火の鳥は手塚治虫の超大作漫画!難解なストーリー・あらすじや基本情報を解説

手塚治虫の代表作のひとつでもある漫画『火の鳥』。壮大な世界観と間接的に絡み合う時間軸など『火の鳥』は独特の世界観を持ったシリーズ作品についてストーリーやあらすじを徹底解説します。手塚治虫の描く『火の鳥』の世界のルールや倫理観、謎の生物「火の鳥」の象徴するものや漫画を読む際のちょっとした心得など、読んだことのない方にも手塚治虫ワールドを歩きやすいように漫画のストーリーとあらすじを紹介いたします。

火の鳥は手塚治虫の超大作漫画!難解なストーリー・あらすじや基本情報を解説のイメージ

目次

  1. 火の鳥の漫画の難解なストーリーに迫る!
  2. 火の鳥は手塚治虫の超大作漫画!基本情報を紹介!
  3. 火の鳥のメインテーマは?
  4. 火の鳥の難解なストーリーの構成とは?
  5. 火の鳥の漫画の各編あらすじをネタバレ解説!
  6. 火の鳥の漫画の名言10選!
  7. 火の鳥の漫画を読んだ人の感想とは?
  8. 火の鳥の漫画のあらすじまとめ!

火の鳥の漫画の難解なストーリーに迫る!

皆さん、手塚治虫先生の超大作漫画『火の鳥』はご存知ですか?学校の図書館に置いてあったりSNSなどで定期的に話題にあがったり、アニメなども放映されているので名前だけなら知っている方も多いようです。そうでなくとも読み解けば人生に影響を与えること間違いなしの独創的な漫画になっています。

とはいっても、難解で独特のルールがあり何処から手をつけていいか迷ってしまうのもこの漫画『火の鳥』の特徴のひとつになっているのは事実です。今回はその『火の鳥』のワールドガイドとして、各篇のあらすじや魅力的な手塚治虫先生らしいストーリーを解説していきましょう。

火の鳥:アニメ・映像wiki:TezukaOsamu.net(JP) 手塚治虫 公式サイト

火の鳥は手塚治虫の超大作漫画!基本情報を紹介!

漫画『火の鳥』は、1954年に学童社の『漫画少年』に連載しはじめ数々の雑誌で読む人々を刺激し続けたロングラン作品にして大容量の超大作漫画です。

『火の鳥』は18篇(未執筆のプロットも含めるとなんと21篇以上!)のそれぞれ違う時代違う舞台で繰り広げられる人間ドラマとその世界に存在する「火の鳥」との神話的世界を描いたオムニバス形式の漫画シリーズで、同じく手塚治虫先生の代表作である『ブッダ』も元は『火の鳥』東洋編として企画されるなど壮大な世界観と宗教的とも言える倫理観をもつことを特徴としています。

Tips:手塚治虫

手塚治虫先生というと何を思い浮かべるでしょうか?「マンガの神様」とも呼ばれる日本のストーリー漫画の第一人者です。その作品数は実に全604作にも及び『火の鳥』だけでなく『ブラック・ジャック』や『鉄腕アトム』、『ジャングル大帝』など多くの作品の中で「生命」を突き詰めていった作家でもあります。

Tips:巻数のない漫画?

この漫画『火の鳥』を一等触りづらくしているひとつの原因として「巻数がなく何処から読んでいいかわからない!」というのはよく言われます。実はこの『火の鳥』シリーズは発行年数とシリーズ内での時系列が一致しておらずどれも独立して読める形態であることから、出版社によっては敢えて巻数を大々的につけずまとめているのです。読む順序のおすすめについてや各篇のあらすじについては後ほど解説致しましょう。

アニメ版『火の鳥』

多くの作品がアニメ化された手塚治虫先生ですが、漫画『火の鳥』ももちろん例外ではありません。1980年のアニメ映画『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』を皮切りに『鳳凰篇』『ヤマト篇』『宇宙篇』の3篇が映像化され、2004年からの手塚プロダクションのプロジェクトによって『黎明編』『復活編』『異形編』『太陽編』『未来編』が新たにアニメ化されました。

分野を越えて愛され綴られる火の鳥ワールド

漫画『火の鳥』は漫画、アニメ、映画だけに止まらずバレエや舞台、ゲーム、そしてフィールドアトラクションまで様々な分野で愛され何度も何度も語られている壮大なストーリーなのです。

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火の鳥のメインテーマは?

