四丁目の夕日は最凶の鬱漫画？あらすじや結末をネタバレまとめ【山野一】

『四丁目の夕日』はいわゆる「鬱漫画」として有名なです。主人公・たけしがとにかく救われない悲惨なストーリーもさることながら、心を抉るようなグロテスクな描写が数多く散りばめられており、読後には何とも言えない強烈な後味の悪さが残る作品になっています。そんな作品を描いた山野一さんとは何者なのでしょうか？あらすじ・結末のネタバレと併せてご紹介します。

一部では有名な『四丁目の夕日』ですが、そもそもどんな漫画なのでしょうか？あらすじ・結末をネタバレ解説する前に、『四丁目の夕日』という作品の基本情報を簡単にご紹介します。

『四丁目の夕日』は、『月間漫画ガロ』という雑誌で1985年から1986年にかけて連載されていた漫画です。作者である山野一さんの初連載であり、初期の代表作と言われています。タイトルは実写化もされたかの有名な漫画『三丁目の夕日』をもじってつけられたものですが、ノスタルジックであたたかい雰囲気のパロディ元とは真逆の、昭和の工場労働者の不幸をグロテスクなタッチで描いた内容になっています。

そんな『四丁目の夕日』ですが、『ガロ』の発行元だった青林堂から出ていた単行本は既に絶版となり、現在は扶桑社の文庫版が販売されています。2015年には電子書籍版が発行され、一気に手に取りやすくなりました。

グロテスクな表現や悲惨な物語により、読んだ人によってはトラウマを植えつけられてしまうほど衝撃的な内容になっている『四丁目の夕日』。作者の山野一さんとは一体どんな人なのでしょうか？作品のあらすじや結末をネタバレ紹介する前に、『四丁目の夕日』連載当時の山野一さんの状況なども含めて作者情報をご紹介します。

山野一（やまのはじめ）さんは1961年生まれ、1983年『月刊漫画ガロ』12月号にて「ハピネスインビニール」という作品でデビューしました。主に社会の「底辺」に位置する人々を物語の中心に据え、差別や貧困、ドラッグや新興宗教のようなきわどいテーマを軸に地獄のような生活を描くなど、独特の作風を武器に活躍し続けたいわゆる「ガロ系」の漫画家です。

「ガロ系」とは、前述の漫画雑誌『月刊漫画ガロ』に由来する呼び名です。『ガロ』が流行にとらわれない独自の表現手法をもつやや「アングラ」な漫画作家たちを多く擁していたことから、現在では『ガロ』に掲載されていた人だけでなく、そのような作風を感じさせる人も含めて「ガロ系」と呼ばれています。

山野一さんはその中でもひときわ過激な作風で、強姦や殺人などをはじめ、数々の非道徳的な表現を用いて底辺社会の地獄を徹底的に描いたことから「鬼畜系特殊漫画家」とも称されています。今回紹介する『四丁目の夕日』の中にも、目を覆いたくなるようなグロテスクな描写などが多数含まれています。

1980年代になって日本経済がバブルに向かい始めると、山野一さんは生活的に困窮する人々を主要人物にした作品を多く発表するようになり、『四丁目の夕日』もその中のひとつでした。この頃は『ガロ』の部数が低迷して原稿料が支払われないこともあり、山野一さん自身も非常に苦しい生活を強いられていました。そういった実体験が多く反映されているのも『四丁目の夕日』の特徴です。

バブル社会の陰で貧困に苦しんでいた作者・山野一さんの実体験を下敷きにして描かれた『四丁目の夕日』。「鬱漫画」と名高い今作ですが、いったいどのような内容なのでしょうか？ここからはいよいよ『四丁目の夕日』のあらすじと結末をネタバレありで紹介していきます。

主人公の別所たけしは都内の進学校に通う高校三年生。印刷業を営むやや貧しい実家で、両親や弟妹と共に平凡に暮らしていました。成績は大変優秀で、恭子という恋人もおり、それなりに順風満帆な人生を送っていましたが、受験勉強でピリピリしていたたけしが、喫茶店で「二人で思い出をつくりたい」と切り出した恭子の願いを無下にしてしまい、別れを告げられたところから物語は動き出します。

