ファイアパンチの最終回の内容は意味不明？あらすじや感想をネタバレ考察

2018年に完結を迎えたジャンプコミックスの『ファイアパンチ』。連載開始当初から衝撃的な展開の連続で話題となったこの作品は、いったいどのような結末になったのでしょうか？1巻から最終巻までのあらすじと内容をネタバレ紹介します！最終回を読んだ読者の感想や考察も併せて紹介しますので、ぜひご覧ください。

ファイアパンチは、藤本タツキさんによるダークファンタジー漫画です。2016年から2018年まで集英社のコミック配信サイト「ジャンプ＋」に掲載され、コミックスは全部で8巻刊行されています。斬新で予測のできないストーリー展開や過激な描写がSNSなどで瞬く間に話題となり、宝島社の「このマンガがすごい！」ランキングにも数回にわたりランクインするなど大きく注目を集めました。

藤本タツキさんは『恋は盲目』という短編作品で漫画家デビューをしてから数本の読み切り作品を発表し、ファイアパンチが初の連載作品となりました。連載前は湧き上がるアイデアをどんどんネームに起こしていたという藤本さん。一度立ち止まり、「売れる漫画を描きたい」と研究し着想を得たのが『アンパンマン』だったそうです。

他にも「優しいシーンを際立たせるために残酷なシーンもしっかりと描く」など、戦略的に漫画を描くことを突き詰めていった結果、ウェブコミックの読者層に受け入れられファイアパンチは大ヒット作となりました。また、絵を描く上では『無限の住人』で知られる沙村広明さんの影響を強く受けているようです。

ファイアパンチの主人公「アグニ」が最終回までにどのような道筋を歩んできたのか、1巻から簡単にあらすじを振り返っていきます。

ファイアパンチの世界では生まれながらにして奇跡のような力を使える人間は"祝福者"と呼ばれています。氷の力を使える祝福者、「氷の魔女」によって雪と氷に覆われた世界がこの作品の舞台です。作物は実らず、文明も衰退してしまったこの世界で人々は飢餓に陥り、炎を求めて争いが起こることもありました。

凍った世界に生きるアグニと、その妹の「ルナ」。この兄妹は肉体の損傷を回復できる「再生」の力をもった祝福者で、飢えた村人にアグニの身体の肉を分け与えて暮らしていました。ある日、貧しく静かに暮らしていた村に大国"ベヘムドルグ"から「炎」の力をもった祝福者「ドマ」がやってきます。ドマの「焼け朽ちるまで消えない炎」によって突然焼き尽くされてしまった村と住人たち。

アグニよりも再生能力の弱いルナは力尽きてしまいますが、アグニはドマへの復讐心から、消えない炎に焼かれ続けながら8年かけて再生能力を使いこなし生き延びました。そして道中「電気」の祝福の力をもつ少年「サン」と出会いますが、ルナと外見が酷似した女性「ユダ」に襲撃され、二人とベヘムドルグへ連行されてしまいます。

ユダの手引きによりドマとの再会を果たしたアグニ。しかしドマは心の病に罹り、アグニにどうすれば許してくれるかと問いかけてきました。妹の仇であるドマの変わり果てた姿と身勝手な懇願に憤慨するアグニ。そんなアグニの燃え盛る姿を撮影した映像を見て興奮する謎の女性「トガタ」の登場と、ドマの炎によって燃え尽くされたアグニの身体が横たわるシーンで1巻は締めくくられます。

サンと共にベヘムドルグへ連れてこられた少女「ネネト」が兵士から乱暴されそうになったとき、目の前に現れたのはトガタでした。ネネトを助けようとする素振りもなく撮影用カメラを回し始めるトガタ。トガタはアグニと同じく強力な再生能力を持った祝福者で、死ねない人生に飽きたところで燃える身体を持ったアグニのことを知り、彼を撮るためだけにベヘムドルグに乗り込んで来たのでした。

トガタは「何でも言うことを聞くから助けて」と頼むネネトにカメラマン役を押し付け、圧倒的な力で兵士を倒しネネトとアグニを救い出しました。念願のアグニとの対面を果たしその目的を知ったトガタはアグニを主人公として映画を撮影することを決意し、二人は共に行動する契約を結びます。終始奇妙なテンションのトガタにアグニは戸惑いますが、戦い方や言葉を教わりながら再びベヘムドルグへ辿り着きました。