SNSでは「鬼畜」とまで称される優雅で手が届きそうで届かない「火の鳥」とは手塚治虫先生の漫画作品のなかで何を象徴しているのでしょうか?まずはその中核になるキーワードを解説していきましょう。

違う時代、違う場所にも等しく存在するもの

漫画『火の鳥』の舞台はおおよそ日本であることが多いですが、各篇それぞれ違う時代に生きる人々を独特のタッチで描き、それぞれの世界のテーマが雄大に描かれています。しかしその一見てんでバラバラな世界に唯一共通して存在するのがこの「火の鳥」という"存在"なのです。

彼女(彼)はある時は神話の神として、ある時は不気味な一種族として、そしてはたまた誰かそのものとして描かれる世界そのもののキーなのです。各篇での「火の鳥」の捉え方や人々との距離感などが異なり各篇を繋ぐ橋でもありひとつのルールでもある一口に生物だとは語れない存在になっているのです。

不死鳥の司るもの

不死鳥というと、「死んでも蘇る」「死なない」など様々な印象が挙がりますが、まさに漫画『火の鳥』に登場する「火の鳥」とは不老不死や生命の誕生から消失、そして生まれ変わりまでも表す大きすぎて手が届かない時間と世界の循環を表す存在でもあるのです。漫画の作中では「輪廻」や「不老不死」、「宇宙」と称されるなど生命そのものの美しさと本質の不変さを象徴しているかのようでもあります。

「鬼畜」なまでに傲慢で普遍的な問いを投げかけるもの

SNSで「理不尽」「傲慢」「鬼畜」と苦笑気味に語られるこの「火の鳥」は、大自然や世界の摂理そのものでもあるため、得てして人には酷いキャラクターとして見えることがあります。しかし、それこそが「火の鳥」なのだという説得力ある存在感を持って「生命とはなにか」「人生の尊厳とはなにか」を読む人に手塚治虫は問い続け生命賛歌として『火の鳥』を描いているのです。

それでも空を見上げるもの

『火の鳥』はただの長寿や宇宙を超常生物が語るだけではありません。各篇の様々な生い立ちや時代柄の制約を受けつつも必死に自分らしく生きようとする人々がその「宇宙」や「生命」に手を伸ばす姿こそが手塚治虫の描く「火の鳥」の根元にして最大のテーマでもあるのです。

自分らしさとは何か?生きるとは…死ぬとはなにか?時間とはどういう流れを持つのか?自分たちは何処へゆくのか…。篇を越えて子孫や生まれ変わりを経て何度も何度も別の視点から語られる問いこそが「火の鳥」そのものだとも言えるほど人々の群像劇と生命の輝きが描かれているのが漫画『火の鳥』の醍醐味だとも言えます。

「同じ顔」が意味するもの

また、手塚治虫の漫画を楽しむ上で欠かせないのが「スターシステム」にも似た「同じ顔、同じ業を背負った人々」です。サルタなど特定のメインキャラクターは各篇で生まれ変わった別人や子孫として描かれ、同じ問いにその時代と立場に合った葛藤を抱きつつも何度も倒れては起き上がり自分なりの答えを求めて生きていきます。

1冊1篇を読み解くだけでも楽しいのが『火の鳥』ですが、読み進めれば読み進めるほど逃れられない大きな業と運命がそこには存在し手塚治虫の演出に世界を見ることになるのです。この世界観の組み方などは海と世代を越えてウォシャウスキー姉弟の『クラウド アトラス』など多くの作品に影響を与えています。

猿田彦:キャラクター名鑑:TezukaOsamu.net(JP) 手塚治虫 公式サイト

火の鳥の難解なストーリーの構成とは?

