけなかったというものでした。作品内では「再販制度」の撤廃を提唱した陳が負ける形で撤退していますので、漫画では「再販制度」の維持が結論になっています。何らかの理由がある、という記述はいくつか見受けられるのですが、それが何なのかはモデルである八巻氏も明らかにしていません。
キャンディキャンディ問題
「編集王」に「キャンディキャンディ」のラストシーンを描いた部分がありました。この作品は原作者の水木杏子氏と作画のいがらしゆみこ氏の間で係争が起きており権利者がどちらであるか不確定です。更に掲載許諾の申し出は雑誌掲載時でもビックコミック版単行本発刊時でもなくワイド版を発行する際に初めて行われたのです。許諾は得られず、その部分を白紙にしお詫びのメッセージを入れる事で解決しました。
編集王は漫画出版のタブーに果敢に挑んだ作品だった!
土田世紀氏の「編集王」はシビアなパートとユーモアの部分を絶妙に織り交ぜながら、漫画出版の世界のタブーにも果敢に切り込んだ作品でしたが、再販問題の部分がクローズアップされた結果「打ち切りは再販制度を取り上げたせい」という噂が出現したようです。何らかの理由というのが明らかにされておらず、土田世紀氏もお亡くなりになっているので、編集側が明らかにしない限り「打ち切り」の真相は明らかにならないでしょう。