一方、捕らえられたサンは監禁され国を動かす"薪"として祝福の力を酷使させられていましたが、アグニの奇跡のような姿を信仰し毎日を過ごしていました。そしてベヘムドルグになぜか単身侵入したトガタはユダを脅し、捕らえられている強力な祝福者を解放しアグニの敵として用意しろと迫ります。「面白いから」という理由で敵も味方も巻き込み映画製作を企むトガタ。ここからどんどん混沌とした内容になっていきます。

トガタに導かれドマの元へと向かう途中、アグニはベヘムドルグに捕らえられた奴隷が集められている牢の前を通りかかります。ルナを殺されてからずっと痛みに耐えながらドマへの復讐心のみで生きてきたアグニ。ドマを殺すことで自ら背負った重荷から解放されると考えていたアグニですが、奴隷の少年の「助けて」という声によってかつての自分自身の正義を取り戻します。

「この過酷な世界を許せなかった」という思いをのせた右拳の渾身の一撃を皮切りに、多くの人々を虐げたベヘムドルグを燃やし尽くすアグニの炎。その光景を見た解放された奴隷たち、そして街を破壊されたベヘムドルグの人間はそれぞれ「神」「悪魔」とアグニを評するのでした。

アグニによって自由を取り戻すことができた人々は徒党を組み、炎の身体をもつアグニを信仰してその姿を探していました。一方アグニは氷の魔女を名乗る人物と遭遇し、目の前でユダの首をはねられてしまいます。なぜこの世界を寒くしたのかと問うアグニに、「できるから」と無慈悲な答えを残し氷の魔女は去って行きました。

トガタと合流する途中、アグニは炎で燃えてしまった街や亡骸を見て自分がやってしまった事の重大さに気づき罪悪感を抱きます。しかしトガタの待つ場所にたどり着くとそこには助けた人々がアグニを待っており、たちまち神として祀り上げられ、人々の希望となってしまうのでした。そして氷の魔女こと「スーリャ」がユダに語った、世界の破壊と創造の計画。それぞれが「生きる糧」を胸に抱き、物語は中盤を迎えます。

今まで自分を支えてくれたトガタの突然の失踪に戸惑うアグニは、トガタを追って言い争いになってしまします。自分の秘密を知られ激昂するトガタでしたが、アグニの説得に応じて和解し、生き延びていたというドマの元へ共に向かいました。小さな集落で子供たちに教養を与え生活していたドマは、虚構に踊らされていた自らの人生を二人に告白します。

子供たちに囲まれるドマの姿を見てアグニはその場から立ち去ることを決めますが、胸の底で燻っていた復讐の炎は消えておらず、憎しみがルナの姿となってアグニの前に現れました。混乱し燃え盛る炎に全身を包むアグニ。気が付くと周囲はアグニの炎によって焼き尽くされており、ショックを受けたアグニは自らの命を断とうとします。それを助けたトガタはたった一言「生きて」と言い残してこの世を去りました。

アグニはトガタの亡骸を抱えたまま、スーリャの計画によって「生命を吸い取る樹」となったユダの元へと辿り着きました。ドマへの復讐心や自分を導くトガタの存在など、生きる糧を失ったアグニにはもう妹と同じ顔をしたユダしか拠り所がありません。アグニは狂気ともいえる執着心を見せ樹からユダを切り離し、記憶を失ったユダをルナに仕立て上げてしまいました。

炎が消えたアグニがユダと共に迷い込んだのは、アグニが燃やしたベヘムドルグの生き残りが暮らす施設でした。アグニは自分たちを兄妹だと名乗り、ドマの教え子だったという少女たちと暮らすことになります。施設の用心棒役として受け入れられたアグニは偽りの自分を演じ続けますが、施設の少女の「ファイアパンチを殺して」という言葉によって我に返ったような表情を見せるのでした。

罪悪感に苦しみながらも、仲間たちに「ニーサン」と呼ばれ仮初めの10年間を施設で過ごしたアグニ。一方ユダを失ったスーリャは、アグニの信者をまとめ上げ祝福者としても成長を遂げたサンの元にいました。アグニからユダを奪い、もう一度「世界を暖かくする」計画を実行しようとするスーリャでしたが、計画を聞いていたネネトが先回りしてアグニにそのことを伝えます。

ユダを渡すことを拒んたアグニを、ネネトを含めたスーリャの手の物が襲撃します。激しい交戦の末ユダが奪われてしまい、襲撃者のひとりにとどめを刺そうとするアグニを止めたのは、かつて「ファイアパンチを殺してくれ」と頼んできた少女「テナ」でした。アグニが親の仇だと気づきながらも共に過ごした10年でアグニの幸せを願うようになったテナは、人殺しに戻って欲しくないと説得しようとします。