先ほども触れましたが、漫画『火の鳥』は「火の鳥が存在する世界」という共通部分を持ちつつも各篇が半独立したストーリー構造になっておりそのストーリーの奥深さから読むハードルが引き上がってしまっているという意見もあります。しかし、「敢えてそう作られている」とも取れるのがまた魅力的な点です。この章では、そんな漫画『火の鳥』のストーリー構造に手塚治虫先生が託したメッセージを読み解いていきましょう。

時系列順に並べるとわかること

『火の鳥』の収録巻数と時系列をそれぞれまとめると上のような図になります。実はこの収録巻数と時系列の順番は大きく輪廻するように「古い歴史上の時代(過去)」から「遠い未来」そしてまた「原初」へと回帰するように描かれているのです。また、未執筆のため幻の一篇になっている漫画のタイトルが『現代編』だったことからも、大きくループする「宇宙(=世界)」そのものを表していたと考察されています。

また、少々あらすじのネタバレになりますがある篇には主人公が文明の終わりまで生き残り、そして終末を迎えてまた原初に戻るシーンが存在することから、仏教でいう所の曼荼羅のような「時間」「生命」「宇宙」などといった壮大で息の長すぎるテーマを漫画という形と「火の鳥」という存在で描こうとしたのではないかと捉えられるのです。その点を踏まえると、巻数を強調せずに篇の名前を本につけるもの納得出来るかもしれません。

Tips:曼荼羅

仏教における仏様を中心に諸仏諸尊が描かれた図版で、一説には諸仏諸尊や枠の数、装飾の種類で「その功徳に至るための修行の方法や必要な時間、あげるお経、世界の成り立ち」などがわかるようになっているとされています。そのため、曼荼羅そのものが「宇宙」や「時間」を表すとも言えるのです。そう考えてみると手塚治虫先生の脳裏には宇宙と生命神秘の描き方を漫画『火の鳥』に託すという思想もあったのかもしれません。

漫画『火の鳥』を読む順番は?

読む順番のオススメとしては3種類が挙げられます。ひとつは「発行順(巻数順)に読む」方法。もうひとつは「時系列順に読む」方法。そして最後は「あらすじを読んだり表紙や口コミを見てピンときたものを読む」方法です。三者三様の読み方がありますので次章のストーリーとあらすじをみて、自分にあった読み方を探してみるのと楽しいでしょう。

火の鳥の漫画の各編あらすじをネタバレ解説!

この章では18篇の『火の鳥』のあらすじを掲載順にネタバレを少々含みつつ象徴的なストーリーと共に重要なキーワードなどをピックアップしていきましょう。すでに読んだことのある方には「あれってなんだっけ?気になる!」となり、未読の方でも読める程度の最小限のネタバレに抑えていきますので、週末やおやすみのひと時に読みたい一冊を探すつもりで吟味してみてください。

『黎明編』のストーリーとあらすじ

『黎明編』は日本神話をなぞらえたような3世紀の倭国(=日本)の熊襲(現在の九州南部の豪族が納めた地)を舞台にした物語です。主人公はナギという少年で姉のヒナクを病から救うために奔走し、義兄が病から救う術として「火の鳥」の生き血を求める一方で、異国の医師グズリの医療技術によってヒナクは助かることになります。

しかし、グズリは実は「ある理由」を抱えており、婚礼の夜に村を襲った猿田彦たちヤマタイ国の軍団により家族は離散しナギは猿田彦の奴隷として連れ帰られてしまいます。このヤマタイ国の老いた女王こそ卑弥呼であり、「火の鳥」の生き血を求めて熊襲を滅ぼしにきたのです。村を焼かれ復讐に燃えるナギと自国の命令を疑問視しはじめる猿田彦、そして離散したヒナクとグズリの夫婦を中心に「生きること」について語られていきます。

『エジプト編』のストーリーとあらすじ

『エジプト編』は紀元前1000年ほどのエジプトを舞台にして、「生き血を飲めば3000年の寿命を得られる鳥」を求め主人公のクラブ王子がエチオピアに旅に出るのです。その道中で出会った奴隷の少女ダイアとクラブ王子は惹かれ合い、協力して火の鳥とその卵を救うという冒険譚に近い筋立てになっています。

そして、生き血を与えられたふたりは仲良く幸せに暮らすかと思いきや、火の鳥の卵から幼鳥が孵り母鳥に「死とは何か」問う一方で、クラブ王子とダイアは世継ぎ問題に巻き込まれ「身分」ゆえの非業の死を遂げてしまうのです。このふたりの恋人はこの後の『ギリシャ編』『ローマ編』へと繋がっていきます。