たけしは飛び出していった恭子を追う際に暴走族ともめごとを起こし、囲まれてボコボコにされてしまいます。大企業の跡取り息子である友人・立花にお金の力で助けられなんとか家に帰り着きましたが、そこではさらに衝撃的な事件が待ち構えていました。母親がごみの焼却中にスプレー缶を爆発させ、全身に大けがを負ってしまったのです。莫大な治療費を工面せねばならず、別所家は経済的に苦しい状況へと陥ります。

それでも「どうしても子どもにはいい学校へ行ってほしい」という父の思いを受け、家族の協力のもとたけしは改めて大学受験を決意します。たけしをいい大学に行かせることを強く夢見ていた父も、さまざまな費用を捻出するため印刷所の仕事にますます精を出すのですが……それが新たな悲劇を生んでしまうのでした。

父が経営する印刷所はもともとかつかつの運営でした。そこに母の治療費、たけしのための学費、家族の生活費などのさまざまな金銭問題がのしかかります。足りないお金をなんとかしてまかなうため、父は仕事量を以前の三倍に増やし、朝な夕な身を粉にして印刷の仕事に勤しんでいました。しかしある日、過労がたたってふらついた拍子に輪転機に体を巻き込まれ、全身をぐちゃぐちゃに切り刻まれるという凄惨な死を迎えてしまいます。

そのうえ葬式中にサラ金業者が取り立てにやってきて、父が経営の為に多額の借金を背負っていたことが発覚。たけしは受験を諦め、実家の印刷業を継ぐことを決意します。しかし、以前たけしともめた暴走族の圧力もあって仕事がなくなった印刷所はあえなく倒産。たけしは退学して弟妹と共にボロアパートへ引っ越し、二人を養うために鉄工所の工員として働きはじめました。

鉄工所に入ったたけしですが、職場で陰湿ないじめを受けるようになり、慣れない労働や劣悪な環境での生活もあいまって徐々に精神を追い詰められていきます。友人の立花と再会してもやや異様な言動が目立つなど、母が健在、父が存命だった頃の姿は見る影もなくなってしまいました。それでも家族のために一生懸命働いた甲斐あって、貧しいながらもまだそれなりに平穏な暮らしを送ることができていたのですが……。

『四丁目の夕日』の、結末の手前部分までのネタバレあらすじはこのようになっています。とにかく不幸です。父やたけしは暮らしのためにただ一生懸命頑張っているだけなのですが、何かと裏目に出て不幸を引き起こしてしまいます。

恋人とのけんかという些細なできごとをきっかけに、平凡な家庭に育ち成績も優秀だったはずのたけしは坂を転がり落ちるようにどん底の生活へ追いやられてしまいました。ひどい目に遭った後に救いがなく、むしろさらにひどく惨たらしい出来事が次々起こるという「無間地獄」の構成が、『四丁目の夕日』が「鬱漫画」として知られる理由のひとつです。

ここまでは『四丁目の夕日』のおおまかなあらすじをネタバレ紹介してきました。あらすじだけでもとにかく主人公が大変な目に遭い続けていることがお分かりいただけると思います。結末はいったいどのようなものなのでしょうか？追い詰められたたけしが救われる日は来るのでしょうか？次は『四丁目の夕日』の衝撃的な結末について、ネタバレ込みで紹介していきます。

ある日、たけしたちがアパートの自室で弟の誕生日を祝うささやかなパーティーを行っていると、隣の部屋に住んでいた奇行の目立つ老人が突然押しかけてきて、妹と弟を斧で惨殺してしまいます。その事件でとうとう理性の糸が切れてしまったたけしは、老人から斧を奪って逆に彼を殺し、そのまま外へ繰り出して、奇声をあげながら道行く無関係な人まで次々と殺戮。不幸の連鎖の果てにたけしが行きついたのは、狂気の世界でした。

警察に捕まり、弟妹の殺害も含めてすべてたけしの仕業ということに。精神に異常をきたしていたことから「責任能力なし」と判断され精神病院へ送られたたけしは、実に30年にも渡る治療生活を送ることになります。家族のため、生きるためにつらい境遇に耐えながら働いていた彼の人生は最悪の形で台無しになってしまい、とうとう救われることはありませんでした。

しかし最後の最後、長い治療を経て社会復帰したたけしはトイレ清掃の職に就き、そこで楽しく会話できる同僚たちに出会うなど、あたりまえの平穏な生活を手に入れます。一度目の人生は落ちるところまで落ちて悲しい結末に終わってしまいましたが、二度目の人生を歩み出した彼の表情は明るいものでした。全てを失いゼロからの再出発を切ったことで、たけしにもようやく救いの兆しが見え始めたのかもしれません。