しかしテナの説得も虚しく、アグニはテナごと襲撃者を攻撃しようとします。そしてドマの炎の力を受け継いだテナの子供「イア」が母を助けようと放った炎に包まれながら、アグニは昔住んでいた村の司教やトガタとの会話を思い出します。「自分が何者であるかは他人との触れ合いによって評価され決められるものだ」と。再び消えない炎を纏ってファイアパンチとなったアグニは、施設を去りユダの元へと向かいました。

祝福者と呼ばれる存在、男尊女卑の思考で成り立つ国、過酷な世界で暮らす人々の信仰、そしてその裏で進む世界の破壊と創造の計画。様々なテーマを詰め込み、一人の復讐者を主人公に据えて続いてきたファイアパンチの物語。

ここまでアグニの歩んできた道筋を振り返ってみました。つかの間の幸せな生活を失い、もう一度復讐者であるファイアパンチの姿になったアグニはこの先いったいどうなるのでしょうか？ここからは最終回を含めた8巻の内容をネタバレ紹介し、考察していきます。

ユダを取り戻すためにスーリャの元へ急ぐアグニの前に立ちはだかるのは、自分を信仰している人間たちでした。祝福者による妨害をものともせず、圧倒的な力でそれをねじ伏せ進むアグニの前に一人の男性がひざまずいて手を合わせます。「アグニ様」と崇める男は、この先にいる家族を守るためもう進まないで欲しいと訴えますが、アグニは「俺はアグニじゃない」とそれを一蹴し男性を燃やしてしまいました。

狂信者と化したサンとアグニ教の仲間たちは、ネネトと共に村にやってきたユダを待ち受けていました。意見を違えたスーリャを殺害し、ユダを樹にして世界を暖かくするという計画をつぶしてこの場で燃やしてしまおうと呼びかけるサン。世界が寒いままでいたほうが炎の神であるアグニ様をより感じられるからだと訴えるサンに、ネネトは神の存在を否定しようと反論します。

アグニの存在をめぐって二人は激しく言い争います。しかしサンは、「信じたいものを信じたいように信じる」ネネトの考えを「信者たちと同じ」だと指摘し、実際に奇跡を目の当たりにした自分の言うことが正しいと考えを曲げませんでした。ユダが口論に割って入り、自分が人類のために樹になることを選ぶと主張しましたが、サンはそれを拒絶。ユダを手にかけようと迫ってきました。

ユダの危機に現れたアグニ。サンはアグニが現れたことを喜びますが、身体から顔まで全て炎に包まれた姿にはかつてのアグニの面影がなく戸惑います。「顔が違う」という理由だけでアグニを認めないサンと、妹のルナとして大切にしてきたユダを取り返しにきたアグニの激しい戦いが始まりました。

サンにとってアグニは「悪を倒す正義の味方」であり、ヒーロー、そして神様でなければなりません。それは自分勝手な妄想ですが、サンは心の底から「自分の中のアグニ」を信仰しているため、「悪役のような顔」をして戻ってきたアグニを攻撃し続けます。やがてサンの落雷のような強力な一撃を受け、アグニの顔の炎がなくなりました。

サンと少しだけ言葉を交わしたアグニでしたが結局分かり合うことはできず、サンからとどめの一撃を受け瀕死の状態になってしまいます。そのとき脳裏に浮かんだのはルナとして色んな笑顔を浮かべるユダの姿でした。「生きたい」と願ったアグニは炎の力を取り戻し、「主人公なら自分を助けて」と叫ぶサンの言葉にも応じることなく、サンを焼き尽くしてしまいました。

サンを倒した後もなおその場に立ちつくし、「誰かを殺さなければならない」という役目に縛られたままのアグニを、ユダは優しく抱きしめました。そして、これからの人生は他人がそうあって欲しいと願う誰でもなく、「貴方のなりたい貴方になって欲しい」という願いを込めてネネトにアグニを託します。そしてユダは「樹」となって長い眠りについたのでした。

そして80年後。ネネトの弟「サン」として長い月日を過ごしたアグニは、サンになる前の自分が何者であったのか臨終の間際のネネトに問いかけますが、答えは得られませんでした。何かを演じて生きることに憔悴したアグニは、滅びゆく地球での最後の時間に映画を観て過ごします。そこに映っていたのは、かつてファイアパンチだった自分の姿。色褪せ無音の映像の中で燃え盛る男の姿に、アグニは無意識に拳を握りしめていました。