『ギリシャ編』のストーリーとあらすじ

『ギリシャ編』は『エジプト編』の300年後の世界でナイル川から流されたクラブ王子とダイアがそれぞれ、トロヤのヘクター王子とスパルタの将軍ユリシーズの元に流れ着いて拾われます。なんとこのふたりは、記憶を失っており、その後再び運命の再開を果たして「妹と兄」になることが出来ます。

そうして今度こそ幸せになれるかと思いきや今度はトロヤとスパルタの「国」という壁に阻まれ史実でいうトロイア戦争に巻き込まれていきドラマティックな戦記ものとして様々な人々が描かれていきます。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』のように国に引き裂かれたふたりはまた悲劇のなかで死と生にすら分かたれ、それを悲しんでまたしても後追い自殺をし、死がふたりを分かつことを惜しむことになるのです。

『ローマ編』のストーリーとあらすじ

『ローマ編』は『ギリシャ編』の300年後の世界で、ギリシャの宝物庫にユリシーズが安置していたふたりがシーザーの部下の部下であるアンドロクレスに拾われ目を覚まして、再び欠けた記憶のまま「兄妹」として育てられるところからお話がはじまるオリエンタル三部作のラストにあたる短編作品です。

ネタバレは敢えて伏せますが、エジプト編で産まれた幼鳥が見守るなかクラブとダイアがどのように「生きて」どのように「人々が争い」ながらも「どこに生きる価値を置くか」が見所になっています。

『未来編』のストーリーとあらすじ

一方変わって『未来編』の舞台は西暦35世紀の文字通り遠い未来の話です。この世界では「レングード」「ピンキング」「ユーオーク」「ルマルエーズ」「ヤマト」の5つのマザーコンピューターに管理されている地下都市と残った僅かな人類を描いていますが、「ある事件」がきっかけで核戦争が起きてしまいます。

そんななか、主人公である山之辺マサトは宇宙生物「ムーピー」の変身した娘タマミと「生きる」ために禁足地でもある地上へと逃げシェルターで絶滅動物を蘇らせようと研究を続ける猿田博士に出会い、地球最後の瞬間を不思議な鳥との「終末の問い」とともに見上げることになるのでした。

『ヤマト編』のストーリーとあらすじ

『ヤマト編』は4世紀頃、副葬品として奴隷が生き埋めにされていた古墳時代の倭が舞台です。この話も日本神話的文脈の上に成り立っているストーリーで主人公のヤマトオグナが「ある理由」でクマソ国の酋長川上タケルを殺すために九州に渡るのです。クマソはもちろん熊襲のことで『黎明編』と同じ地に赴くことになります。当然「火の鳥」についてもオグナはクマソに渡ってから知ることになるのです。

ヤマトの国とクマソの国の考え方の違いや不死を与えるという伝説のある「火の鳥」の存在を知ったオグマは祖国ヤマトの奴隷を使った副葬品文化に疑問をもち、「人々の尊厳」のため立ち上がることになります。日本書紀のストーリーと埴輪の存在意義についての手塚治虫先生なりの解釈を「火の鳥」と共に語りあげる作風は伝記物に近い風体が感じられることでしょう。

『宇宙編』のストーリーとあらすじ

『宇宙編』の舞台は『未来編』よりも時代が下って西暦2577年の宇宙船からお話が始まります。この『宇宙編』の主人公は特定の1人ではなく宇宙船に乗っている4人という形になります。乗員の牧村五郎が自殺したことにより宇宙船から脱出しなければならなくなり、謎の惑星に流れ着くのです。

そうしてこの世の果てのような異界にも「火の鳥」は現れ猿田たちに語りかけ、驚くべき真相に至るのです。スペースホラーのような不気味な雰囲気と疑心暗鬼、人の心のなかに潜む闇などサスペンス色の強い作品になっており、猿田一族の業についてなども明らかになります。

『鳳凰編』のストーリーとあらすじ

『鳳凰編』はヒューマンドラマの色が強い奈良時代が舞台の物語です。この『鳳凰編』は名の通り、永遠の命を持つと言われる「鳳凰(=火の鳥)」を吉兆の証として彫像を作るように命じられた都の茜丸と、親に捨てられ野党に成り果て愛した女性を殺しそれでも良弁僧正の元で仏師として開花させていく我王の2人の主人公と奈良の大仏の建立にまつわるエピソードがドラマティックに描かれています。