あらすじで紹介した通り悲惨な内容の『四丁目の夕日』ですが、その狂気的描写を際立たせるのが、リアルな筆致で描かれた登場人物たちの表情です。ここからは『四丁目の夕日』に登場する主なキャラクター達を紹介していきます。

都内の超進学校に通う受験生。工場を営む実家の経済状況を気遣って私立併願をやめるなど、家族思いで優しい気質のある少年でした。受験期に呼び出してきた恋人の恭子にきつく当たってしまったのも、家族のためにも「絶対に合格しなければならない」という強い思いから取った行動と言えます。

そんなほんの少し貧しい家に生まれただけの、ごく普通の高校生だったたけし。しかし立て続けに起こった不幸によって一気に人生のどん底まで転落し、最終的には家族を全員失ったうえに精神を病んでしまうなど、徹底的に不遇な目に遭い続けます。物語の結末に向かうにつれて追い詰められていく彼の表情の変化は必見です。

主人公の母、別所マス江さん。独立したての夫を支えながら三児を育てていましたが、事故で大やけどを負い「命をとりとめたのが不思議」と言われるような状態に。治療費を捻出するため、別所家は一丸となって苦しい生活を乗りこえる決意をしました。事故の原因は分別ミスによるスプレー缶の爆発……彼女のけがは後の別所家の運命を左右する事件ですが、きっかけはほんの些細な不注意でした。

28年間の下積みを終え、一年前に独立したばかりの「別所軽印刷」の社長。中卒で学歴がないために苦労した経験を持ち、それゆえ子どもたちには厳しく勉強させてきました。子どもをいい大学へ行かせるためにも、と独立に踏み切りましたが、その際怪しげな金融業者からお金を借りてしまい、のちの悲劇に繋がっています。彼が輪転機に巻き込まれて無くなってしまう場面は作中屈指の「トラウマシーン」として有名です。

中学生の妹・ひろこと、小学生の弟・ひでき。母がけがをしてしまった後は家事を請け負うなどして影ながら家庭を支えていました。弟のひできは貧乏を理由に学校でからかわれたりいじめられたりしていたようです。貧しい生活に耐えていた二人でしたが、ささやかな誕生日パーティーの最中に隣室の老人が斧を持って現れ、理不尽な死を迎えてしまいます。

大企業の跡取り息子の立花英一。たけしとは一緒に東大を目指して勉強した仲です。高校卒業後は慶応大学を首席で卒業し、親の跡を継いで華々しい人生を送っています。恵まれた境遇に生まれながらそれを鼻にかけない好青年でしたが、反面世の中をやや冷めたまなざしで見ているところも。スタートは共に成績優秀な同級生でありながら、次々不幸に見舞われどん底に落ちていくたけしとは対照的な存在です。

たけしの恋人だった女の子・恭子。受験で忙しいたけしを不良のたまり場のような喫茶店に呼び出して「思い出をつくりたい」と持ちかけるなど、やや配慮に欠ける面が目立ちます。たけしの人生が先行き不安になるとあっさり見切りをつけ、なんと立花に鞍替えしてしまいましたが、彼との関係もお金を使って切られ、最終的には一般的なサラリーマンと結婚し、一般的な主婦に落ち着きます。

この他にもすさんだ底辺労働者や奇行ばかりのアパートの住人など、『四丁目の夕日』の欝々とした展開を際立たせるようなキャラクターが多数登場します。彼らが持つ悪意や狂気のリアルさが、暗い作品内容をより印象深く引き立てています。

今回は『四丁目の夕日』のあらすじや結末をネタバレ紹介しました。グロテスクな描写が多く「鬱漫画」とも呼ばれる本作ですが、中には「落ち込んでいるときに読むと不思議と元気が出る」というような声もあります。「人生のどん底」が描かれている『四丁目の夕日』は確かに重い漫画ですが、徹底的な救いのなさをある意味すがすがしいと感じる人もいるようです。最後の最後にたけしが社会復帰できていることも一因かもしれません。

現在は手軽に購入できる電子書籍版も発行されていますので、興味がある方は実際に読んでみてはいかがでしょうか？あらすじや結末のネタバレだけでは感じられない衝撃はもちろん、陰惨さの中にある不思議な魅力も直に感じられるかもしれません。ただしグロテスクな描写が多数含まれていますので、苦手な方はくれぐれもご注意ください。