樹となって他の星に根を伸ばし地球を暖め続けるユダは、宇宙空間で気の遠くなるほど長い時間をひとりで過ごしました。ただひたすら頭の中で考えるのは、「名前も忘れてしまった男の幸福を願って」役目を続けているということです。

数千年、数万年と経ち、とっくに地球が滅びてしまっても、ユダは宇宙に在り続けました。そしてとうとう数千万年後、永遠に終わりのない「無」という苦痛に耐えかねたユダは、ポツリと「誰か助けて…」と呟きます。

その声に呼応するようにユダの前に現れたのは、地球が滅びてから同じく一人で宇宙を漂っていたアグニでした。二人はそれぞれ、アグニに与えられた偽りの名前「ルナ」と、ユダに示唆された偽りの名前「サン」を名乗り、安心したような顔をして二人で眠りにつきます。

混沌としたジェットコースターのような内容から、アグニとユダ二人きりでエンディングを迎えるという静かな最終回になったファイアパンチ。この結末はいったい何を意味するのかよく分からなかったという感想もよく目にしますが、まずユダとアグニはこの後どうなったのか考察します。

最終回の最後のページは、アグニとユダが映画館のような場所にいるシーンになっています。このことから分かるのは、アグニとユダは再会したあと死んだのではないか？ということです。32話でアグニの「人は死んだらどこにいくのか？」という問いにトガタが「映画館」と答えるシーンを伏線とし、最終回のラストに繋げたと感じた読者が多かったようです。

ファイアパンチは様々なテーマが描かれている作品であり、どこに重きを置くかによって読後の感想や評価が分かれる作品となっています。今回は、本作の主人公アグニの人生を中心としてまとめてみます。旅の終わりまで何度も人間の生と死を目の当たりにしたアグニは、その重さに耐えきれず生きることを諦めようとしたり、自ら命を断とうとしたこともありました。

生きる目的を失い、罪悪感に苦しみ、「死んでくれ」と言われたこともあります。それでもアグニは生き続けました。アグニに「生きて」と願う人たちの声によって何度も窮地を乗り越えました。1話の「死にだけは抗うのです」という司祭の台詞のとおり、地球が滅んでもなお生き続けたアグニは最期にユダの「助けて」という声に応じ、孤独から救うことができたのです。

8巻でアグニが映画を観るシーンがありますが、これはトガタが劇中撮影したものだということが分かります。自身の死の間際、「(自分は)映画の主人公みたいに誰かを助けたかったんだ」と回想したトガタ。そのトガタがアグニを「主人公」として撮影した映画です。ファイアパンチだった頃の記憶がないアグニはこれを見て心が奮い立ち、直前に渡された「安楽死できる薬」を飲むことはありませんでした。

何もない宇宙を漂い続け助けを求めるユダを救ったアグニは、まさにトガタの理想とする「主人公」そのものと言えます。トガタも、アグニに「生きて」と告げたうちのひとりです。主人公としての「役割」を託し、アグニがそれを全うした最終回となり、トガタの「なぜアグニは生き続けなければならないのか？」という疑問に答えがでた形となりました。

最終回の難解な内容に「意味が分からなかった」という読者の感想も少なくありませんでしたが、ここではファイアパンチという作品を読み終えた人それぞれの結論と感想をまとめてみました。

こちらはファイアパンチをひとつの「愛」の物語だという読者の感想です。1話からもう一度読み込んでいくと、キャラクターの細かな心理描写や伏線に気づき、新しい感想が生まれるかもしれません。

終始予測のつかない展開を楽しんでいた読者は多いのではないでしょうか？衝撃的な1話から、数千万年後の宇宙まで広がった壮大で神話的なラストに感動したという感想です。

ファイアパンチは、台詞や言葉遊びも魅力のひとつであるという感想です。互いに罪と罰を背負った過去をもつアグニとユダは、サン(太陽)とルナ(月)となって再会を果たし、幸せな表情で眠りにつくことができました。

ファイアパンチのあらすじを振り返りながら最終回についての考察や感想をまとめてみましたが、いかがでしたか？迷い傷つきながらも最終回まで生きて役割を果たし、その命を終えたアグニ。

生への渇望や葛藤が残酷に、そしてときにはコミカルに描かれるこの作品には色んなテーマが盛り込まれています。何度読んでも新しい発見や感想が出てくるファイアパンチを、ぜひ全巻通して読んでみてください。