本作では特に仏教の「輪廻転生」の考え方を「火の鳥」を用いながら手塚治虫先生なりの解釈で世界観拡張を行っています。特に我王が最初に愛した女性の正体に気付くシーンはかなり衝撃を受けた人も多いのではないでしょうか?「人間らしさ」や「人間としての業」が劇的な展開で描かれ、「火の鳥らしい火の鳥」が描かれているとの評価もあります。

『復活編』のストーリーとあらすじ

西暦2482年が舞台の『復活編』の主人公は冒頭に不慮の事故に遭うことになるレオナ少年です。彼は脳手術によって一命を取り止めますが、同時に人間が無機質な異形のバケモノに見えたり、世界が歪んで見えるなどの認知障害に襲われます。そんな中でロボットのチヒロを人間の女性と認識してしまい彼女と添い遂げる方法を考え始めるのです。

認知障害の薄れと共に過去に自分が「フェニックス」を巡る事件の当事者であったことを思い出すレオナ。彼はチヒロとの不変の愛を手に入れるためにある行動に出ます。

レオナとチヒロのクライマックス後、更に20年の時間が進み家政婦用のロボット「ロビタ」たちが謎の『集団自殺』をする怪事件が多発するのです。彼らは自分たちを「ニンゲン」と称し、「人間らしい死に方」を口にしながら最後に残った1機が『宇宙編』へと繋がっていきます。

『羽衣編』のストーリーとあらすじ

『羽衣編』は扉コラムのようなごく短い作品です。10世紀の三保の松原を舞台にしており、羽衣伝説を未来の遺物であるというオチにして「異文化への対応」を小片ながら描き「火の鳥」の世界観を静かに拡張しています。

『望郷編』のストーリーとあらすじ

『望郷編』の舞台は戦争のさなか、人類の歴史をやり直すため、人間も植物も動物も全てクローンでまかなわれた「第二の地球」が生み出されたどこかの宇宙世界。主人公はそのなかのひとつでもある小さな惑星「エデン17」に恋人のジョージと共に移り住んだロミという女性です。彼女は、そのちっぽけな惑星で「ある事件」にジョージを失って遭い息子と2人っきりで取り残されてしまうのです。

生命を繋ぐために息子と交わって子を残し、女児の生まれない小さな世界で冷凍睡眠をして次の世代をまた残すことを決意するロミ。当然そのような環境では肉親ながら醜い争いが起きロミは絶望してしまいます。そんななか「火の鳥」は彼女を哀れみ宇宙生物「ムーピー」を「エデン17」に送って異種交配の末穏やかな世界を作る助け舟を出すのです。

そうして小さな世界の生命の母になったロミは、コムたち異星人の家族たちに囲まれながら老いていきますがここで「望郷」の念が湧くのです。「生まれた場所で死にたい」という根源的な引力に惹かれそうして宇宙に少年コムと旅立ったロミは、宇宙パトロール隊員の牧村五郎と出会うのです。

『乱世編』のストーリーとあらすじ

『乱世編』は打って変わって西暦1172年、平安時代末期の日本です。京都の山に住む木こりの弁太は、恋人おぶうと仲良く暮らしていましたが、「たったひとつの恋人への贈り物」から貴族の恨みを買い、両親を殺されおぶうを都に連れ去られてしまうのです。おぶうを取り返すべく都に向かった弁太は源義経に、そしておぶうは平清盛に拾われ、ここにまたオリエンタルシリーズに見られた構図が再来するのです。

「火の鳥」を所持しているという噂のある平清盛とそれを狙う源頼朝と義経。戦果と「火の鳥」に裂かれたふたりは弁太は「弁慶」としておぶうは「時子」として生きながらも人の業に巻き込まれながら前へ前へと進むのでした。この作品は大河ドラマのような風情があり、有名な歴史人物たちと『火の鳥』シリーズのキャラクターが錯綜しているドラマティックな作風になっています。

『生命編』のストーリーとあらすじ

『生命編』の舞台はクローン生産技術が発展し、そのクローンたちの人権が守られていなかった未来のお話です。テレビプロデューサーの青居は本作の主人公ですが、この法の抜け道を利用し「クローンの公開殺害リアリティー」を企画するためにクローン工場に向かいます。そこで「ある事件」に巻き込まれ、クローン殺しを観せる側の立場から一変して殺される側になってしまうのです。

『生命編』ではシニカルに人間の尊厳を描きながら、生命の尊厳を司るようなミステリアスな未開地域の一種族として「火の鳥」は描かれます。

『異形編』のストーリーとあらすじ

『異形編』の舞台は戦国時代の山奥です。主人公の左近介が憎んでいた父を治療してくれるという「八百比丘尼」を斬り殺したことから物語は転がっていきます。武家の子として「殺しを自分の生き残る手段とした」左近介への罰は「他人を救い続けること」であるという、『生命編』が人の境界線をシニカルに描いていたのに対して『異形編』は慈悲を持って「どこまで救いを与えられるか」を描いているのです。

『太陽編』のストーリーとあらすじ

『太陽編』はかなり壮大なスケールで描かれた、何と2つの舞台が1つのお話のなかで錯綜する形で描かれています。ひとつの舞台は白村江の戦い後にまさに壬申の乱が起き用としている倭。もうひとつは宗教戦争が起きている21世紀の日本と、ふたつの時代を繋ぐ鍵は「宗教」と「立場の違う者同士の愛情」で、このテーマは先の17の篇々で何度も何度も繰り返された変えられない運命をなぞらえる形になっています。

白村江の戦い後の倭では、百済の王族の血を引くハリマが敗軍の将として狼の皮を顔に癒着させられたことで狗(ク)族の少女マリモと出会い、仏教渡来と産土神や日本古来の宗教との対立に巻き込まれていきます。このパートでは『異形編』に繋がる形のもののなかで、「全ての生けるものに救いを齎すもの」をハリマとマリモは戦乱の中で追い求め「火の鳥」に至ります。

一方で21世紀の日本では、「火の鳥」を崇拝し日本を支配する宗教団体「光」に対抗すべく主人公の板東スグルが反「光」団体「シャドー」に属したテロリストとして登場します。彼はそのなかで任務に失敗し、戦に負けたハリマと似たように狼型の洗脳ヘルメットを収容所で被せられ苦悶するのです。また、スグルは途中で出会った女兵士ヨドミと心を惹かれ合い、段々とテロリストとしての自分以外のものに価値を見出すのでした。

そんな4人の主人公がそれぞれ「夢」を通じてうっすらとお互いを感知し、お互いに「火の鳥」を巡る大冒険を繰り広げながら「人間であること」「生きものであること」「生きものとして生きてゆく意味」を18編の総まとめのように語りかけてくる様は圧巻であるという意見も多く挙がっています。

火の鳥の漫画の名言10選!

死んでなにになるというのです

「生き延びること」「死を選ぶこと」など究極の選択は様々な場面で訪れますが、そのそれぞれが自由であると同時に、その選択を嘆くも喜ぶもまた自由であるという当たり前が籠もった台詞ですが、『火の鳥』においては恐ろしく重い問いになると言えるでしょう。

あなたは私になるのよ

「宇宙」や「生命の源」といっしょになる…それはいったいどんな気分なのでしょうか?とてつもなくただの1生命体としての自我や存在価値が今まさに消えてなくなる絶望的な台詞でもあり、また本編でのシーンを鑑みるとまさに望んだとおり「あるものと一緒になれた」とも言える衝撃的な台詞です。

広い…広い…これ…全部…おれたちクマソのものだったのか…?

「自分の知る世界がもっと先に続いていてもっと違うものと繋がっていた」。その感動と妙な一体感は誰しもがどこかで感じたことのある感情なのではないでしょうか。『火の鳥』では多くの登場人物が自分の知る世界がどこかに繋がっていることを知り、その繋がりを命綱に越境する姿が描かれています。

花は枯れるもの 人は歳ふるもの

どうにもならない摂理、その最たる象徴である「火の鳥」を巡った確執や争い、そして繰り返される悲劇に対して達観した台詞を残す登場人物も『火の鳥』にはいくらか登場します。飽くなき欲求の先にある心穏やかであれる手塚治虫先生なりの答えが、「どうしようもない」「無理を言ってもしょうがない(だから別のことをしてみよう)」という仏教でいうところの「諦観」であるというのもまた、象徴的な表現です。

そうね五百年か一千年ぐらいかかるわね

『火の鳥』と言えば手塚治虫先生の作品のなかでもかなりの高確率で「したたかで生き残るために己を貫く女性たち」が多く登場します。滅びの淵にあっても、自分の代だけの話ではなく500年かけても自分の生きてきた国を永らえさせ生き残りたい。そんな本能とも神秘とも言える強い女性たちがサラッと口にするスケールの大きい台詞は世界観を語る上で外せません。

問題は永遠の生命を手に入れて…なぜ生きるかということですよ

『火の鳥』には幸か不幸か永遠を手に入れてしまう登場人物も多く存在します。その中には恐れ絶望する者も苦悩する者も喜ぶ者も居ますが、手塚治虫先生は敢えてそこで「なぜ生きるのか」を様々な登場人物の口と生き様を借りて問いかけているのです。

生きるべくして生まれせいいっぱい生きながらえる権利がある

『火の鳥』が描くのは強烈でどうしようもない破壊や行き違い、争いの歴史でもあります。しかし、その絶望に平服せよと言うのではなく、どんなことがあっても「生き残るべきだ」と生命の尊厳を豪語しているのもまた「火の鳥」の特徴です。この傲慢なまでに一直線な生命への肯定が神々しくも「クソ鳥」と称される所以でもあるのでしょう。

もし食物がなくなったら、どうぞぼくを食べてください

「なんのために生きるのか」その問いを劇中ですでに見つけている登場人物もいます。『望郷編』のコムやその兄弟たちなどはその最たる例で、彼らは「産みの親が望むから」と言う理由以上の深い愛情を持って「大切な人のために死ぬこと」を生きる意味として捉えているのです。「なんのため」を問い続けながら『火の鳥』を読むと様々な言葉が聞こえてくるでしょう。

ワタシハニンゲンデス

『火の鳥』のなかには様々な亜人種や異星人、動物や神様、ロボットなどが登場します。彼らの語る「生きものの尺度」と「ニンゲンの尺度」に心を打たれる人も多いのではないでしょうか?『復活編』のロビタのエピソードなどは現代の義手義足問題やAI問題にも通ずる悲痛な叫びとなって心を掴んでいると言えます。

美しい…

『火の鳥』は人間賛歌であると同時に地球賛歌、ないしは世界賛歌のような世界そのものの美しさにハッと目を奪われるようなシーンも多く存在します。人間のいざこざがスッと引いてしまうような雄大な自然そのものの前に難しい言葉は要らないのかもしれません。

火の鳥の漫画を読んだ人の感想とは?

この章では、そんな気になる『火の鳥』シリーズの感想をピックアップしてご紹介しましょう。最近話題になった「クソ鳥」とはどこから来たのか、どの話がおすすめかなどお好みに合わせて参考にしてみてください。

壮大なループと強烈な印象

18篇以上のそれぞれ芯をもつお話がぐるりと輪を描いて繋がり何度も何度も問いが投げかけられる作りに衝撃を覚えたという感想がやはり多く挙がっています。絶望か希望か。正しいのか正しくないのか。パッキリと分かれることのない様々な問いに自分自身も葛藤し揺さぶられ影響を受けた人もいるのではないでしょうか?

なかでも『未来編』や『太陽編』『鳳凰編』などはアニメなどで放映された影響もあり、人々に強烈な印象と価値観を変えてしまうような根強い思想を残しているようです。

「歴史的なお話が好き」「サスペンスものが観たい!」「異種恋愛が好き」などご自身が日頃から好きで追っているテーマに合わせて掘り下げるように読み込んでみるという方法も楽しいかもしれません。

傲慢すぎる「火の鳥」

一方で昨今、「火の鳥」自体を「傲慢ちき!」と苦笑気味に語る感想も多数挙がっており、SNSで不死鳥が炎上するという不思議な光景が見られています。また「説教くさい」という意見もあり、勧めるタイミングというのは考えさせらる作品であることを示しています。

炎上することで更に拡散され読み広げられる漫画。これもまたもしかすると「火の鳥」の思惑通りなのかもしれません…。

火の鳥の漫画のあらすじまとめ!

手塚治虫先生の『火の鳥』の解説はいかがでしたか?読んだことがある方もそうでない方も何かを見つけたい時のきっかけや行き詰まった時に『火の鳥』の世界観を読んでみるともしかしたら、何か閃くきっかけになるかもしれません。多くの人々に愛され、語り継がれる名作によって次に何が生まれるのか、ロマンが広がることでしょう。

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